21.命じるモノ
まばゆい閃光と共に、一帯に響き渡る爆発音。遅れて感じる肌を焼くような熱風。爆風が晴れると顕になる、黒焦げに横たわる四足の獣が十数体……でもまだ残っている。爆心地の影から、ぞろぞろと姿を現す、狼型の魔物――ベルファ。
「グルルルぅ……」
「ガフッ……ガァフッ」
ベルファ達に勢いはない。ただ、逃げる様子も無ければ、混乱も見えない。3体でまとまり、互いに一定の距離を保ちながら、にじり寄ってくる。視線を外さず、こちらを伺うように。
「あんな魔法を受けて、やけに落ち着いている。それに……見られている?」
知性の低い魔物とは思えない、嫌な視線――上空を旋回し、ぎょろりとした目で見下ろす、オウグルを思い出す。
俺の呟きにレナルドが頷き、口を開く。
「統率の取れた動き――まさに軍隊だな。あのオウグルも含めてな」
「魔物が……軍隊?」
「あれは偵察か先遣隊だと、私は考えている」
レナルドは強い口調で話を続ける。
「逃げたオウグルが戻ってきた。その直後に現れたベルファの群れと“魔族”――偶然とは思えない」
思わず息を呑む。もしレナルドの予測が正しかったら、ベルファだけで終わらないのか……
「ウぉオオぅオオオ!!!」
太く強く響き渡る咆哮。共鳴するように、ベルファ群れは遠吠えで応える。まるで絶対的強者に従うように。
ひりつく空気。高まる緊張。殺意のこもった視線を感じる。
「来るぞ! 踏ん張れよ、お前ら!」
メイナード神官が喚声を上げる。視線の先には、駆け出したベルファの群れ。唸り声を上げながら、一気に迫ってくる。
「あれがベルファ……」
思ったよりでかい。大型犬より二周り以上はありそうだ。
「うおっ」
ぶるりと体が震える……武者震い? しっかりと前を見ろ!――ベルファは、すぐそこだ。腰のホルスターに手をかけ、魔銃を構える。
あちらこちらで響く衝撃音。前衛がベルファの巨体を弾き、押し返す。しかし間髪入れず、襲いかかってくる。
「ぐっ……!」
野生の暴力と途切れない攻撃が、技を凌駕し前衛がよろめいた。ぬらりと光る牙が迫る――まずい!
「おおおっ!」
メイナード神官の雄叫びに、目を奪われる。
一筋の剣閃がぎらりと光り、血潮が吹き出す。ベルファの巨体は2つに分かれ、力なく倒れた。まさに一刀両断。
「怯むな!」
「おおっ!」
前衛の士気が高まる。しかし、相手は大勢。一人に対して3頭を相手にしている状態。突進を受け止めつつ、威嚇し戦線を維持している――が、分が悪過ぎる。
そう思った時、2体ほど前衛を抜け、中衛に差し掛かる。
「放て!」
「ギャうぅッ?!」
「ガうぅッ!?」
アレグラ神官の声に次いで、複数の風切り音。巨体に深く刺さる幾本もの矢。ベルファは悲鳴を上げ、勢いを失う。
「はあぁっ!」
重く鈍い破砕音。動きが止まったベルファに、容赦なく振り下ろされたメイス――あれは、デライラ。戦闘前はガチガチに緊張してたのに、今は微塵も感じない。
――負けていられないな。
一呼吸置くと、握ったグリップが汗まみれになっているのに気づく。何もしていないのにな。ちょっとおかしい。
「笑ってる場合じゃないな」
狙いを定め、引き金を引く。
白色に輝く弾丸が一筋の軌跡を描き、ベルファの頭部を貫いた。
戦闘開始からしばらくして、ベルファの攻撃が緩む。既に十体以上は倒している。
最初こそ混乱していたけど、今は役割分担ができている。前衛で戦線を維持し、抜け出した敵は中衛が対応。後衛は回復と支援魔法で援護している。
「――大分減ったかな」
「そのようだが、気を抜きすぎるなよ――ブラント殿。開戦時のように、狼狽えていられては困る」
ゼン神官の冷たい視線が突き刺さる。
「うっ……気をつけます」
視界の端、肩を竦めるレナルドが見える。フォローはされないようだ。
でも確かに気は抜けない。既に十数体の死骸が転がっているけど、終わったわけじゃない。最初に見た以上の数がいたようだ。だけど、今は前線に留まり膠着状態になっている。
「グるるルル……」
「ガフッガふっ」
残ったベルファは十体もいない。でも襲ってくるわけでもなく、一定の距離を保ちながら、こちらの前衛を威嚇し続けている。
「なんなんですか……こいつら」
「来ないならこっちから!」
苛立ちを隠せない前衛が動こうとする。
「戦線を乱すな!」
「……っ!」
メイナード神官の怒号が響く。
前衛の疲労感が強い。魔法で回復されているけど、精神的疲労は簡単に癒せないのだろう。早く終わらせようと、気が急いているみたいだ。
「攻めて来るわけでもなく、引くわけでもない……待っている、のか?」
かろうじて聞こえるレナルドの呟き。冷静に状況を把握しているようだ――でも、待ってるって、何を?
「警戒!」
メイナード神官の声と共に現れる一体のベルファ――だけど、でかい。通常のベルファよりも、さらに大きい。
そいつはゆるりと上体を起こすと、後ろ足で立ち、顔を上げた。
「ウぉオオぅオオオ!!!」
耳をつんざく咆哮。共鳴するベルファ達。
共に解き放たれた、強大な魔力。
圧倒的な力を誇示し、ベルファ達を従わせるその姿――あれは、ただの魔物じゃない。
あれは、魔物を統べるモノ――魔族だ。




