13.ざわつき
「朝日が痛い」
昨夜は無理やりベッドに入ったが、眠りは浅かった。日光がじりりと染みる。
朝食を済まし、今日も神殿へと向かう。
「さーって行くわよ、ブラント」
「いつまでぼーっとしてるの」
ふらふらと声のする方へ足が向かう。
クレアとセイディだな。遅れないようにしないと……ん?
「あれ、なんで二人が?」
「今日はわたし達も行くわよ!」
「はい?」
腕を組み胸を張るクレアと、無言のまま頷くセイディ。いつどうしてそうなった?
「デライラから聞いたわよ。あなた達、危ない事してるって話じゃない」
やれやれと言わんばかりのセイディ。そういえば昨夜、二人でデライラを囲んでいたな。
「わたし達がいれば、もう大丈夫よ!」
腰に手を当て息巻くクレア。
「レナルドは了承したの?」
「大丈夫よ!」
昨夜話した事を思い出すと、にわかに信じがたい。
クレアの自信を疑っていると、背後からひやりとした圧力を感じる。
「ダメだ」
レナルドの低い声。ちょっと怒ってる様子。
「なんでよ!」
反射的に怒声を向けるクレアと、眉間にシワをよせ無言で抗議するセイディ。
一瞬ぐっと詰まるレナルド。ため息をつきながら口を開く。
「神殿には、君たちの過去を知ってる人間が相当数いると思われる。トラブルになりかねないのは、わかるな?」
目を見開くクレアとセイディ。徐々に顔が暗くなってくる。
「……仕方ないわね」
ふんっと鼻を鳴らすクレア。なんとか納得してくれたみたいだ。一方セイディは、口を引き結び、じっと一点を見つめていた。
「セイディ?」
「……大丈夫よ、理解している」
気になって声をかけると、セイディの表情が徐々にふわりと緩んでいく。思う所はあるんだろうけど、わかってくれたようで良かった。レナルドもほっとした表情をしている。
出発前に少しごたついたけど、宿を後にする。
俺達は神殿へ、クレアとセイディは市場へと向かう。
陽が昇り始め、街全体が賑わいの色を帯びてきた。
柔らかな日差しが差し込む市場。
穏やかな空気にかかる活気のある声が、心地よく耳に響く。
「じゃあ、わたし達は買い物してくるわ」
「今日の食事も、楽しみにしておきなさい!」
きりっとした視線のセイディと、明るい声を上げるクレア。
「あとでね」
ほんわりと浮かぶ笑み。
ふわりと離れていく二人の姿から、なぜか目が離せない。
「ブラント、行くぞ」
「あ、今行く……」
思わずレナルドの方を向く。
振り返った市場には二人の姿は無く、すっかり溶け込んでいるようだった。
無機質な雑踏が耳に響く中、神殿へと歩みを進める。
落ち着いたメインストリート。参拝者並ぶ神殿広場。荘厳な大聖堂から地下訓練場へ下りる。階下に足音が響くと、粘りつくような複数の視線を感じる。既に神官、レリクター達の姿があった。
「相変わらず無粋な視線だな」
「でも、昨日とはまた違うような」
恐れ、警戒、期待――模擬戦が影響したかな。怯えているような感じもするけど。
訓練所中央にいたゼン神官がこちらに気づき、声をかけてくる。
「おはようございます。では、早速ですが始めましょうか」
今日はいよいよ集団戦闘。やっと王都召集の目的を達成させる事ができそうだ。ただ、いきなり実戦形式とはならず、ゼン神官による講義が始まった。
「――さて、少々休憩にしましょう」
三十分ほどの講義は終わり、めいめい自由にしている。
デライラは慣れていなかったのか座り込んでしまい、頭からは湯気が立っている。
「大丈夫?」
「なんとか……でも、覚えられたかと言うと不安です」
「それは僕も同じだよ。実際に動いて体で覚えるしかないんじゃないかな」
「はい……」
ふーっと息を吐き、遠くを見つめるデライラ。少し休ませてあげよう。
デライラから離れると、レナルドが不思議そうな顔で話しかけてきた。
「君はデライラほど大変そうじゃないな」
「それが、いくつか見た事あると思ってさ――元の世界の話だけどね」
「ほう、それは興味深い」
「僕もそう思う」
驚きながらも喜色に満ちるレナルドの表情。思わず俺も笑みが溢れる。
「そろそろ再開しましょう。皆さん、集まってください」
十分ほどの休憩を経て、ゼン神官が号令をかける。神官達が集まる中、違和感を覚える。なんか足りない気がする。
「セス神官とミラ神官が見当たらない?」
「何?」
ぐるりと見渡すレナルドの表情が、徐々に曇っていく。
「モーガンもいないな……」
モーガン神官まで? セス神官とミラ神官は彼の部下だと聞いた。三人まるっといない事ってあるのだろうか。
「ゼン神官なら、何か知ってるかな?」
レナルドが頷き、共にゼン神官の下へと向かう。
「ゼン神官、少し良いだろうか」
「なんでしょうか」
「今日はセス神官とミラ神官、あとモーガン神官を見ないようだが」
レナルドの問いにぐっと言葉を呑み込むゼン神官。
「……ああ、彼らは本日はお休みです」
「休みだと?」
「ええ、なんでも王都軍に用があるとか」
視線を下げたゼン神官の声は、いつもより小さく聞こえた。
「王都軍?」
驚きを隠せないレナルド。
軍所属と言えど、彼らは今は神官。有事でもないのに軍に何の用事が?
胸がざわつくき、心が落ち着かない。
思わずレナルドの顔を見ると、感情が抜け落ちているようだった。
「さあ、そろそろ始めますよ」
訓練再開を告げるゼン神官の声は、いつも以上に冷たく響いた。




