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幕間.交渉(レナルド視点)

8/31(日)レナルドの内省と独白を加筆修正しました。


本日の巡回が終わり、ブラントと別れ自宅に戻るが、気が晴れない。こんなに憂鬱な帰宅は、今まであっただろうか。それもこの曇天のせいだと思いたい。


「王都か……人の都合などお構い無しなのは、相変わらずだ」

誰もいない馬車の中。思わず毒を吐く。


発端はあの手紙のせいだ。大層な建前を並べ立ててはいるが、何か裏があるとしか思えない。神殿のレリクターから治安所職員へ。本来であれば、非常識この上ない。


「まあこちらも、せいぜい利用させてもらおう」

先の調査の事と、今後の事を考えれば戦力強化は願ってもない事。ブラントもやる気に満ちている。得られるものは大きいだろう。


……それに王都は様々な知識と膨大な情報が集約する地。

戦術だけじゃない。魔術書や研究書。そして、神話――


宝玉の事が――ブラントがこの世界に転移した方法が、わかるかもしれない。


「いずれにしろ、好都合だ」




「ん……降っていたのか」

馬車を降りると、ぬかるむ地面を踏み、跳ねた泥が膝下を汚した。ふと見上げると、灰色がかった空が、静かに肩を濡らしていた。


「さて、もう一仕事だな」

王都への苛立ちはある程度落ち着いた。しかし、まだ気持ちは晴れない。本番はこれからだ――あの二人をどう説得したものか。



「戻ったぞ」

無駄に広い屋敷に響く声。少ししてから二人の妖精が浮遊しながら現れた。


「遅いじゃない、レナルド」

「食事の用意はできてるわ」

二人に促されるまま、食堂に移動する……着替えたかったんだが。


席につくと、素材そのものを活かした料理が並んでいた。軽く炙っただけの肉。野菜と果物とナッツ類――ブラント達に合わせた、ソースや香辛料をふんだんに使った食事もいいが、やはり私はこちらが好みだ。



「二人共、話がある」

食事を済ました後、片付けもある程度落ち着いたあたりで声をかける。

無邪気に返事をするクレア。一方、セイディは反応するも無言になる。感づいたのか、警戒しているようだ。


「今日、王都から手紙が届いた。またしばらく家を空ける事になるんだが――」

「じゃあ、わたし達も急いで準備しなきゃだね!」

言い終わる前に、クレアが割り込んできた。

それに、なんだ。何を言った?


「すまんが、よく聞こえなかったんだが……」

「私達も付いて行くって言ったのよ」

表情を変えず、冷ややかな声のセイディ。先程のクレアの発言は、どうやら聞き間違えではなかったようだ。


「それはどういう――」

なんとか理由を聞き出そうとした時、食い気味でクレアが話を続ける。


「だって、セイディと二人だけなんて、退屈なんですもの。体を動かしたいわ」

「失礼な物言いだけど、同意するわ」

「やっぱりブラントと遊んだ方が楽しいもの!」

「そうね。動きも良くなってるし、私たちのおかげかしら?」

「きっとそうよ! ブラントも喜んでいるはずだわ!」

「間違いないわね、ふふふ」


これ以上無い説得力。


というのも、先の調査が終わった翌日、休みをもらったはずのブラントが訪ねてきた。特訓相手でもあった、クレアとセイディを置いて調査へ行った事を気にしていたようだ。

しかし、その優しさが二人の鬱憤を呼び覚ました。暇を持て余した妖精達の勢いは凄まじく、端から見て同情を禁じえなかった。そのせいか、デライラまで来ていた事に気づかず、彼女も巻き込まれる事になった。

終わったのは日も沈み始めた頃だった。止めようとしたが止まらなかった。なんとか回復役として参加する許可を得たが――二人とも、よく耐え抜いたと思う。おそらく、先の調査前より強くなっているだろう。



たった二日空けただけであの惨状。今度の王都行きは、少なくとも五日はかかるだろう。

そう考えると、この二人を置いていくのは、かなりまずいのでは?


――いや、待て。落ち着け。 絆されるな。まだ何かあるはずだ。


「……王都は人族――特に人間が多いが、それでもいいのか?」

二人にとって、“人間”は好意的な存在ではない。過去の記憶を刺激する……あまり褒められたやり方ではないが――


「あら、レナルドが一緒なんでしょう? だったら安心よ!」

「ええ、“あの時”と変わらないわ」

さも当然のように即答する二人。


「そうきたか」

昔を思い出す。二人が人間に害されていた“あの時”――確かに助けたのは私だったな。

呆れたような、嬉しいような複雑な感情が交わる。


まとまらない思考の中、二人はお構い無しに盛り上がっている。

“どんな服で行く”とか、“持ち込む保存食をどうする”とか、はしゃぐのもいいが、出発日はまだ先だぞ。


「いっそブラントもまとめて、お世話してあげるわ」

「セイディ、それ良い考えだわ!だったらデライラも入れてあげなくちゃ」

「もちろんよ!」



“うふふ”と可愛らしい笑い声が響く。

もうこうなってしまっては、私に止める術はないのだろう。


「……ほどほどにな」


せめてもの抵抗として二人に贈った言葉は、無駄に広い屋敷に虚しくかき消されていった。



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