08.疑問から疑惑へ
「レナルド、お待たせしました」
所長命令とはいえ、結構放置してしまった。レナルドは軽くうなずくだけだ。機嫌は悪くなさそう。レナルドと一緒に捜索願の資料を確認する。
依頼者はこの街に住むキャシー・ホワイト。依頼者の恋人であるビリー・ウォーカーの捜索を依頼。行方不明になって丸二日。……今日で三日目か。飲まず食わずだったら、最悪の結果もありえるな。
「二日前の夜に依頼者の自宅で会ったきり行方不明のようだ」
「今わかる事は、それくらいですね」
もう少し細かい状況説明があれば、動きようがあるんだけどな。
「依頼者のキャシーさんに詳しい話を聞きに行きましょうか。最後に会った日にどんな会話をしたのか、捜索のヒントになると思います」
「……そうだな」
行方不明当日の状況を聞く事ができるれば、ビリー・ウォーカーの動向がはっきりしてくるはず。
それにしても、レナルドはやや不思議そうな顔でこちらを見ている。困惑しているような感じもする。
「どうかしました?」
「何がだ?」
「いえ、何か気になるような事でもあるのかと」
「……そうだな。君の事だが、どうも聞いた話と違うと思ってな」
俺の事? というより、ブラントの事か…… 聞いたって、誰から? 所長からか。なんて言われてたんだろう。あれか、甘々対応か? いや、それがブラントだってわかってるけど無理だから! なんだかまずい気がする。
「……どのように聞いていましたか?」
「端的に言えば問題児だ」
「うっ……」
ど直球ストレートなお答え。たとえブラントの事だとしても、今は俺がブラントみたいなものだから、他人事に感じない。
「だが、その評価は今までの言動と比べ、どうも合致しない。武器の講習についても嫌な顔一つせず、自ら進んで受けていたように見える」
レナルドの推理というか、推察が光る。鋭い。
「それに、私の機微を読み伺う対応。本当に聞いた者と同じ人物か、と」
「……えっと、負傷した事件をきっかけに反省している所で」
「そうだな。死を間近にし、態度を改めない者はいない。だが、それだけか?」
答えに詰まる。
“体はブラントだけど、中身は別の世界の人間です“
なんて、信じてもらえないだろうし。どうしよう。
「……ああ、すまない。気になると追及したくなる質でな。君を責めるつもりはない」
俺がどう答えるか迷っていると、察してくれたようだ。元々深く聞くつもりはなかったようだし。安心していいものなのか。
「ただ――」
レナルドはハッとし、口をつぐんだ。怖いもの見たさというやつだろうか。続きがあるのかと、恐る恐る聞いてみる。
「いや、なんでもない。こちらの事だ」
バツの悪そうな表情をしている。聞かない方が良さそう。これ以上はやぶ蛇だ。
ややぎこちないまま、依頼者であるキャシーの自宅へと向かう。