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19.黒煙


「――では各々、キャンプ地に戻り次第、帰還の準備に取り掛かるように」


ゼン神官の号令の下、それぞれが動き出す。

あの後の話し合いの結果、帰還する事になった。遺物を発見し回収できた事、オウグルという脅威を発見できた事は、それなりの成果だという判断だ。


「カミール神官、異存はないか?」

「……ああ、理屈はわかっている」


声から不満が滲み出るカミール神官。彼は調査続行を望んでいた。ただゼン神官は戦力の観点でも、危険と判断していた。

俺も同意だ。またオウグルなんかに襲われたらと思うと――もう少し対空に寄せた編成であれば、調査続行はできたと思うけど。



「火を受け入れ灰になり――土を肥やす礎となれ――世の理に還れ」


詠唱のような、祝詞のような声が響く。赤い光をまとい、火属性の魔法を放つ神官達。その先には、オウグルの死骸が積まれていた。黒煙が立ち上り、肉の焼ける臭いが漂う。それは食用ではない、野性味溢れた異臭でしかない。


「……すごい臭いだ」

「仕方がない。死骸を放置すれば、他の獣が寄ってくる」


しかめた顔をしながら答えるレナルド。やはり臭いらしい。


「この臭いに誘われて来ないのかな」

「炭化した肉を食す獣は、私は知らない」


気がつくと死骸は真っ黒な灰になっていた。骨の形がかろうじて分かるくらいだ。途端、鈍い衝撃音が響く。デライラが振り下ろすメイスに合わせ、炭化した骨が粉々になっていく。


「デライラ……」


なんというか――凄い光景だ。一見普通の女の子なんだけど、鈍器を持って淡々と骨を砕いている。どうも見慣れない。

その後、手の空いた神官も参加し、全てのオウグルは土に還った。


「徹底しているな」

「ああ、死は新たな災いをもたらす事もある。油断はできない」


重く聞こえるレナルドの言葉。実際に起こっている事だと、嫌でもわかってしまう。ゲームのように倒したら消えるわけじゃない。




「――では各自、帰還の準備に取りかかれ」


あれからしばらく古戦場を片付け、キャンプ地に戻ってきた。そしてゼン神官号令の下、帰還準備に取り掛かっていた。火元を消し、各々テントを片付けていく。


「実際一泊しかしてないけど、濃い一日だった」

「時間は関係ない。だが、君たちにはいい経験になったのではないか」


レナルドが頷きながら答え、俺からデライラへ視線が変わっていく。


「そうだね。それに早く終わって良かったよ。遅くなったら、クレアとセイディに何を言われるか」

「確かにそうだな」


軽やかに笑うレナルド。つられたのか、デライラまで笑っている。

穏やかな空気が流れる。トラップとオウグルの襲撃――予想外の事も起きたけど、大事にならず本当によかった。




「グアアッ」



頭上から聞こえる奇妙な音。

それは聞き覚えのある鳴き声。


「……なんでオウグルが……ってあれは――逃げた一羽?」


上空を旋回するオウグル。よく見ると、その巨躯には横断するように露出した鳥肌――間違いない。アレグラ神官の矢で削がれた所だ。


でもなんで戻ってきた? 一羽だけで、何ができる。

そう思った時、キャンプ地南方から音が押し寄せてくる。明らかにこちらに迫ってくる。地面から伝わる振動は空気をも震わせ、徐々に大きくなっていく。


神官達も気づきはじめ、皆の注意が南方へ向いて行く。



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