20.ケタが違う
キャンプ地南方――まばらにも轟音を上げながら、こちらに迫る複数の存在。ここにいる全員が、その姿を捉え始めている。
「……感知できなかった?」
カミール神官の声に焦りが混じる。振り払うかのように腕を広げ、両手から青い光を放った。次の瞬間、強く輝き発散されるように、南方へと一気に広がっていった。
薄く引き伸ばされた魔力――攻撃系ではない?
「カミール神官、今のは?」
「ちょっと調べ物」
カミール神官はそれ以上答えず、魔力の強弱をつけながら、数回魔法を放った。その様子は探知機のようにも見える――もしかして感知系の魔法なのだろうか。
そういえば、トラップとオウグルの襲撃は、彼が事前に察知していた。でも今回は……気づけなかったのか?
そう時間が経たない内に、大まかな姿が見えてきた。
躍動感あふれる四肢の走り。風に波打つ毛並み。むき出しの牙から、荒い息づかいが聞こえるようだ。
「まだ遠いけど……あれは、狼?」
「“ベルファ”――見た目は狼のようだが、体躯も大きく凶暴な魔物だ」
険しい表情をするレナルドに続いて、カミール神官が南方を向いたまま口を開く。
「それだけじゃない。“強い個体”がいる」
やっぱりあの魔法は感知系。だからこそわかった情報なのだろう。
「カミール神官、なぜ接近するまで気づけなかった」
ゼン神官の問いに、やや時間を置いてカミール神官が答える。
「……魔力を秘匿する技法を使っている」
「なんだと?」
カミール神官の見立てに、さすがのゼン神官も驚きを隠せない様子。
魔物といえば獣のようなもの。そんな技術が使えるなんて……にわかには信じられない。俺も思わず声が出る。
「魔物に……そんな事が?」
ぐるりとこちらを向くカミール神官。フード隠れた顔が、より一層暗く見える。
「“強い個体”がいると言ったが――あれは“魔族”だ」
一帯に緊張が走る。
魔族――古の大戦で人族と争った存在。まさかその生き残りが?
「各自――戦闘準備だ」
ゼン神官の低い声が、重く冷たく響き渡る。神官達は静かに頷き移動し、態勢を整えていく。
迫りくる脅威。押し寄せる駆け足。伝わる振動。
空気が張り詰める。
「――警戒!」
メイナード神官の号令が響く中、前衛の従者達――5名が盾を構える。淀みなく漂う白色の光――硬化魔法が施され、守りの陣形が強化されていく。
その中にデライラもいる。眉間に深いシワを刻みながら、メイスを握りしめている。
「デライラ、緊張してる?」
「ブラントさん……そうみたいです」
声をかけてみたけど、デライラの顔からこわばりが取れない。
「メイナード神官もいるし、後ろには僕とレナルドもいる。もう少し力抜いた方がいいと思うよ」
「わかってはいますけど……ブラントさんは、なんでそんなに落ち着いているんですか?」
「僕も緊張しているけど――クレアとセイディほどは強くないだろうな、と」
「それは……確かに」
デライラから笑みが溢れる。後ろの方からレナルドの笑い声も聞こえる。
「でも油断せずに行こう」
「はい」
デライラの緊張がほぐれたようで何よりだ。
なんだかんだ言って、俺は実戦経験済み。慣れはしないけど、適度な緊張感がある。
それに今回は優秀な仲間がたくさんいる。中衛は俺とレナルド。そしてアレグラ神官と従者達の計5名の編成だ。
「あっつい!」
位置についた時、思わず叫んでしまうほど、背中で感じる高温と真っ赤な光。なんだ……この熱は?
「火を受け入れ灰となれ――」
振り向くと、ゼン神官が両手を広げ、祝詞を唱えていた。圧倒される強大な魔力。紅蓮に燃えたぎる光球――まるで太陽のよう……まさか、初っ端から“コレ”を打ち込むのか?
「土を肥やす礎となれ――世の理へ、還れ」
上空に放たれる煌々と燃え盛る巨大な魔力。
「ぐアアぁッ?!!」
軌道上にいたオウグルを巻き込み、放物線を描きながら、魔物の集団へと向かっていく。
「獣風情に、行儀よく待ってやる必要もないだろう」
淡々としたゼン神官の言葉に、恐怖を覚える。
「豪快だな!」
レナルドは嬉しそうな声を上げながら右腕を振る。複数の土塊が空中に展開され、上空に打ち上げられた。土塊は巨大な光球を貫き、燃え上がる塊となって魔物達に降り注がれた――まるで火山弾のようだ。
「……ケタが違い過ぎる」
思わず漏れた言葉は、着弾した爆発音と、魔物達の叫喚にかき消されていった。




