10.無意識の引き金
訓練所にむなしく響く銃声。五、六発魔力弾を撃ったが、セス神官に未だクリーンヒットはない。
彼は特段速くないけど、緩急をつけた動きと左右への振り分けで、狙いが定まらない。
それでも大分慣れてきた。動きを先読みして合わせる――ここだ!
白色の閃光と反響する銃声。
一直線の弾道と、セス神官の姿が重なる。
きらりと光る弧線。
霧散する魔力。
振り抜かれた片手剣。
「弾かれた、のか?」
セス神官が無表情のまま、じっとりとした視線を向けてくる。
「……見破られているようだな」
このままだとジリ貧だな。かと言って、どかんと大技狙うのもちょっと怖い。
「正攻法は無理。となると――」
近づく足音。迫る圧力。眼前を通り過ぎる剣閃。
「うわっ!?」
寸前で体を捻り、なんとか躱す。
転がるように距離を取ったけど、間合いまで二歩もない。
「ぐっ……!」
咄嗟に銃口を下げ、引き金を引く。
地を穿つ魔弾。隆起する土塊。
瞬間、鈍い衝突音が響く。
のけぞり、たたらを踏むセス神官。
「が、顔面直撃」
ちょっと予定外。土壁で妨害できればよかったんだけど、えぐいトラップになってしまった。
ゆるりとこちらを向くセス神官。そこには、変わらない無表情が張り付いていた。
「無傷かよ……」
偶然とはいえ、結構イイの入ったと思ったんだけど、どんだけ頑丈なんだ?
でも警戒しているのか、突っ込んでくる様子はない。
にじり寄るように距離を潰してくる。
数歩動いた時、視界に見えるのは、氷盾を構えたデライラの姿。
対峙するミラ神官の息は白く、両腕には霜が張り震えている。
猛攻を続けるどころか、動くこともままならないようだ。
デライラの方は決着かな?
俺も負けてられないな。
意を決して魔銃を構え狙った時、セス神官の視線が逸れた。
ミラ神官を見ている?
セス神官の表情が揺れる。
それは、戸惑いや焦り。
今まで張り付いていた、彼の無感情が失われていた。
「ミラ……」
かすかに聞こえるセス神官の声。
思わず息を呑み、引き金を引くことをためらう。
迷いが生じたその一瞬、セス神官が動いた。
地を蹴る音、接近する重圧。
一気に距離を詰められる。
「このっ!」
引き金を引く間もなく、超至近距離。
「ぐはっ!?」
腹にずんと響く重い衝撃。
……蹴られたのか?――それよりも、追撃が来る!
咄嗟に構えるも、足音が遠ざかる。
「……なんだ?」
正面を見ると、迷いなく走るセス神官の姿。
その先に見えるのは――デライラ。彼女は……気づいていない?
ぎらりと光る両刃が、“彼女”に迫る。
助けに……いや、声を――ダメだ、間に合わない!
――あれ、この状況、見た事あるな。
暴れ叫ぶ狂人。
無防備な“幼馴染”
ぎらりと光る凶刃が、“彼女”に迫る。
そうだ、“あの時”と同じだ。
彼女の前に割り込むしかなかった。
代わりに刺されるしかなかった。
彼女を助けたい一心だった。
でも今は違う。
ここからでも助ける方法が――この手にある。
グリップする手に力が入る。
今までにないほど、気持ちが高ぶる。
全身を巡る魔力が渦巻き、魔銃に収束する。
構えた魔銃は煌々と光り、熱を帯びてきた。
極まる集中力。
不思議と外す気がしない。
標的を狙い、引き金に指を――
「ブラント!!!」
耳に突き刺さるレナルドの声。
ぴたりと張り付いたように止まる指。
思考が晴れ、視界が開けていく。
「……あれ、俺?」
「そこまで!」
次いで、ゼン神官の声が訓練所に響き渡る。
「うおっ?!」
足元からうねるように突出する魔力。ずるりと全身に巻きつき、あっという間に身動きが取れなくなる――これは、木属性の魔力?
「っ……!?」
よく見るとセス神官も巻き取られている。
「二人共、死人を出す気ですか? これは訓練ですよ」
ゼン神官の呆れと怒りが混じったような声。
冷やりとした叱責に感情が凪いでいく。
魔弾に込められた魔力を解除する。
まばゆい光は徐々に消え、無機質なフォルムを取り戻していく。
ただ、魔銃の熱だけは、じわりと肌を灼くように残っていた。
「すみませんでした……」




