幕間:レナルドレポート(レナルド視点)
「ーーでは、私はこれで失礼する」
「ええ、ご苦労様でした」
レポートの提出を終え、所長室を出る。
ふと、廊下の窓から覗く空を見る。先程より日差しが、高い所から注いでいる。思ったより時間が経っていたようだ。
「さて、彼は待ちくたびれていやしないかな」
一階で待っているだろうブラント・シュリーブの所へ向かう。
私はレナルド・チェンバレン。先の大戦の功績により上級貴族を賜った後、紆余曲折を経て治安所職員として務めている。直属の上司はオーウェン・ベイリー所長。彼には私のワガママに付き合ってもらっている。何かと苦労をかけているだろう。
「それにしても、興味深い現象だった」
レポート内容を思い出す。あくまで魔術研究者という立場としてレポートを提出したが、オーウェンは今頃青くなっているんじゃないだろうか?
ゴーレム、人間、そして、宝玉。端から見れば、面白い学術テーマになるだろう。
ただ、当事者の立場からすると、勘弁願いたい事件だった。危険極まりなく、上役には是非理解しておいて欲しい状況であった。
「人工宝玉か……」
膨大な魔力を内包する宝玉。それを踏まえた上で考えると、導き出された答えだった。我ながら突拍子もない。
だが理論的には可能だ。かの大戦でも草案があったと聞く。まあ、効率とコスト面で割に合わないという結論だったがな。
もし、度外視で造っていたとしたら?
そうなると、重要なのは何に使うかだ。
魔法の強化? 魔力の供給?
大いに役立つだろう。ただ、それだけでは無い気がする。
戦時中に何があった。
根本的に必要な要素。
戦争に勝つため
戦争に負けないため
戦争を続けるため
「……兵士か?」
兵士の肉体強化、膂力、頑強さ……
負傷による離脱……永続的な回復力ーー
ーー不死?
ふと、王国軍部で流れていた噂を思い出した。
非人道的な人体実験。
魔力と人の融合ーー
答えを振り払うように首を振る。
思考がとんでもなく飛躍していた。
さすがに現実的ではない。
肉体が耐えられるとは思えない。
被検体の精神は崩壊し、暴れ狂うだろう。
目的を果たすどころの話ではなくなる。
そう、思考を現実に戻そう。冷静に、状況を判断しなければ。情報共有したオーウェンの負担も増えるばかり。現時点でも彼の手には負えない案件になっているだろうからな。
「後で今後について話しておくか」
今後の方針のすり合わせはやっておいた方がいいだろう。またオーウェンに苦労をかける事になるだろうが、それが上役の仕事というものだろう。
所長室から少し先にある、中央階段を降りると、何か不思議な空気を感じる。一度緊張した空気が凪いだような感じだ。冷たく重い、消え切れていない感情。
ぐるりと辺りを見渡すと、人々の表情にわずかに残る緊張と興奮、そして恐怖が見える。
「レナルド」
ざわめく中、静かに響く相棒の声。
不穏な空気を感じ取り、覚悟を決め口を開いた。
「……何があった?」




