16.異変
「では、聞き取りはここまでだ。これから現場へと向かい、他のレリクターと合流する」
ゼン神官の号令の下、俺達は現場――トラップのあった古戦場へと向かう。
トラップは遺物と断定されていて、今頃デライラが封印に取り掛かっている。メイナード神官とアレグラ神官達は、その護衛についている。
キャンプ地を出ると、やや傾いた太陽が視界に入る。テントから出たての目によく染みる。
「うおっと!」
ぼんやりと空を眺めていると、誰かに後ろから押しのけられた――カミール神官だ。フードを深くかぶった姿が、古戦場の方を向く。
「――何か、来る」
低く、重く響く声。さっきまでの飄々とした感じはどこにもない。
カミール神官はそのまま踵を返し、テント内に戻った――もしかして、ゼン神官に報告を?
視界の端、隣にいるレナルドも怪訝な顔で空を見つめている。
「どうしたんだ?」
「古戦場の上空だ――何かが旋回している。見えないか?」
「……空を飛んでるなら、鳥じゃないのか?」
目を凝らしてみると、はっきりしない――けど、“何か”いる。
「……確かめに行こう」
静かに頷くレナルド。その表情は険しい。
嫌な予感が背筋を冷やす。現場に向かう足取りは、自然と早くなっていく。
* * *
「……うっ、この臭い」
「急ぐぞ、ブラント」
古戦場に近づくにつれ、鼻にまとわりつく血の臭い。響く喚声と鈍い衝撃音。戦闘中なのは明らかだ。
「グアァッ」
「ゴアアッ」
不気味な鳴き声が、あちらこちらから聞こえる。上空を旋回する、十数羽の――巨大な鳥?
その一団から一羽飛び出し、地上へ急降下する。その先にいるのは、神官――レリクター達だ。
「うおおらっ!」
メイナード神官の咆哮が響く。大盾を構え、突っ込んできた巨鳥を受け止める。
鈍い衝撃音と漏れ出る叫喚。弾ける鮮血と宙に舞う羽根。まるでバードストライクのようだ。
「やああ!」
一方で、アレグラ神官は長弓を構え、次々と巨鳥を仕留めている。
風を切り裂く鋭い軌跡が、巨軀を貫く。遅れて吹き出す血しぶきを撒き散らしながら、ゆるりと地面に叩きつけられる。
その従者達も弓で援護しているが、絶命には至っていない様子。だけど――
「そっちいったよ!」
「了解!」
巨鳥を丁寧に撃ち落とし、地上で待ち受ける神官達がトドメをさしている。急造チームではあるけど、やはり精鋭部隊。連携はとれているようだ。巨鳥の数は、順調に減っていった。
「メイナード神官、無事ですか?!」
「おお、ブラント、来たか!」
ようやく神官達と合流することができた時、巨鳥の数は大きく減り、その攻撃はおさまりつつあった。
ぐるりと神官達を見渡すと、返り血や抜けた羽で汚れているけど、負傷者はいないようだ。
「みなさん、無事でなによりです」
「ああ、それに連携も素晴らしかった」
英雄レナルドの言葉に、安心する神官達。中には照れくさそうにしている神官もいる。
戦闘直後とは思えない、柔らかな空気が流れる――が、ぞくりと背筋がざわつく。
嫌な視線を感じる……なんだ? 見上げた所に、まだ残る三羽の巨鳥が旋回している。ぎょろりとした目玉が、こちらを見下ろしていた。
「あの鳥は一体……」
「あれは“オウグル”鳥型の魔物さ」
鋭い視線を上空に向けているアレグラ神官。
「獰猛だけど、賢い魔物ではない……でもさっき奴らは、違った」
「どう違ったんですか?」
「明確な目的があるようだったよ――そう、デライラを狙っていた」
息を呑む面々。メイナード神官も深く頷いている。他の神官達からも、異論はない。
魔物がレリクターを、デライラを狙う? そんな事あるのか?
「……その話、詳しく聞かせてください」




