表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/88

09.軍に属する者たち


神殿地下訓練所で行われていた模擬戦は、デライラの対戦相手からの棄権で一旦終わった。

まあ、あれは仕方ない。氷塊が付与された木剣だもの。怪我では済まないだろう。


「よくやったな」

見学していたレナルドの声が近づく。少し肩を震わせている。


「ちょっと笑ってない?」

「仕方ないだろう。規格外が過ぎる」

規格外か。“魔法禁止”の事だろうな。


「やっぱりあの人達も強化魔法を?」

「ああ、もちろん。始めから使っていた」

「どうりで一撃が重いはずだよ」

デライラはまだわかってないようだったので説明すると、絶句していた。


「先の調査では実感がなかったかもしれないが、あの二人との……スカーレリアでの特訓は、君たちの力になっている」

レナルドは濁したけど、クレアとセイディとの事だ。本人達は遊んでいるつもりなんだろうけど、ほんとに大変だった。特に二人揃った時は、勝てる気がしない。

ふとデライラを見ると、遠い目をしている。彼女も妖精たちにしごかれた内の一人だ。


「ただ、あれが彼らの実力と思わないように」

「どういう事?」

「おそらくデライラは、木剣の使い方に違和感があったのではないか?」

驚きながら頷くデライラ。


「それは彼らも同じだ」

「あ……」

「得意な武器や環境、それに魔法。様々な要素を省いた結果が今の模擬戦だ。驕ることのないように」

「確かに。肝に銘じとくよ」

「よろしい」

デライラも真剣な顔で頷いている。

俺達を見て、満足そうに頷くレナルド。


レナルドと感想戦をしながら一段落していると、鋭く高めの声が訓練所に響いた。



「ゼン神官」

声のする方を見ると、三人の神官がゼン神官の下に集まっていた。


あれは確か、セス神官とミラ神官……その後ろには、顔合わせの時にも居た神官。

色褪せた肌。湿りうねる髪。ゆるりと上がる口角。


「モーガン……」

溢れ出るようなレナルドの声。あれが軍属神官モーガンか。

顔合わせの時も、セスとミラの後ろにいたけど……二人の神官も軍属ということか。



「なんですか、セス神官」

モーガンに気を取られている間に、セス神官とゼン神官が会話していた。


「ボク達も、彼らとの手合わせをお願いしたい」

ちらりとこちらを見るセス神官。


「今度は武器も魔法もありで、ね」

ミラ神官は無表情のまま、しれっとルールを追加した。


気がついたら、とんでもない会話がなされていた。武器も魔法もありの模擬戦? さすがに認められないだろうけど、嫌な予感しかしない。


「ふむ」

ゼン神官は顎に手を添え、ぐるりと参加者を見渡す。少しすると考えがまとまったのか、口を開いた。


「召集した意味を考えれば、緊張感のある訓練も必要といえますか……どうでしょうか」

ぎろりと視線を向けるゼン神官。まるで“逃げないよな?”と言われているようだ。


予感的中。断れるような空気でもないし、とりあえずデライラにも聞こうか。


「えっと、どうする? デライラ」

「……私はかまいません」

彼女の真剣な眼差しが向けられる。一見消極的な返事だけど、やる気に満ちている――これは腹をくくるしかないか。


「わかりました。やりましょう」

決断した視界の端に、不安そうなレナルドの顔が見えた。




訓練場中央、最初の位置は前方約5mにセス神官とミラ神官。デライラとは3m弱で横並びになっている。


「では、はじめてください」


ゼン神官による開始の合図と共に、俺は後方に距離を取る。デライラはその場に留まりメイスを構えた。


「凍てつき、結びつけ。停まり、止まれ――」

歌うようなデライラの祝詞。徐々に氷の魔力が高まり、周囲に冷気が漂い始める。


こちらの隊列は、デライラが前衛で俺が後衛だ。女性を前に出すのは気が引けるけど……俺がやる事は、彼女の準備が整うまでの援護と相手の観察だ。


移動しながら神官達に目をやる。セス神官は片手剣、ミラ神官は短剣の二刀流か。二人とも前衛のようだけど、どう動く?


途端、ミラ神官が前傾姿勢になり、弾けるように飛び出した。

一直線に駆ける方向――狙いはデライラか!

射撃、援護……いや、間に合わない! 前方で硬質な衝撃音が響く。


「デライラ!」

「大丈夫です! 捉えました」

力強いデライラの声。左小手に展開されたのは、魔法の氷塊――それは氷の大盾となって、ミラ神官の特攻を防いだ。


一安心――と思った矢先、激しい斬撃音に包まれる。


「わわっ!?」

驚くデライラに、間髪入れず続く二撃、三撃。

四方八方に飛散する氷片。

連撃で氷盾が削られる。

防戦一方のデライラ。無表情のまま追い詰めていくミラ神官。


大盾相手にお構い無しかよ、援護……って、近過ぎて、狙いが定まらない!


ふと視界に見える人影。

デライラの左手側面に接近するセス神官。


追撃か!そうはさせない。


狙い定め引き金を引く。

白色の閃光に続く発砲音。

身じろぐセス神官。いや、もう遅い。

直後、着弾寸前、魔弾が霧散した。


「弾いたのか……?」

振り抜かれた片手剣。消散する魔力。

よく見えなかったけど、状況証拠が斬ったと言っている。


セス神官が無表情のままこちらを向く。

焦りや驚きはない様子。

じっとりとした視線だけが俺を捉えている。

ちょっと怖い。


でも、注意を向ける事ができた。これで二対二。ようやくスタートラインに立てたな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