04.治安所
ゴトゴトと10分ほど馬車に揺られると、無事治安所に着いた。場所がわからなかったからありがたい。
治安所はいかにも役所感のある格式張った建物だったが、誰でも自由に利用できるのか解放されている。恐る恐る建物に入ると、だだっ広い空間にたくさんの椅子。腰高のカウンター。内装は古く歴史的ロマンを感じるが、市役所の待合室のようで見覚えのある雰囲気だ。
「さて、目的地には着いたみたいだけど何をすれば良いんだ?」
職員らしき人たちがぱらぱらと見られ、各々仕事をしているよう。どうしたものか。
「おお?! ブラントじゃねぇか! 元気してたか?」
「げふっ?!」
考え事をしていると、勢いよく背中を叩かれた。思わず咳き込む。……い、息ができない。
どうにか息を整えて声のする方を睨むと、そこには上半身裸のマッチョな大男が笑っていた。
「だっははは! ひ弱すぎるぞ! お前!」
見上げると短髪赤毛のベビーフェイスがあった。中性的でかわいいと表現する方が似合うが、体つきがごっつい筋肉質。身長も2m以上はありそうだ。
「お、おはよう。デーヴィット」
「おう! おはよう! 回復したようで何よりだ!」
「今の一撃で怪我人に逆戻りするところだったけどね」
「大げさだろ!」
豪快に笑っているこの大男の名前はデーヴィット。ブラントの記憶によると治安所の職員らしい。
「そうだ、所長がお前に話があるみたいだぞ」
「所長?」
「ああ、今ちょうど所長室にいるから行くと良い」
ブラントの記憶からは二階の一室が所長室らしい。朝一にやる事がいきなり組織の長から呼ばれるとか穏やかじゃないな。何したんだよ、ブラント。
言い知れぬ不安の中、二階に上がり所長室の扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
所長室はまさに執務室と言った感じだ。壁に沿った書棚がいくつか並び、奥には大きめのデスクがあり、治安所所長のオーウェン・ベイリーが座っていた。やや長めの金髪と金色の目。細めの眼鏡をかけており知的な印象。
オーウェンと軽く朝の挨拶を交わすと同時に緊張が走る。上役との対面も理由の一つだが、この部屋にはもう一人居た。所長とデスクを挟みこちらに背を向け立っている。デーヴィット並みに身長があり、かつ幅がある。太っているというよりプロレスラーのように鍛え上げられた体で、威圧感がハンパない。自然と顔がこわばる中、オーウェンが声をかけてくる。
「思ったより元気そうで何よりです」
「恐れ入ります」
「……雰囲気変わりましたね?」
「そ、そうですか? そんな事はないと思うのですが……」
いぶかしむようにオーウェンにじっと見つめられる。眼鏡から覗く金色の視線が鋭くこちらに向けられ、背筋がぞくりとする。
まずいな。プロレスラーに気を取られて反射的に答えてしまった。朝食の時同様にブラントらしからぬ反応だったか悩むも、上司に対してもあの甘ったれた対応は無いだろう。
オーウェンは少し考えながらも“まあ良いでしょう”と、俺から視線を外し手元の書類に目を向ける。
「ほぼ回復しているようなので、早速仕事をしてもらいますよ」
「は、はあ」
とりあえず誤魔化せたらしいが、ここは病み上がりの人間でも早速仕事を任せられるらしい。
「ただし、チェンバレン卿に同行していただきます」
知らない名前が出てきた。ブラントの記憶からも覚えが無い事から初対面だろうけど、誰なのかなんとなく予想はついた。
背を向けていた巨体がこちらを向き名乗る。