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06.射的と模擬戦


二ヶ月目は対遠距離魔法――というより射的みたいなものだ。クレアとセイディが魔法を打ち上げ、それを対属性の魔銃で撃ち抜くという、射撃精度を上げる特訓だ。ところが、それだけじゃつまらないと、セイディが言い、打ち上げられた魔法は一定時間が過ぎると、俺を目掛けて飛んでくる事になった。これが結構痛く、必死にならざるを得ない。そのせいか、命中精度はどんどん上がっていった。



「ブラント、これはどう?」


セイディが上空に向け、水の精霊魔法を放った。夕焼けに染まる空に、一直線の青い軌道を描いていく。


「一つだけ? それにいつもより大きいな。当てやすいけど……なにかあるのか?」


にこやかにしているセイディ。疑問を持ちつつも、狙いをつけ引き金を引く。

魔銃から放たれる赤い閃光は、難なく水の魔法を貫いた。途端、四方に弾ける青い光。それはゆっくりと弧線を描くと、俺に向かってきた。


「げっ?!」


対応をと思ったけど、時既に遅し。青い光が目の前にまで迫っている。咄嗟に腕をクロスし構えが、突き刺すような痛みが走る。大きな衝撃はないけど、体の芯に響くようだ。


「痛ったぁ……」

「ふふふ、残念だったわね」


セイディは魔力のコントロールに長けているようで、一工夫されている事が多く、攻略には一筋縄ではいかない。その分、経験値になったと実感している。

一方、クレアは苦手な訓練だったようで、鬼ごっこをねだられた事もあった。そのうち、近接クレアと遠距離セイディという組み合わせで、混合的に訓練するようになっていった。



*  *  *




クレアとセイディの遊び相手、もとい特訓が始まってから、あっという間に三ヶ月が過ぎた。治安所の勤務後にレナルド邸に寄って、体力づくりと接近戦。そして、魔銃の命中精度を高めていった。その間、魔法の知識や魔銃の扱いについても触れ、頭の運動もしっかりやっていた。


そして今日は二対一の模擬戦。ただ、鬼ごっこだと俺に勝ち目は無いので、ルールが変わっている。

二人の前には魔法属性が付与されたオブジェクトが浮いている。これを対属性で破壊すれば俺の勝ちになる。鬼ごっこに比べればまだ勝ち目があるルール。さらに最近レナルドに勧められたサブウェポンのおかげでもある。


「使い心地はどうだ?」

「結構いいよ。魔銃の性質上、近接が苦手だから、十分補えてるよ」


腰に携えている魔棒に触れる。元の世界でいう警棒のようなもの。伸縮自在で携帯でき、魔法の付与も可能。基本的には接近戦の補助だけど、シンプルな分、応用できそうで、何ができるかレナルドと一緒に考えている。



「そろそろ始めようか」


レナルドの声に、それぞれが定位置に着く。慣れたもんだ。


二人との距離は5mくらい。視界の左側からクレアとセイディが並び、ゆっくりと中に浮いていく。クレアが口を開き、セイディが続く。


「いくわよ、ブラント!」

「ふふ、すこしは耐えてね」


放たれる炎と水の精霊魔法。赤と青の光で描かれる軌跡はなんとも美しいが、言ってる場合じゃない。的を絞らせないように走り出し、セイディ側へ回り込む。


「ちょっと、どこ行くのよ!」


視界の端、クレアの方から赤い閃光が見える。複数の炎弾が弧線を描き、追尾してくる。厄介な魔法だけど威力は弱い。

俺の後方、地面に向けて魔銃を撃つと、着弾箇所から土が隆起する。途端に響く複数の爆発音。


「もう!」


全弾消滅したのか、宙で地団駄を踏むクレアが見える。随分器用な事をする。

その内にセイディに接近する。クレアはその後方。すぐに対応はできないだろう。


「ふふ、いらっしゃい」


不敵な笑みを浮かべるセイディ。向けられた人差し指から青い閃光。鋭い水の魔力が一直線に向かってくる。これも威力は低いけど、速度と貫通力がある。対抗するには、土壁ではジリ貧。ある程度被弾を覚悟しなきゃならない。

腰に携えていた魔棒――魔力付与できる棒を左手に構え、火の魔力をまとわせる。


「おおおお!」


向かってくる水魔法の射線を読み、魔棒で弾道を逸らし、セイディとの距離を詰める。


「すごいじゃない」


驚きつつも笑みを絶やさず、水の精霊魔法を撃ち続けるセイディ。良い性格してるよ!


セイディに近づく程、被弾する数が増えてくる。一発の威力は低いとはいえ、結構痛い――けど、耐えたぞ。あと1m! 一足飛びで接近する。


「あらら」

「よし、取った!」


セイディの前には氷の塊が浮かんでいる。それを目掛けて、魔力棒を思いっきり突き出した。これを割れば、模擬戦の初勝利だ!


「残念っ!」

「うわっ!」


セイディの後方から、クレアの弾んだ声と指を鳴らす音。途端、まばゆい閃光が俺の視界を覆う。思わず目を閉じ、足を止めてしまった。


「ふふ、惜しかったわね」


嬉しそうなセイディの声と、ひやりとする足元。どうにか目を開けると、地面ごと凍りつく両足。もう動くことはできない。


「……また、負けた」

「まだまだだね」


がっくりとうなだれていると、クレアが声をかけてきた。視線を上げると、にんまりとした顔が見える。さっきまで悔しがっていたくせに。

これまで特訓してわかった事だけど、クレアは構って欲しい性格だ。セイディ側に向かえば、集中力を乱す事ができると思ったけど、予想通りだった。でも、立て直しも早かったし、何よりセイディに接近した後がまごついてしまった。今度こそ。


「お疲れ、ブラント」


模擬戦を監督しているレナルドがこちらに向かってくる。ここから感想戦が始まる。


「総評だ。思い切りは良いが、やや無謀だな。セイディが使った精霊魔法は威力を上げる事もできる」

「それだと速度が犠牲になるだろ?」

「標的から近づいて来るなら、速度はいらないだろう」

「うっ……」

「それに貫通力も上げる事ができるからな。私の回復魔法も限度がある。今後気をつけるように」


おお……加減されてなかったら、今頃は蜂の巣になってたという事か。もう少し良い作戦を考えよう。


「ブラント、もう一回よ!」

「え? ああ、うん」


ウッキウキのクレアには逆らえず、もう一戦する事になった。ただ、新たな作戦を考える間もなかったため、模擬戦初勝利にはならなかった。



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