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23.煌めく笑み


安寧の暗闇から切り込むまばゆい光。たまらなくなり、まぶたが開く。まどろみの中、ぐるりと見渡す。


「ん……ここは?」

はめごろしの窓から差し込む朝日が、質素な造りの部屋と、質素なベッドを照らしている。

王都の宿じゃない?


「おはよう、ブラント」

「あれ、レナルド。なんでここにいるの?」

「寝ぼけているようだな」

呆れたようにため息をつくレナルド。ちょっと待てよ。思い出してきたぞ。


「市場から帰ってきて、神殿……そうだ、王都神殿」

「思い出したようで、何よりだ」


王都市場を巻き込んだ戦闘。

魔力暴走し、“氷炎の妖魔”となったクレアとセイディを、どうにか鎮めた。

その後、突如現れた宝玉。あれは呆然とするしか無かった。

誰もが動けない中、潜んでいたモーガンが現れた。その後宝玉を手にしゴーレム化。

死に目にあいながらも無事討伐。ゼン神官に救助された……救助?


いや俺達は、昨日の事件の重要参考人として、王都神殿に案内されていたんだった。現状は軟禁状態。部屋の表には見張りがいる。



「デライラ達はどうしてるかな。大分消耗していたようだけど」

「一晩寝れば、ある程度回復できる。それに食事も出るし、心配ないだろう」

考えながら話すレナルド。まるで自分に言い聞かせているようだ。


身分を考えれば、地方とは言え貴族。待遇もそれなりに良い方だろう。でも、これからどうなるかは、まったくわからない。

沈黙が流れる中、こんこんと、高く硬く響くノック音。


「ゼン神官がお呼びです。準備をお願いします」

胸がどくんと跳ね、顔が強張っていくのがわかる。

ざわついた気持ちを抑えながら。扉を開ける。



三人の神官に促され回廊を進むと、中央回廊に差し掛かった。そこには、見覚えのある姿があった。


「ブラントさん、レナルド様。おはようございます」

「おはようデライラ」

デライラの顔色は良く、魔力切れも解消されたようだ。


「ブラントがちゃんと起きてる!」

「珍しい事もあるのね」

大げさに驚くクレアと、静かに笑うセイディ。二人とも魔力が落ち着いたのか、見た目は人間の少女と変わらない。ただ、さすがにメイド服はなかったようで、白の神官衣を着ている。


心にあったよどみがほぐれ、じんわりと温かくなっていく。

本当に、良かった。


穏やかな空気が流れる中、一人の神官が口を開いた。


「これからゼン神官の執務室へ、ご案内致します」

淡々とした神官の言葉に、思わず背筋が伸びる。そうだ、みんなで合流して終わりじゃない。これからが本番だ。



中央回廊を渡り切ると、神官はいくつもある回廊を迷いなく進み、あれあれよという内に目的地に着いてしまった。

高位神官の執務室。重厚な扉を前に神官がノックする。


「入りなさい」

返される声に合わせ、扉がゆるりと開いていく。



「おはようございます、皆さん」

執務室の奥に座るゼン神官。凛と響く声に、どくんと胸が跳ねた。

案内の神官に促されるまま部屋へ入る。デスクを挟み横に並ぶと、ゼン神官が口を開いた。


「昨日は休めましたか?」

ゼン神官はぐるりと俺達の顔を見ると、そのまま言葉を続ける。


「では早速ですが、昨日王都市場で発生した事件の聞き取りを行います――本題に入る前に私から。本件に関しては、王都より私に一任されています」

「ほう……」

レナルドの声が漏れ出る。


「“宝玉”が絡んでいますから。王都神殿の神官として、レリクターとして適切に対処致します」

「なるほど」

「それにお伝えした通り、少なからず私も関与させられていますからね。王都軍には介入する余地はありません」

「確かに」

凄みのある笑みを浮かべるゼン神官。ひやりとした空気が流れ、背中に冷たいものが走る。なぜかレナルドは楽しそうだ。

クレアとセイディが暴走した原因は、王都軍兵士達だ。モーガンにそそのかされ実行した捕縛作戦。ゼン神官も誘われたようだけど、断っている。“介入させない”と言い切っている分、王都側では話が済んでいるのかもしれないな。


「ただ、全てを判断するには、いささか情報が足りません。詳しい事情をお聞かせ願います」

説明……誰がするんだ? 思わず皆で顔を見合わせてしまったけど、家格や実績を考慮すればレナルドしかいない。レナルドは察したように頷き、ゆっくりと口を開いた。


「では私から……ゼン神官からの要請もあったように、我々はまず市場に向かい――」

レナルドが代表し、順を追って話し始める。

合わせるようにゼン神官はペンを持ち、記録していく。


“氷炎の妖魔”と化したクレアとセイディを鎮めた事。

突如現れた宝玉の事。

そして、モーガンによる宝玉の奪取と、ゴーレム化。


余すことなく、詳らかになっていく。



「――以上だ」

「ありがとうございます。こちらで得ている情報との整合性もありますし、十分でしょう」

ゼン神官がそう呟くと、手が止まった。

並べられた書類を手に取り、一瞥する。

かさり、はらりと紙面が擦れる音が響く。

左右に流れる視線が止まり、ゆっくりと頷いた。


「では裁決を下します」

ひやりとした沈黙が流れる。

詰まる息、うるさい鼓動。

ゼン神官の口が開く。


「王都市場の戦闘行為による責は、神官モーガンにあり、その死を以て罰とします」

ゼン神官の視線がゆっくりと動く。

クレアとセイディを見ている?


「クレア殿、セイディ殿。あなた方の行為は、自身を守るためであったと理解できます。ただし、複数の王都市民に危害を加えた事は事実。それは罪となります」

いつになく沈んだ表情のクレアとセイディ。


「よってあなた達の身柄は、引き続き後見人の管理下に置きます。また、後見人には体制の強化を命じます」

レナルドの顔がぴくりと動く。


これがクレアとセイディの罰……なのか?

後見人はレナルドの事。要は、“これからは、しっかりと面倒みてね”という事だろうか。

巻き込まれた形の裁決に、さすがのレナルドも驚きを隠せない。それでもすぐに表情がやわらいでいく。


「……粛々と、承ります」

恭しく頭を垂れるレナルド。どこかほっとしたようにも見える。

ゼン神官も満足そうに頷いている。


「これで以上になります。お疲れ様でした」


張り詰めていた空気が、ほろりとほぐれていく。

完全にお咎めなしってわけじゃないけど、結果としては良かった。

これで、終わったんだな。


余韻に浸っていると、視界の端でデライラがゆっくりと手を上げた。


「あの、一つよろしいでしょうか」

「なんでしょうか」

ゼン神官は、片眉を上げながらデライラに視線を向ける。


「宝玉は、宝玉の安置は、完了されたのでしょうか」

「……まだしばらくかかると推測しています」

「できれば、私もお手伝いしたいのですが」

「構いませんが、よろしいのですか?」

ゼン神官の視線が、ちらりとレナルドに向く。


「本人たっての希望だからな。私が止める理由はない」

「レナルド様、ありがとうございます!」

デライラは、弾けるような声を上げる。

ふわりと浮かべた笑みは、差し込む日の光に映え、とても煌めいていた。



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