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17.ただいま


「アアアァァァ……」

「オオオォォォ……」

崩壊した市場中央から、歌うような声が響き渡る。ここからでも二人の激しい感情まで伝わってくる。


「怒っているのか?」

「……泣いているようにも聞こえます」

デライラの表情が、暗く沈んでいく。


ふと、今朝の光景が脳裏をよぎった。

市場で別れた二人の姿。

露天を前に楽しそうなクレアと真剣な表情のセイディ。


ただ買い物していただけなのにな。

怒りたくもなる。泣きたくもなる。

二人の気持ちを考えると、銃口を向ける事をためらう。

――でも、このままにはしておけない。


「今、迎えに行くからな」

意を決し踏み出す一歩。合わせるようにデライラが続く。



「アアァ……」

「オオォ……」

淀みなかった声が止み、表情が変わった。

憤怒に燃えるクレアと、悲哀に沈むセイディ。


胸がぎりりと締め付けられ、歩みが鈍る。


次の瞬間、視界が光に包まれる。揺らめく赤い魔力。

よぎる記憶。炎に焼かれた兵士と、氷塊に潰された兵士。

――これは、さっきの魔法?!

熱波がじわりじわりと、肌を伝ってくる。


「防ぎます!」

割り込むデライラの声。轟音が耳をつき、遅れる衝撃が肌を震わす。


「うっ!」

デライラの声が漏れる。氷盾は溶け割れ、裂け目から蒸気が漂う。


炎撃は凌いだけど、終わってない!

視線の端に見える、いくつもの氷塊。

鈍い風切り音を発しながら飛来してくる。


「まだだ!」

撃ち落とす?……いや、数が多い!


「任せろ」

背後から聞こえるレナルドの声。

放たれる土塊の弾幕。

とめどない破砕音と氷片が降り注ぐ。



「アアァ……!」

「オオォ……?」

クレアとセイディの動きが鈍り、表情が凪いでいく。


「ちょっとひるんでる?」

「好機だ。君たちは炎撃をいなし、距離を詰めるんだ――氷撃は私が抑える」

レナルドの声に合わせ、いくつもの土塊が宙に現れる。


デライラは頷くと、氷盾を解いた。

メイスを両手で持ち直し、祝詞を唱え始めた。


「凍てつき、結びつけ――」

ヘッドが徐々に凍りつき、濃密な冷気に包まれていく――接近戦に備えているな。


確かに決定打には、近づくしかない。


「了解」

魔棒を構え距離を測る……二人までは、結構あるな。

それにクレアとセイディの距離は寄り添うように近い。これから接近するにしても、引き離しておきたい。


「デライラ、クレアを誘い出そうと思うんだけど」

「どうやります?」

「そうだな……セイディ方向から回り込む」

「それは ……ふふ、スカーレリアの模擬戦を思い出します」

「その通り」

王都に来る前の事、クレアとセイディとの模擬戦。デライラと組めば勝てると思って、挑んだ作戦――その再現だ。いつものクレアなら、ほっとかれるのを嫌うはず。 


「誘いに乗ってくれるでしょうか?」

「ダメだったらレナルドがフォローしてくれる」

「まあ」

からからと笑うデライラ。

少し空気が和らいだ。それと、ほどよい緊張感。


「よし、走るぞ、デライラ!」

「はい!」



砕けた石畳。崩れた露天。壊滅し開けた市場。

並び佇むクレアとセイディを見据え、セイディ側に大きく回り込む。


響く二つの駆け足。速まる呼吸。

セイディの姿“だけ”見えてくる――あれ、クレアは?

胸がどくんと鳴る。呼吸が乱れる。


「アアァァ……」

左後方から歌うような声。

視界の端に見えるクレアの姿。


「いつの間に? ……でも、誘い出せたようだ」

赤い閃光が瞬き、放たれる複数の炎弾。

弧線を描き背後に降り注ぐ。


「やああ!」

デライラの声と共に、振り抜かれるメイス。

炎弾が冷気に飲み込まれ、白煙が揺れる。


「ブラントさん、行ってください!」

「頼んだ!」


熱風の残渣を背に感じながら、駆け上がる。

はっきりと見えてくるセイディの姿。

自然と高まる緊張感。

乱れる気持ちを抑え、前を見据える。



「やあ、セイディ」

思わず出た言葉に、セイディの表情が動く――今、笑った?


おもむろに差し出された両手。空間に出現する水礫。

細く鋭く形を変え、風切り音が迫ってくる。

――当たったら痛いじゃすまないな。


『させんよ』


レナルドの声が聞こえた気がした。

同時に飛来する土塊。水礫に衝突していく。


「っ!」

目を見張るセイディ。

鈍い衝撃音に包まれ、水礫が飛散し土埃が舞う。

視界が霞む中、ふわりとセイディが姿を隠す。


「逃さない!」

徐々におぼろげになるシルエット。

セイディに“見える”姿を目掛け、一気に詰め寄る。


走り抜けた先、直前に煌めく光。燃え盛るような魔力。

そこには、炎球を携えたクレアがいた。


「クレア?!」

視界の端、左後方に白煙が上がる一帯――デライラを巻いたのか?

クレアの口角が愉悦に上がる。


「随分と楽しそうだな――でも、周りをよく見たほうが良い」

「……?」

首をかしげるクレアの後方、デライラが躍り出てくる。


「はあああ!!!」

冷気をまとったメイスが、炎球を振り抜く。

爆音と共に蒸気が立ち昇る。


熱気にまみれる中、クレアを押しのけ、飛び出す。


「セイディ!」

「オオォ……!」

再展開される魔力――でも遅い! 勢いのまま魔棒を振り抜く。


霧散する魔力。青い光が四散する。


目を丸くするセイディ。

その表情に、もう悲しみは見えない。

次第に暴走していた水の魔力が鎮まっていく。




「……セイディ?」

手が届く距離。恐る恐る声をかけると、セイディが柔らかく笑った。


「ふふ、今日はわたし達の負けね」

「……薄氷の勝利だけどね」

レナルドのサポートありきだったしな。


「次は負けないわよ!」

「うわっと!」

後ろからクレアが飛び込んで来た。ふわりと浮遊しながらセイディの横に立つ。

鎮まった炎の魔力。クレアも落ち着いたようだ。


「無事で良かったです……」

二人に駆け寄り抱きつくデライラ。驚くクレアと、照れるセイディ。でもまんざらでもないのか、大人しくしている。



「まったく、手間のかかる使用人たちだな」

背後から聞こえるレナルドの声。


「レナルド!」

「ふんっ」

バツの悪い顔をするクレアとセイディ。

レナルドは呆れているようだけど、どことなく安心した表情をしている。



「ブラント、デライラ、よくやってくれた。ありがとう」

「なんだよ改まって。レナルドのサポートあればこそ、だよ」

「ふむ、そうだな。思い返せば少々無茶な作戦だったのではないか?」

「うっ……今、それ言う?」


レナルドはため息を一つつくと、改めて口を開いた。


「まあ、なにはともあれ、無事であった事を喜ぼう」


レナルドが二人に向き合う。



「クレア、セイディ――おかえり」



「……ただいま」

折り重なる二人の声は、とても心地よく耳に響いた。


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