08.最強の木剣
「おおらあぁっ!!!」
豪傑のような神官の咆哮。襲いかかる荒々しい一撃。軌道を読み受け切る。乾いた木の音が響き渡る……んんっ、重い!
ここは神殿の地下にある訓練所。本日いよいよ訓練初日と思っていたけど、俺とデライラの実力を見るため、模擬戦闘が行われる事になった。
『まずは近接戦闘技術です。そのため、“攻撃魔法の使用”は禁止します』
ゼン神官の言葉を思い出す。目的を考えれば当然だけど、“魔法禁止”か。厄介なルールだ。
「おらおら、どうしたどうしたぁ!」
口角を上げ獰猛な笑みを浮かべる神官。右腕を振りかぶり、叩きつけるように何度も打ち込んでくる。
動きは速くない。受けきれるけど、打撃がぎしりと骨まで伝わる。訓練用の木剣とは言え、使い手によっては十分凶器になるということか……“魔法”さえ使えれば、なんとかなるんだけど。
「まだまだ!」
数回打ち込まれた所で、大分慣れてきた。冷静に軌道を読み、受けて、そらし、躱していく。
スカーレリアでも散々やってきた近接模擬戦。あの妖精達に比べたら、まだついていける。
「ぐっ! この野郎!」
神官らしからぬ怒声が飛ぶ。動きが雑になってきた。もしかして、焦っているのか?
「それまで」
ゼン神官から制止がかかる。実力を見定めたという合図だ。
相手を倒せはしなかったけど、俺は本来魔銃を使った中衛距離だ。及第点じゃないだろうか。
「ちっ!」
対戦相手の神官が舌打ちし、睨みつけてきた。益々神官っぽくはない……もしかしなくても、あれが軍属神官なのだろう。
「ブラントさん、おつかれ様でした」
「ありがとう。さすがレリクター、凄い力だったよ」
本当に肉体だけの力とは思えないほどの威力だった。木剣を握っていた手がまだ痺れている。
「次はデライラの番だね」
「はい、近接はクレアさんとも特訓しましたし、結果を出してきます」
デライラも妖精たちと訓練した一人だ。圧倒される事はないだろう。
「不甲斐ないですね」
「うるせぇ。てめぇの相手は女じゃねぇか」
対戦相手は、ごつい大男神官から中肉中背の男性神官に替わるようだ。軽い言い合いをしてる所を見ると、デライラの対戦相手も軍属神官かな。
「デライラ、気を付けて」
デライラは軽く頷き、木剣を握りながら前へ出た。
「――そこまで」
三分ほど打ち合った結果、どちらも決め手にかけて終わった。
デライラの動きは悪くなかった。というより、防御面はいつもより良いくらいだ。回避も冴えていた。でも、攻撃の命中が定まっていなかった。
「おつかれ様」
「ブラントさん」
不完全燃焼というデライラの表情。彼女も手応えはなかったようだ。
「攻撃の時、いつもと違う様子だったけど、どうしたの?」
「……木剣が軽くて、体が思うように動きませんでした」
「ああ、普段はメイスだもね」
こくりと頷くデライラ。悔しそうな表情。俺が見てても実力の半分も出せていない。
かといって、用意された木剣はどれも同じ。複数本持つわけにもいかないし……いや、待てよ、もしかしたら――
「ゼン神官、強化魔法は使っても大丈夫ですか?」
「はい? それはどういうことですか」
「“魔法の使用”は禁止すると言われましたが、強化魔法も対象なのかと」
「では、今まで強化魔法は使っていなかったと?」
「えっ、そうですけど」
デライラと顔を見合わせると、彼女も頷いている。
周囲が少々ざわつく。訝しげな視線が集まってくる。なんだなんだ?
「……強化魔法は禁止されていません」
「わかりました、ありがとうございます」
微妙に“間”があったけど、なんだろう。
というか、強化魔法使って良いなら、さっき使えばよかったな。
それならもう少しまともな戦闘にって……あれ、待てよ
“攻撃魔法”は禁止と言ってなかったか?
もしかして、対戦相手は強化魔法を使っていたのか?
「ブラントさん?」
デライラに伝えるか……いや、記憶が曖昧だ。余計な事は言わないでおこう。
「大丈夫だよデライラ――それより、ちょっと提案があるんだ」
きょとんとした顔で首をかしげるデライラ。これが上手くいけば、“木剣軽い問題”は解決できるはず。
「木剣の先端だけでいいから、氷属性で強化できないかな」
「氷属性の魔法を付与する感じですね……やってみます」
木剣から冷気が流れ出る。パキリと高い音が鳴り、木剣の先端にはびっしりと氷が張り付いている。ずしりと重そうだ。
「これはいいですね! 少し重くなりました……ちょっと待ってください。ということは――」
凍りついた木剣が白く光る。なるほど、金属性の魔法で氷を増強したのか。張り付いた氷はより重厚な氷塊に育った。
「ちょうど良い重さです。ふふっ」
嬉しそうに棒を振るデライラ。ぶおんと空気を叩く鈍い音が響く。
これは想像以上の出来だ。
当たったらすげぇ痛いだろうな。
「もう一戦お願いします」
笑顔のデライラが再戦を申し込む。
対戦相手の神官を見ると、顔が青ざめている。彼は若干震えながら口を開いた。
「……すみません、棄権します」
「ええっ?!」
デライラだけが、とてつもなく驚いている。
彼女が握っているのは木剣だけど、その先端には超重量級の氷塊――重さは凶器そのものだよな。




