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04.見えない不安

ちょっといつもより長めです。



王都メインストリートは、スカーレリアの比ではないほど人が行き交っていた。人間はもちろん、竜精や猫精など多種多様な種族が見られる。それでも入り乱れる様子や、騒々しさは感じられない。

秩序ある人並みに沿って歩いていると、遠目から大聖堂の外観が見えてきた。その時、ふとレナルドが口を開いた。


「二人は私の使用人だ。大人しくしているように」

諭すような口調。二人の妖精は、“はーい”と気のない返事をしてる。

宿屋で留守番させればよかったんだろうけど、王都行きに着いて来た事も考えれば、無理だろうな。

でも、ここから行く先は王都神殿。ある程度我慢してもらわないと困る。レナルドもいつになく不安な顔をしている。


「そんなに心配しなくても大丈夫だよね、二人とも」

にっこりと笑みを浮かべる二人……うーん、大丈夫だろうか。フォローしたつもりだったけど、残念ながらレナルドの表情は変わらないまま、大聖堂は否応なしに近づいてくる。



「これは……大きいな」

大空にそびえ立つ大聖堂。随所に施された緻密な彫刻。陽光に照らされ、光と影のコントラストを描き、荘厳さが一層引き立っている。

大聖堂前には、整然と並んだ参拝者達。音も立てず静々と正門へ向かっていた。その様子をデライラが目を丸くして見ている。


「街中も多くの人がいましたけど、参拝する方も凄い人数ですね」

「ああ、実際に目にすると壮観だよ」

王都の人口は約五万人。スカーレリアのおおよそ五倍。レナルドに教わった時にはピンと来なかったけど、納得いく光景だ。


「こちらです」

男性神官に促されるまま、大勢の参拝者を横目に大聖堂へ入って行く。

なんというVIP待遇。騒がれはしないが、心なしか視線が痛い。



大聖堂から繋がる回廊を抜け、神殿奥へと進む。規模は違うけど、スカーレリアの神殿と似ている――行く先は、高位神官の執務室かな。重厚な扉を前に男性神官がノックする。


「スカーレリアの方々をお連れしました」

「入りなさい」

扉越しに聞こえる冷ややかな声。威圧感のある、命令し慣れた感じ。思い出しただけでぞくりとする――ゼン神官との再会だ。



「ようこそ、おいでくださいました」

ことさら丁寧な挨拶。もちろん視線は英雄レナルドに。相変わらずだな。


「今回はお招き頂き、ありがとうございます。ゼン神官」

ちょっと食い気味に挨拶し、意識をこちらに向ける。


「この機会で、しっかりと鍛え直したいと思います」

ゼン神官と目が合う。彼は一拍置き口を開いた。


「ブラント殿……英雄の隣に立つならば、当然の事です。是非ともこの機会に精進なさってださい」

「は、はい」

決意表明のつもりだったけど、“何を今更”と言わんばかりの視線が痛い。


ゼン神官のため息が嫌に響いて聞こえる。

彼の視線が俺から外れ、デライラと挨拶を交わしている。

その後視線を巡らすと、ぴたりと止まった。ゼン神官の顔が若干こわばっているようだけど――クレアとセイディを見ている?


