11.拭えない余韻
10/3 サブタイ変更しました。
「おっと……」
巻き付いていた圧力が失われる。脇から腕にかかっていた拘束がするりと急に消え、思わず足がもたつく。ゼン神官が魔法を解いたのか。
すっかり冷めた魔銃を収め、周囲を見渡す。どよめき、ざわつく訓練所。訝しげな表情と睨めつけた視線。あまり良い雰囲気では無い。ただその視線は俺だけでなく、セス神官にも注がれてる。
「二人とも、こちらへ」
ゼン神官のひやりとした声が響く。足取りが重い。
「熱くなるのは良いですが、加減を知りなさい」
「……申し訳ありません」
自然と頭が下がる。
ゼン神官はため息をつき、話を続ける。
「ブラント殿とデライラ神官の実力はわかりました。今日はもう下がりなさい」
「はい……」
ここは大人しく下がろう。
一礼し踵を返すと、気だるさが背中にのしかかる。帰宅の許可はちょうどよかったかもしれない。
ずるりと重い足を数歩運んだ時、背中からゼン神官の声が聞こえた。
「それとモーガン、こちらへ」
思わず歩みが止まる。
今なんて?
慌てて振り返ると、ゼン神官の下へ近づく一人の神官が見えた。
湿気でうねり肩まで伸びた髪。見た目の年齢を覆い隠すような色褪せた肌――以前見たモーガン神官で間違いないな。
気づいたら足を止めていた。“彼”がモーガンだと確認したかったのだろう。
その瞬間、モーガン神官と目があう。
窪んだ眼窩から、ぎょろりと覗く眼光。
胸が一つ跳ね、背筋に冷たいものが走る。
モーガン神官はため息をつき、覇気の無いしわがれた声を漏らした。
「やれやれ、なぜ私まで……」
「上役としての責務を果たしなさい――セスとミラもこちらへ」
眉間にシワを寄せ、苛立ちを隠せないゼン神官。なんだか珍しい。
呼ばれた二人は、当たり前のようにモーガン神官の後ろに付いている。
「……なんであの二人まで?」
「モーガンの部下だそうだ」
ふと出たつぶやきに答えたのは、レナルドだった。
「レナルド……」
「それよりも、模擬戦で何があった?」
ついさっきの出来事を思い出す。
我を忘れた魔力の奔流。寸前で止める事ができたのは、レナルドのおかげだ。顔がほてり、胸がつかえうまく言葉が出てこない。
「……その、デライラがピンチに見えて、加減が出来なかったんだと思う」
「ふむ」
なんとか絞り出した答えにレナルドは少し考え、視線を巡らす。その先には、こちらに向かってくるデライラの姿があった。なんだかしょぼくれている。どうしたんだ?
レナルドも彼女の様子に気づいたのか、心配そうに話しかける。
「デライラ、大丈夫か?」
「レナルド様……ミラ神官の治療を申し出たんですけど、断られてしまって」
ふとミラ神官の方を見ると、両腕の凍結はすっかりなくなっている。それを確認したのか、レナルドが頷いている。
「気に病む事はない。既に回復できているようだ」
ほっと胸をなでおろすデライラ。
一方、レナルドの顔つきがきりりと変わる。
「氷盾の効果は十分。だが、発動までが若干遅い。余裕があれば、出力の調整ができるようになるだろう」
「が、がんばります」
気合の入った顔をしているデライラを横目に、レナルドと目が合う。
「ブラント」
いつもより低く重い声が、嫌に響く。
「冷静な状況判断を心がけろ」
「うっ、わかってるよ」
じっとりとした視線が突き刺さる。
「……まあ、良いだろう。結果はどうあれ、二人とも実力は示せた。よくやった」
概ねレナルドの言う通りだとは思う。でも、“出来過ぎ”たような気がする。
デライラの危機を目にした時、確かに転生前の記憶が蘇った。
似たシチュエーションだったからか、混同したのだろうか。
全身を巡る力の奔流。必中の予見。
あれを再現できれば――
「ブラントさん?」
「おっと! デライラ……どうした?」
覗き込むように見つめるデライラ。
「いえ、難しい顔をされていたので」
「模擬戦の反省をしていただけだよ」
嘘は言ってない……けど、誤魔化しきれてない気もする。
「そうだ、ゼン神官からだけど、今日は宿に戻って良いみたいだよ」
顔を見合わせるレナルドとデライラ。
「……では戻ろうか」
「クレアさんとセイディさんも待ってますしね」
呆れ顔でため息をつく二人を横目に、気だるい足を宿に向けた。




