09.出発前夜
レナルド邸にて――
「まあまあよくなってきたわね、ブラント」
「ありがとう、セイディ」
セイディとの射撃訓練から小休止。草むらに腰を下ろすと、激しい攻防が視界に飛び込んできた。
「はああああ!」
重量級のメイスを軽々と持ち、デライラがクレアに攻勢をしかけていた。
かち上げ、打ち下ろし、薙ぎ払う。今でも自分の目が信じられないけど、あの小柄な体格でどうやって制御しているんだ?
「なんのっ!」
重く鈍い音をまとうメイスを、紙一重で避けるクレア。はたから見ててヒヤヒヤする。
神殿にてレリクターの同行依頼を受けてから約一ヶ月、相変わらず特訓は続いている。
せっかくだからと思ってデライラを誘ったら、びっくりしてたけど快諾してくれた。それからは時間を見つけては来てくれている。彼女の実力も見れるし、連携の相談もできるから良かったけど、まさかメイス使いとは思わなかった。
「はあっ、はぁっ、はっ……」
肩で息をするデライラ。体力いっぱい動いているはずだけど、いい顔をしている。
「もうおしまい?」
「むぅ……まだまだ!」
クレアが宙に舞いながら挑発する。デライラも負けず嫌いなところがあるのか、乗っている。うん、とっても楽しそうだ。
二人とも近接系なので相性が良い。最初の頃はセイディとも対戦していたけど、デライラは遠距離攻撃が苦手なため、ほぼ一方的な流れになってしまう。そのため、クレアと対戦するのがちょうど良いみたいだ。
「よし、今日はそろそろ終わりにしなさい」
夕焼けに染まった空が陰りだした頃、レナルドの声で特訓が終わる。
「あー楽しかった!」
「ふう、今日もありがとう、クレア」
「またいらっしゃい。いっぱい遊んであげるから!」
「うん」
体をたっぷり動かして満足そうなクレア。遊んでもらってるのはどっちなんだか。
そして、柔らかな笑顔を見せるデライラ。来たばかりの頃は、内気な性格なせいか表情がほとんど変わらなかった。でもクレアやセイディと触れ合いながら、だんだんと感情豊かになっている。ただ、俺やレナルドに対しては、少々壁を感じている。
まあ、レナルドは国の英雄だ。緊張するのも無理はない――が、俺には、いつになったら慣れてくれるんだろう?
「みんなこっちに来てくれ。話がある」
神妙な表情のレナルドが、皆を呼び寄せる。
「本日伝令が届いた。明日には他都市の神官たちがスカーレリアに到着するようだ」
首をかしげるクレアと、ため息をつくセイディ。クレアはよくわかってない様子だけど、セイディは気付いたようだ。
「以前より伝えていた“長期出張”だが、明日から始まる。二人とも、家の事は頼んだぞ」
「……仕方ないわね」
申し訳なさげのレナルド。ショックで言葉が出ない様子のクレア。やれやれと言った感じのセイディが口を開く。
「どれくらいかかるの?」
「何分私も初めての経験だ、正直予想がつかない。しばらくかかると思ってくれ」
再びため息をつくセイディ。表情がいつもより暗い。気丈に振る舞っているけど、やっぱりさみしいのかな?
「……はやく帰ってきなさいよ!」
「ああ、善処する」
ようやく言葉を絞り出したクレアに、レナルドは優しげな調子で応え、クレアとセイディの頭を撫でる。
まるでお父さんと娘みたいだな。微笑ましく見ていると、二人に睨まれてしまった。なんでだ?
ちょっと短いですがキリの良いところで。
明日も更新予定です。




