15.誘爆
トラップの爆破を確認して少し、ほぐれるように消えていく魔法障壁。充満していた爆煙が解放されていく。カミール神官は無事なのか?
「……なんだあれ?」
漂う煙の中から見え隠れする紫色の魔力――水の魔法色? 次第に晴れていく視界の中、現れたのは人間大の塊。まるで卵のような楕円形をしている。
呆然と見ていると、その塊は徐々に消え、カミール神官が現れた。どうやら無事のようだ。
「ふう」
「カミール様! また無茶なさって……」
従者達がカミール神官に駆け寄る。
「無茶ではないぞ。しっかりと防げたじゃないか」
「そういう事ではありません! もっとご自分の立場を考えてください」
「……わかってるよ」
心配してるようだけど、無事を確認しているようには見えない。カミール神官の能力の高さに、絶対の信頼があるということか?
「大丈夫ですか?」
「ああ、ブラント。あの程度なら問題ない」
魔法障壁を貫いた衝撃。相当な爆発のはずなんだけど、神官服が多少汚れている程度だ。
「確かに無事なようですけど……カミール神官を覆ってた魔力は、防御魔法ですか?」
「まあ、そのようなものだ」
水属性の魔法だろうか。詳しく聞こうとした時、キャンプの方から神官達が慌ててやってきた。
「なんですか、今の爆発?!」
「とてつもない魔力でしたが、遺物ですか?!」
興奮状態の神官をなだめながら、一旦キャンプ地に戻る事になった。
* * *
調査会議用のシェルターテントにて、ゼン神官を中心に関係者が集まっている。爆発現場にいたカミール神官とその従者。そして俺。さらにアドバイザーとしてレナルドが呼ばれている。
「さて、申し開きをしてもらおうか」
凍りつくようなゼン神官の声。顔を見なくてもわかる。絶対怒ってるやつ。
「トラップを解除した。それだけだ」
「ほう……それだけ、だと?」
「そう、それだけだ」
ゼン神官の眉間がひくりと動く。それに気付いたカミール神官の従者は慌てふためいている。
「カミール様。もう少し丁寧に流れの説明を……」
「ん? そうか。ならば、昨夜の事を話そうか――」
それから次第に詳細が明らかになっていく。
カミール神官は調査前から――というか、昨夜から古戦場付近に嫌な魔力を感じていた。そして今日、古戦場に近づいた事で場所を特定できたようだ。
「それでわざわざ罠にかかりに行ったのか?」
「いや、罠だとは知らなかった。金属性の魔法障壁。これが展開されてから気付いたんだ」
「ではなぜトラップとわかった上で起爆させた?」
「その方が手っ取り早いだろう」
「……」
呆れたように首を振るゼン神官。気にせず話を続けるカミール神官。
「起爆式ならば解除する時間はあったかもしれない。でも時限式だったら? 悠長にしてる暇はないだろう」
ゼン神官は静かに考えながら視線を変え、レナルドの方を向いた。
「チェンバレン様はどう思われますか?」
「……処理方法については、即時性を考えれば妥当だ。しかし、安全性の担保はない」
深く頷くゼン神官。
“あの程度”と呟き、従者に諌められるカミール神官。
「ただ、あの調査地でトラップ――遺物の存在に気づいていたのは、カミール神官だけだ」
息を呑む面々。
確かにそうだ。俺も気づかなかったし、“隠されている遺物もある”と、レナルドが言ってたな。
「仮にあのまま調査を進めていたら、他の誰かが犠牲になったかもしれない」
「……ふむ」
ゼン神官は深く考え込むように視線を落とした。そして一時の静寂の後、カミール神官の方を向き、口を開く。
「危機を排除してくれた事には礼を言おう」
意外な反応に驚いたのか、軽くのけぞるカミール神官。
「だが、私には王都のレリクターとして、調査員全ての者が無事帰還できるよう務める義務がある。もちろん、独断専行するような者も含めてだ」
ゼン神官は、カミール神官をぎろりと睨みながら続ける。
「以後気をつけるように」
「……わかった」
カミール神官のため息に合わせ、ゼン神官の眉間がぴくりと動いた。




