19.鋼と人
壊滅した市場に反響するレナルドの怒声。
意に介さず喜色を浮かべるモーガン。
ここぞというタイミングで現れ、宝玉を手にしている。
――一体どこから出てきた?
「モーガン様――」
どこでもない所から聞こえる声。
空間に現れる揺らめく姿。
次第にはっきりしてくる存在。
それは、モーガンの後方に控える、セス神官とミラ神官だ。
……氷属性の残渣――これは、隠蔽系の魔法?
目まぐるしく変わる状況の中、セス神官が言葉を続ける。
「こちらから姿を現す必要はあったのでしょうか」
「いけないな、セス。礼は顔を見ながらするものだろう」
嗜めるような口調のモーガン。だけど、口元はほくそ笑んだままだ。
ぎりりと歯ぎしりするように、レナルドが口を開く。
「……礼だと?」
「ああ、宝玉を得るには、強大な魔力の衝突が必要だった――ここまでのものは、未だかつてない。キミの“友人”は本当に優秀だな」
「貴様……」
今にも飛びかかりそうなレナルド――まずい!
思わず彼の服を掴んだ。
「っ! 何をする?」
「落ち着いて……相手は宝玉を持ってる」
俺達は奇しくも過去二回、宝玉と遭遇している――洞窟で遭遇したゴーレムと、狂人事件のクロード。どれも命がけの事件だったけど……“アレ”は、もっとヤバいとわかる。
「……そうだな」
意図を汲んでくれたのか、多少落ち着きを取り戻すレナルド。
でも、“アレ”はこのままにしておけないのも事実。意を決して、前方に視線を向ける。モーガン達の所までは結構ある。一足飛びでどうにかできる距離じゃない……どうする?
「なにがどうなってんの?」
市場に響くクレアの声。視界の端に見えるデライラ達の姿。モーガン達を挟んだ向こうにいる。どうやら彼女達も、こっちの異変に気づいたようだ。
みんなで協力すれば、数的有利――なんとかなるか?
思わぬチャンスに息を呑む。
現状を打破すべく思考していると、レナルドが口を開いた。
「それをどうするつもりだ?」
指差す先は、もちろん宝玉。
レナルドのいつもの声色。何か考えがあるのか? いつでも動けるように身を構える。
「有効活用させてもらうよ――私のためにね」
「させるか」
言葉を被せるように動くレナルド。土属性の光が煌めく。
「レナルド?!」
全っ然冷静じゃなかったよ、この人! いや、隙をつこうとしてるから逆に冷静なのか?
次の瞬間、地面が隆起し弾けるように突出する。
鋭利な土塊は勢いを増しながら前方へ一直線。
激しい衝突音。
四散する土の欠片。
覆うように舞い上がる土埃。
思いっきり命中した。回避も間に合わない一撃……でも、なんだ、この違和感。
――そうだ、セス神官とミラ神官だ。目の前にいる自分の上司が攻撃を受けたのに、平然としている。
次第に晴れる視界。
ざらりと現れたのは、無傷のモーガンだった。
「何っ!?」
目を見張るレナルド。
「ああ、残念だったな」
変わらない表情のモーガン。
手にしている宝玉から強烈な光が放たれている。
空間を伝う強大な魔力。
石畳が震え、地面が揺れる。
びりびりと肌に感じる圧力。
――なんだこれ?
呼応するかのように、市場に散らばる瓦礫が動き出す。
渦を巻くように吸い寄せられ、ごりごりと音を立てながら、転がり、すり動く。
まるで意思でも持っているかのように、中心へ――モーガンの下へ集まっていく。
「はははっ、これは面白い! 土と金の交わり――世の理をこの身にできるとは!」
巻き上がる魔力。
徐々にその存在は大きくなっていく。
姿も。
質量も。
ブラント「……冗談だろう?」
見上げた先に現れたのは、金属……いや、鋼をまとった人型のゴーレムだった。




