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16.風のお迎え


回廊を足早に過ぎた先の大聖堂。避難してきた人々の叫喚で満たされていた。


「熱い、熱い熱いぃぃ!」

「感じない……俺の腕が、脚がなんも感じねぇよ……」

「なんであんなバケモノが市場なんかに……」


虚ろな目をした男性。土埃にまみれた母と子。痛みにのたうつ兵士達。

焦げ付いた臭いと、土に混ざった血の臭いが、つんと鼻につく。


「こんなに……たくさん」

野戦病院のような光景に息を呑む。

よく見ると、さっきまで図書館に居た神官も、忙しなく動いている。


「手伝います!」

呆けている俺とは違い、デライラは負傷者の下に向かった。

入れ替わるように若い神官がゼン神官の下にやってくる。


「ゼン様!」

「報告を」

「はい! 市民の皆様はほとんど軽症ですが、兵士さん達はかなり重症です」

「兵士の状態は?」

「火傷や凍傷が酷く、治癒を優先してます」

「自業自得ですね……ご苦労様、引き続き治療を施しなさい」

「はい!」

ゼン神官はため息を一つつき、レナルドの方を向いた。


「チェンバレン様、こちらは私共に任せてください」

「……手間を掛けて申し訳ない」

ゼン神官に会釈するレナルド。彼の厳しい視線が合い、どくんと胸が鳴る。


「ブラント、デライラ、行くぞ!」

「は、はい! ――後はお願いしますね」

神官の顔を魅せるデライラに対し、俺は頷くことしかできなかった。



✽  ✽  ✽



大聖堂を後にし、駆け出していく。

メインストリートは既に人気ひとけはなく、三つの足音しか聞こえない。


無機質な建造物を抜けると、次第に見えてくる崩れた露天。天幕は燃え、柱に霜が張っている。


市場に差し掛かると、目に付く複数の人影。いずれも金属鎧をまとっている。


「あれは王都軍兵士?」

「まだいたのか……」

吐き捨てるようなレナルドの呟き。

紛れるように野太い声が飛び交う。


「ば、バケモノめ!」

「手が足りん!“傷者”と“小僧共”はどこに行った!?」

「くそおおっ!!!」

駆られるように一人の兵士が飛び出した。


その先に感じる、威圧感――なんだ?



次の瞬間、目の前が光で満ちる。

揺らめく赤い光と、鋭い青い光。

遅れて聞こえる爆音。

熱風と冷気に包まれ、思わず足が止まる。


「ぐっ!?」


落ち着く光の中に見えるのは、倒れる兵士達。

ある者は、融けた鎧ごと焼かれ

ある者は、鎧ごと氷塊に潰され

どれも微動だにしない。


「何が起きたんだ?」

おもむろに進もうとした時、レナルドの声が聞こえた。


「ブラント、それ以上近づかない方が良い」

反射的に歩みが止まる。霜の張った石畳。露出する燃えた地面。

その中央に浮遊する二つの姿。


「……あれはもしかして」

「ああ、見つけたぞ」


前方から漂う熱。地を這う冷気。

空気を震わす圧力と、肌で感じる強大な魔力。


「アアアァァァ……」

「オオオォォォ……」


真っ赤に光る体と、フレアのように踊る髪。

氷塊で象られた体と、氷柱のように垂れる髪。


かろうじて保たれた姿――でも、二人だとわかる。



「クレア、セイディ……」

「どうしてこんな事に……」

悲鳴のようなデライラの声に、胸が痛む。


「以前と同様であれば、感情が溢れ、魔力暴走しているのだろう」

「きっかけはやっぱり王都軍?」

「ああ、過去の記憶の喚起。容易に想像がつく」

苛立ちを隠せない語気。レナルドは誤魔化すように言葉をつぐんだ。


魔族として王都軍に攻撃された、二人の過去。嫌な記憶が思い起こされても不思議じゃない。

でもレナルドは、そんな二人を鎮めたと言っていた。


「――レナルド、どうすれば良い?」


レナルドは思考を巡らせるように二人を見つめると、軽く微笑み口を開いた。


「そうだな、少々考えがある。まずは君たちに任せたい」

「……本気で言ってる?」

魔力の権化のような妖精達に、俺とデライラで立ち向かえと? デライラの顔も若干青い。


「私一人で対応しても良いが……加減はできんぞ?」

「うっ、わかったよ」

何気に放ったレナルドの言葉に、背中がぞくりと冷える。



「デライラ、やるしかないようだね」

「……ええ、お二人のためにも、全力を尽くします」

腰のホルスターから魔銃を引き抜き、呼吸を整える。

同時に聞こえる、デライラの祝詞。

美しい旋律に、胸が高鳴り、心が熱くなる。


「何、サポートは任せろ――準備は良いか?」

「いつでも」

「いい返事だ」

レナルドは柔らかな笑みを零しながら、ゆっくりと口を開いた。


「精霊よ、風の精霊よ……」

レナルドの顔の周りに、緑色の光が巡る。

巻き上げる風のように巡る魔力――あれは霊的存在のみ使える通信魔法だ。



「クレア、セイディ聞こえるか? 私だ、レナルドだ。ブラントもデライラもいる。皆で帰ろう」

レナルドの言葉が、すとんと胸に落ちた。


そうだ、二人を倒しに来たんじゃない――迎えに来たんだ。


「行こう、デライラ」

「はい!」


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