「……ああ、まさかご存じだったとは」

ささやくようなレナルドの声。ゼン神官と見合わせ、苦笑している。


「“私達”の制御下にあるので、ご心配なく」

「……チェンバレン様が、そうおっしゃるのであれば」

ゼン神官は咳払いをすると、男性神官の方を向いた。


「皆を会議室に集めなさい」

「かしこまりました」

男性神官が部屋を出た後、ゼン神官が体をこちらに向け、口を開く。


「別室にて、訓練参加者達を紹介致します」




ゼン神官の執務室から出て案内された場所は、会議室というより大広間だった。数十人は余裕で入れるだろう。


「どれだけ沢山の方がいらっしゃるのでしょうか」

「参加者はレリクターだろうから、王都とはいえそんなにいないと思うけど……」

神殿の秘匿部隊による訓練と考えれば少数精鋭。でも街行く人々や、参拝者の数を見た後だと、わからなくなってくる。


少しすると、神官達がぞろぞろと集まってきた。

この人たち全員レリクターなのか……デライラが若干怯えているように見える。


「随分とイカツイ神官もいるんだな」

入室してくる中から、目立つ神官が数人。白の神官衣が似合わないほど、筋肉質でがっちりした体格。メイナード神官を思い出すけど、何か感じが違う。


「神官というより軍人のようだが……まさかな」

レナルドも違和感があったようだ。よく見ると、頬には引き攣れや抉るような傷痕があった。なるほど、軍人か。



「揃ったようですね。では早速ですが、こちらから――」


ずらりと並んだ神官達は総勢20名超。到底全員覚えられるはずもない。


――でも、印象的だった二人がいる。


「次にセスと、ミラです。彼らは近接を得意とし、特に金属性の身体強化に長け――」


ゼン神官からの紹介が終わると、二人は軽く礼をする。変わった所はないけど、無表情……というより、感情を失ったような無機質な顔をしている。



「なんで、ここにいる……」

かすかに聞こえるレナルドの声。すぐにつぐんだけど、動揺を隠せない様子。


どうしたんだろう。知り合いでもいたのだろうか。

レナルドの視線を追うと、セスとミラ。その後方に、ひときわ目立つ男性神官が一人。

色あせた肌に肩まで伸びた髪。手入れしていないのか、湿ったようにうねっている。そのせいか見た目の年齢がわからない。


目が離せずにいると、彼が口角を上げた。まるで声が聞こえてくるような、不適な笑み。

ぞくりとする背筋。咄嗟に視線を逸らしてしまった。


それから数人の紹介があったが、男性神官が気になり、あまり頭に入らなかった。



「――これで全員だな。では、明日の朝から合同訓練を開始する。以上、解散」

ゼン神官の号令で、神官達は退室していく。


「ゼン神官。明日から、よろしくお願いします」

神官達に続いて帰るわけにもいかない。改めて挨拶をと思ったら、ゼン神官から冷ややかな視線を向けられる。


「ブラント殿……顔合わせはともかくとして、訓練初日から気もそぞろでは困りますよ」

「うっ、気をつけます」

バレてた……さすが、ゼン神官。明日こそ注意されないよう気をつけなければ。そう心にだけ誓って、王都神殿を後にする。




大聖堂を出たメインストリート。結構な時間が経っていた。それでも行き交う人々は減った様子はない。流れに逆らわないよう宿を目指す。


今日は神官達を紹介されただけだったけど、疲労感を感じる。

それに年齢不詳のあの神官。どうしても気になる。


「レナルド、一つ聞いてもいいかい」

「なんだ、改まって」

「紹介された王都の神官達なんだけど、知り合いでもいたのかなって」

「……っ!」

言葉に詰まり足を止めるレナルド。そんなに驚く事なのか。

レナルドが答えずにいると、デライラが思い出したかのように口を開く。


「そう言えば、チェンバレン様は王都にもいらした事があると、父から聞きましたけど……どの方でしょうか」

「ほら、セス神官とミラ神官の後ろにいた……男性の神官だよ」

端的に伝えてみたけど、デライラは首をかしげるだけだった。まあ結構な人数がいたし、覚えてないのも無理はないか。

レナルドがため息をつき、口を開いた。


「……全く、君の観察力には敵わないな――そうだな、君たちには話しておこうか」

宿に向かう道すがら、雑踏に紛れつつレナルドは話を続ける。



「知っての通り、王都軍は私の古巣だ。魔術部隊と魔術研究を兼任していた」

「じゃあ、あの神官は王都軍の?」

「そうだ。彼の名はモーガン。私が知る限りでは、研究部所属だ」

「軍関係者がなんで神殿に?」

「考えてみたが検討もつかない。私が軍を去ってから、何があったのか――」


レナルドは記憶を巡るように考え込むと、何か思い出したように口を開いた。


「そう言えば、彼には悪い噂があったな……」

「それは?」

思わず反射的に聞いてしまった。レナルドもためらいつつも答える。


「人を人と思わぬ研究――それは、非人道的だとも、囁かれていた」

「まさか……」

「ああ、にわかには信じられない話だった。だが、真実だったとしたら――軍を追放されても不思議はない」


一時の沈黙を挟み、レナルドが口を開く。


「手間だが、確かめた方が良いだろうな」

意を決したような表情。


「君たちは先に宿に戻ってくれ」

「え、ちょっと、レナルド!」

「心配するな。ゼン神官に会ってくるだけだ」

そのまま振り返る事なく、神殿へ戻るレナルドの背中が遠ざかっていく。


追いかけようか迷っていると、ぐいっと腕を引かれる。なんだ?


「さあ、ブラント。お目付け役がいなくなったわよ!」

「せっかくだし、お言葉に甘えましょう」

にんまりとした笑顔のクレアと、きらりと微笑むセイディ。


「うわっ!」

「きゃあ!」

デライラまで巻き込み、二人に引っ張られる。


なぜか抗えない、浮ついた気持ち。

レナルドの姿はもう見えない。


彼ならきっと大丈夫だ。

本当に?


拭えない一抹の不安は、楽しい日常で覆い隠されたようだった。


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