20.融ける力
がらがらと転がる石畳の欠片。からんと跳ねる露天の支柱。市場の残骸が反響してから少し、静寂が訪れる。
視界前方、この距離からでも見上げる程の巨体。人型のゴーレム……いや、ゴーレム化したモーガンが、壊滅した市場に佇んでいる。
「素晴らしいが、まだ馴染まないな」
金属のような外郭から聞こえるモーガンの声。曲げ伸ばしされる野太い四指。足踏みするたび容易く砕かれる地面。まるでウォーミングアップでもしているようだ。
これも、宝玉の力なのか? 以前に遭遇したゴーレムも、人と宝玉が鍵だったけど……
「どういうこと?……なんで、あんな形に……」
呟くようなセイディの声が嫌に響いた。
ゴーレム化したモーガンを挟んだ向こう側、歪んだ表情のセイディが見える。その隣には、青い顔をしたデライラと、眉間にシワを寄せたクレアがいる。珍しく押し黙っているけど、あの顔は怒り……それとも不快?
「火を受け入れ灰となれ――」
隣から聞こえてくるレナルドの祝詞。じりりと空気を焼く音と共に、一抱え程の火球が放たれる。
「がああああ!!!」
前方で赤色の光が瞬き、爆音が響く。
立ち昇る白煙にモーガンの絶叫が紛れる。
どろりと融け落ちるゴーレムの外郭――効いたのか?
「何を呆けている! 追撃しろ!」
「うわっ、わかった」
耳をつんざくレナルドの怒号。慌ててホルスターに手を伸ばす。
でもどこを狙う? 宝玉は、見えない……だったらモーガン自身。
「モーガン様!」
視線を向けた先、駆け寄るセス神官とミラ神官。
かまわず銃口を向けた白煙の中、ぎらりと光る瞳。
モーガンの声が聞こえた気がした。
「……ああ、熱いじゃないか、レナルド」
おもむろにゴーレムの指が広がり、掌に埋め込まれた宝玉が強烈な光を放つ。
「ぐああっ!!」
「きゃあ!!」
悲鳴を上げるセス神官とミラ神官。次の瞬間、どしゃりと脱力したように倒れる二人。
――何があった?
「やはり代替品は用意しておいて正解だった」
霞む白煙から聞こえる、モーガンの軽妙な声。
宝玉を起点に表面を走る光。
溶け崩れた外郭が、呼応するように修復していく。
「部下の魔力を、吸収したのか?」
愕然としたレナルドの声。
魔力の吸収だって? 魔力が枯渇すれば、魔法は使えなくなるが、それ以上失えば命にも関わる。セス神官とミラ神官は、未だ微動だにしないけど……ここからじゃよく見えない。
「デライラ?!」
「何してるの!?」
思考を遮るクレアとセイディの叫び声。向けた視線の先には、ゴーレムの方へ走り出すデライラの姿。
ホントに何してんの?!
「凍てつき結びつけ――」
デライラの祝詞に合わせ青い光が煌めき、彼女の小手にまとう氷塊――氷盾を展開している? それと彼女の向かう先には、横たわるセス神官とミラ神官。
まさか、二人を守る気か? ゴーレムとの距離は、そう遠くないぞ。
「レナルド、援護だ!」
「まったく無茶をする!」
ゴーレムに狙いを定め引き金を引く。同時に聞こえるレナルドの祝詞。
炎をまとった閃光が一直線の軌道を描き、ゴーレムに直撃する。
硬質な着弾音と、かき消される炎――効いていない? 表面が焦げただけだ。
ものともせず動き出すゴーレム。振りかぶる巨大な腕は、間違いなくデライラを狙っている――ヤバい!
響き渡る轟音。四散する氷片。
「デライラ!!」
きらきらと光を反射する霜の中、現れたのは氷塊?
……違う、“氷の大盾”だ。いつものより三倍はある。
おそらくデライラを起点に、セス神官とミラ神官まで、ぐるりと囲んでいるのだろう。
上空から霧のように降り注ぐ青い光。
その光は氷盾に触れると、高い音を立てながら同化していく。
留まり、凍てつき、厚みを増していく。
「ふう……世話が焼けるわね」
中空から聞こえるセイディの声。
「セイディさん……」
申し訳なさ気なデライラの声が、氷の大盾に反響して聞こえた。




