13.大穴
――古戦場 キャンプ地
古戦場に着いた頃、もうすっかり日は暮れていた。沈みかけの夕焼けを光源に、火を起こしキャンプ地を設営する。二十人近い部隊のため、小一時間かかり、本日は移動と拠点設営で終わってしまった。
夜間はレリクターの従者か護衛が、交代で見張りをすることになっている。まあ、周りには生き物の気配はないけど、念の為というやつだろう。
「――真っ暗だ」
初めての見張り。経験もないということで、俺は最初に順番が回ってきた。眠くならない内にという事だろう。
キャンプ地からさらに南方に、調査地である古戦場がある。
今はもうすっかり夜になってしまった。キャンプ地の焚き火と星の光で、かろうじて見える窪地。おそらくあの辺りが古戦場なのだろう。
「あまり覗き込まない方が良い」
「うわっ!」
少し視線を下ろした先に、いきなり現れた神官……いや、肩にかかる紫の帯――レリクターだ。フードを深く被っていて、表情どころか顔すら見えない。
「驚かせてしまってすまない。でもあの地は――見すぎない方が良い」
レリクターの語気が強くなる。不思議と説得力を感じる。何か知ってるのかな?
「……来たことがあるんですか?」
「いや、初めてだよ――ただ、嫌な魔力を感じるんだ」
フードがぐるりと動く。おそらく視線の先には、夜に染まった古戦場が見えているのだろう。釣られて見たけど、特に何も感じない。
「だから見るなと言ってる」
「いてっ」
頭に刺さる神官チョップ。理不尽である。
「カミール様! カミール様!」
キャンプ地の方から聞こえる焦りを含んだ声。レリクターも気づいたみたいだ。カミールって、この人の名前か?
「ここだよ」
カミール神官が声をあげると、神官が二人かけよってきた。おそろいのようにかぶっているフード。都市の習わしなのかな?
「カミール様! まだこんな所に……さあ、お戻りください」
「わかった、わかったよ」
心配され慕われているようだ。ん? カミール神官がこっちを向いた。
「じゃあ、また明日――ブラント」
「……っ!」
教えていないはずの俺の名前。やっぱり知っていたのか。
でも、なんだったんだろう? ふらっと来て注意しただけ。顔もよく見えなかったし、不思議なレリクターだな。
* * *
――翌日
「うわぁ……すごいな」
キャンプ地より南方の調査地――古戦場は、緩やかな坂を降りた先にある。そして、その中央にある真っ黒な大穴。昨日は夜だったせいもあって、大穴がある事すらわからなかったが――明るい日差しの下でも、その深淵はわからない。
「レナルド、あれは自然にできたものじゃないよな?」
「ああ、当時の戦いが、どれだけ激しかったか、わかるだろう」
大穴を中心に広がる緩やかな傾斜。所々にクレーターのようなくぼみもある。地形が変わるほどの痕跡。何をどうすればこうなるんだ?
「そういえばレナルドも嫌な魔力を感じるのか?」
「ふむ、例のカミール神官が言ってた事だな――残念ながら私にはわからない」
レナルドは古戦場の方を見ながら、肩をすくめる。
「レリクターは特化した能力があるとも聞く。カミール神官は探知能力に長けているのだろう」
「なるほど。じゃあ、レナルドが言ってた“隠蔽魔法”も感知できるのかな?」
「この距離から異変を感じる探知能力だとすれば、可能性はあるな」
良いことを聞いた。予測が当たっていれば、調査の安全性が一気に高まる。いっそのこと聞きに行こうか? いや、さすがに失礼か。
「ブラント、集合だ。行くぞ」
「あ、ああ、わかった」
考え事をしてる間に、時間が来たようだ。いよいよ調査が始まる。
「ん……」
身体がぶるりと震える。武者震いというやつかな。それとも恐れているのか……どちらにせよ、落ち着いていこう。
* * *
古戦場前――傾斜より手前に、5mほどの等間隔に並ぶレリクター達。その後方に従者や護衛がついている。もちろん、俺とレナルドもデライラの後ろに控えている。
「――では、始めるぞ」
ゼン神官の合図で、レリクター達が魔力を高めていく。それぞれのレリクターを中心に、白い光が半球を描く。
「これが金属性の探知魔法……」
右隣りにいるレナルドが頷く。
「そうだ。視覚的には半球だが、地中にも広がっている。これを維持するのは、容易ではない」
「さすがレリクターに選ばれるだけの魔力量ってことか……あれ、範囲がだんだん広がっていく?」
少しすると、それぞれの探知魔法は連なり、巨大な白い帯のようになる。安定した魔法発動と、それを維持する膨大な魔力量。特訓したからこそわかる、レリクターの凄さを実感する。
レリクター達はこのまま緩い傾斜を進み、古戦場――大穴の方へと向かっていく。
なかなか地味というかアナログというか。非効率のような気もするけど、一番魔力消費が少なく、取りこぼしがないそうだ。まあ、新人の俺からすると口は出せない。特に対案もないし。
キャンプ地から南進し、大穴に近づくとレリクター達は二手に分かれ、周囲を探索・調査する。
遠目からだと見えなかった大穴の全貌が見えてくる。井戸のようにぽっかりと空いているわけではなかった。大地がえぐれ、削られ、風化し、急な傾斜が底へと続いている。そう、まるで――
「……アリジゴクの巣のようだ」




