11.出発準備
「なかなか癖のある御仁だな」
レナルドの表情が歪む。やっぱり苦手な相手なのだろう。
「王都レリクターの代表として、心配なんだろう。実際、僕自身実力不足だとは思う」
「殊勝なことだが、あまり気分の良いものではなかったんじゃないか?」
「……まあ、多少は」
「正直でよろしい」
くすりと笑うレナルド。さっきより表情が和らいでいるのは良いけど、俺で遊んでないですかね?
「お二人とも、今後の打ち合わせがあります。こちらへ」
いつの間にか神官同士の挨拶は終わったのか、ぞろぞろと神殿に入っていく。俺達もマテオ神官に案内されるまま、移動する。
* * *
スカーレリア神殿 大広間――
大広間の中央には長テーブル。その上にはスカーレリア周辺の地図が置かれている。今回の調査に参加するレリクターが椅子につき、従者や護衛がその後ろに並んでいる。もちろん、俺とレナルドもデライラ後方に立っている。が、一つ気になる事がある。
「……あの、マテオ神官?」
「お気になさらず」
にっこりと笑みを返すマテオ神官。なぜか俺の隣にいる。スカーレア代表の神官だからという事だろうか――いや、違うな。緊張している様子のデライラを心配そうに見ている。親心ならぬ部下心というやつかな?
「――では、始めようか」
ゼン神官の声が響き、空気が張り詰める。さすが王都のレリクター。 指示に慣れている声。自然と緊張感が高まる。
打ち合わせの内容はこれから向かう古戦場についての詳細だった。
スカーレリア南方の古戦場――現地は大戦時、魔法や魔法具で荒らされ、地盤も脆くなっている。それに、直近調査したのは十数年前で、荒廃が進んでいるのは明らか。慎重な調査が要される――か。
「時間がかかりそうだな」
「急いて奈落の底に落ちたくないだろう?」
「それはゴメンだね――あ、やばっ」
ふと感じた強い視線――ゼン神官が睨んでいる……レナルドとこっそり話していたつもりだったけど、気づかれた?
「何か言いたいことがあるのかね? ブラント・シュリーブ殿」
「いえ、何も」
「私語は慎み給え」
「すみません……」
神官達の視線が痛い。やっぱりゼン神官は、俺に対する当たりが強い気がする。
それから三十分ほど、確認事項を含む打ち合わせが終わり、出発準備のため神官達が移動を始める。
俺達も動こうとした時、思いっきり背中を叩かれた。
「うげっ!」
「よお! お前がブラントか!」
なんかデジャブ。振り返ると、髭面の神官が豪快に笑っている。ぱっと見ドワーフだけど――でかい。見上げる位置に顔がある。
「俺はメイナードだ。よろしくな」
「よ、よろしく」
「聞いてるぞ、お前。結構やり手らしいじゃねえか」
「いや、それほどでも」
「なんだ、謙遜か? 堂々としろ、堂々と!」
“がはは”と笑いながら、肩をバンバン叩くメイナード。良さそうな人ではあるけど、そろそろ痛くなってきたぞ。
「あ、いたいた。あんたがブラントだね?」
弾けるように明るい声に、思わず振り向く。すらりとした美人神官。くりんとした瞳と、にこやかな表情。それと、特徴的な猫耳。人間に近いけど、ファンタジーに出てくる猫の亜人のようだ。
「あたしはアレグラ。よろしくね~」
「どうも、よろしく」
まさか初対面の神官――レリクターに声をかけられるとは思わなかった。それも二人、いや、ゼン神官を入れたら三人か。
「どうしてお二人は僕の名前を知っているんですか?」
二人は顔を見合わせながら、メイナードに次いでアレグラが口を開く。
「そらぁなあ」
「“宝玉”を2つも見つけたって聞いてるよ」
ああ、やっぱりその関連か。レナルドやスカーレリア神殿の対応をみれば、余程の事だとわかる。各方面に伝わっていてもおかしくないか。でも、俺の名前まで広まってるのはどうなの?
「……まさか自分の名前まで知れ渡っているとは思いませんでした」
「うあっはっはっは! 甘い、甘い。人が求める“知”の欲は、空より広く、海より深いぞ!」
大きく笑うメイナード。ぎらりとした視線が合う。さっきまでの気さくな感じはない。思いのこもった目力に圧倒されるようだ。
「それに、あの英雄の相棒だもの。話題に事かかないさ」
アレグラの視線がレナルドに向く。
そうか。神殿的に盛大な成果を上げつつ、相棒は超有名人……話題になって当然か。
いや、待てよ。その分、俺に対する期待がもの凄く上がっていないか? もしかして、ゼン神官の態度もそれが原因?
冷たい汗が背中を伝い、思わす言葉が漏れ出る。
「とんでもない事になってるな……」




