06.一喜一憂
「疲れたな……」
ベッドに体を預けるが、眠れそうにない。疲労感でいっぱいなんだけど、嫌に冴えてしまっている。
レナルドの報告が終わった後、誰からともなく就寝の挨拶を済ませ、それぞれあてがわれた自室に下がっていた。
「軍属神官、モーガンか……」
レナルドの元同僚で、マッドサイエンティストとの噂。聞いた限りでは、あまりお近づきにはなりたくない。
それに王都軍と関係者という事だ。思わぬ所でデライラの地雷だったみたいだけど、彼だけで済まない気がしている。顔合わせの時に見た“イカツイ神官”。彼らも軍属神官なのかもしれない。
そう言えば王都に来る前、父上は召集の事を“越権”とも表現していた。もしかしたら、この召集は王都軍が絡んでいるのか? そうだとしたら――
「とんだ政治劇に巻き込まれたな」
ぼやきつつまぶたを閉じた時、ノックが鳴った。
思わず体を起こし、返事をすると、レナルドの声が返ってきた。
「私だ、少し良いか?」
「どうぞ」
レナルドの入室を促し、サイドテーブルを挟んで対面に座る。
「すまないな、休む前に」
「寝付けなかったし、ちょうどいいさ」
「食後にしては、なかなか重い話だったからな」
苦笑いを浮かべるレナルド。
「確かに。デライラも、思う所があったようだし」
「そうだな……全てを管理統合しようとするのは、人の性のようなものだ。そう否定できる事じゃない――彼女は、良い神官だ」
レナルドの口元が軽く緩む。
よくわからなかったけど、彼が嬉しそうで何よりだ。
デライラは俺も驚いた。レリクター調査を経て、結構話すようにはなったけど、神官としての一面は知らなかった。王都市場で、妖精達とはしゃいでいた姿からも想像できない。
「そう言えば、クレアとセイディはどうしてるんだい?」
「ぐっすりだ」
「ぶっ、主人を置いて熟睡か!――市場で大分はしゃいでたからな」
思わず吹き出してしまった。レナルドも肩を震わせている。
軽やかな笑い声が部屋に響いた後、沈黙が流れる。
「どうした、まだ何かあるの?」
「……そうだな、本題に入ろうか」
レナルドの低い声。緊張する空気。自然と背筋が伸びる。
「ゼン神官に会った時、一つ頼み事をしてきた――王都神殿にある神話の閲覧許可だ」
「スカーレリアでも見せてもらったけど、それとは別なの?」
「王都は様々な情報が集まる。それは神殿も例外ではない」
「なるほど、さすが国家の中心地ということか」
「そうだ。だからこそ、王都ならば見つかるかもしれない――転移術式の手がかりがな」
「あ……」
「以前、約束しただろう?」
ニヤリと口角を上げるレナルド。
言葉に詰まる。
忘れていたわけではない。
覚えてくれた事が嬉しい。
「ブラント――君は今もなお、元の世界に帰りたいと願っているのか?」
「そう、だと思う……王都に来てからなんだけど、昔を――元の世界の事を思い出したんだ」
「故郷を想起したのか」
「そうだね。スカーレリアより都会な街並みが似ていたのかもしれない」
大空にそびえるビル街
息が詰まる人波と雑踏
駅前に鎮座するキッチンカー
俺の手を引く幼馴染
きらりとした“あいつ”の顔
顔が綻んでいくのがわかる。
「君の意思は伝わった――元の世界に帰れるといいな」
朗らかな笑みを浮かべるレナルド。
だけど、どこか悲しげに見えた。
ふとした考えがよぎる。
もし元の世界に帰る事ができたら、この世界と離れる事になる。
それは、レナルド達との別れを意味する。
「……そうだね」
ずきりと胸が痛む。
「そろそろお暇しよう。明日も早い」
レナルドが扉に向かうのを、目で追う事しかできない。
「レナルド、おやすみ」
「ああ、おやすみ」




