03.報告
治安所二階、所長室前。ノックから一拍、”どうぞ”の声。
胸の鼓動が一つ。どうやら緊張しているようだ。自信はあるけど不安。そんな不思議な感覚。
「失礼します。おはようございます、所長」
「おはようございます、ブラント、チェンバレン。どうしました?」
「昨日の件で報告したい事があります」
「……わかりました、伺いましょう」
まずは行方不明者であるビリー・ウォーカーの発見を報告した。
「ほう、もう見つけられたんですね」
「はい、今は神殿にて治療しています」
「治療という事は、負傷していたという事ですか?」
「その通りです」
次にビリーを見つけるまでの経緯を話した。満腹亭での情報収集から、チェイス達の協力を得た事。
「ーー西の森ですか。確か魔物の棲家でしたよね。そこまで強力な魔物はいなかったはずですが」
「はい、主に狼の棲家となっていましたが、狼以上の脅威を確認しました」
「脅威?」
洞窟に潜んでいた存在。レナルドはゴーレムだと判断していた。
「……ゴーレム? 間違いないんですか?」
「ああ、私も見ている。間違いない」
にわかには信じられない情報に、レナルドが証言してくれる。洞窟にゴーレムは珍しいみたいだし、”なんでそこに?”と、なるだろう。
「では、ゴーレムの討伐依頼をすぐにーー」
「いえ、レナルドと協力して倒しました」
「……たお、した?」
「はい!」
報告の山場。成果と言っていいだろう。ちょっと高ぶってきた。レナルドも胸を張っているようだ。
でもここで終わりではない。さらに報告しなければならない事がある。
「ただ、そのゴーレムについて報告があります」
「……まだ何か?」
「この件に関してはレナルドの方が詳しいので、お任せしたいのですが」
レナルドに視線を向けると、頷いてくれた。
「ゴーレムの内部から”宝玉”を確認した」
「宝玉?!」
「ああ、だが現場で力を失った事を確認。神殿にて処理を依頼したから安心して良い」
「そうですか……でも内部にあったということは、ゴーレムと何か関係が?」
「そうだなーー」
レナルドは顎に手をやり、考え込んでいるようだ。少しして口を開いた。
「魔法でゴーレムの一部を破壊したのだが、同時に宝玉が光を放った。その後、破壊された部分が修復された事から、回復に似た機構があると見ている」
「そんな、事が……」
「それと、ゴーレムを討伐した後、崩れた瓦礫からビリー氏を発見した」
「ゴーレムの中から人が?!」
「ああ、実際に見ている私でさえ、この目を疑った」
「……」
「力を失った宝玉、停止したと思われる回復機構、ゴーレムの残骸から人。宝玉が関係してい可能性は高いだろう」
「そう考えると自然ですか」
「推測でよければ、後でレポートを出そうか?」
「……お願いします」
所長は椅子の背もたれに体を預け深い溜息をついた。
「それで、まだありますか?」
「以上です」
「そうですか……いやはや、想定以上の結果に驚きました」
よし、所長のこの反応は、喜んでいいだろう。ほっとした。緊張が和らいでいく。
「レナルドが助けてくれたおかげです」
「良い関係を築けたようですね」
レナルドは満足そうに頷いているけど、俺はなんかちょっと照れくさい。
そうだ、忘れてはいけない事があったな。
「所長、一つお願いがあります」
「なんですか?」
「例の洞窟なんですけど、再調査できませんか?」
「ほう、再調査ですか」
「ゴーレムは討伐しましたが、洞窟内部を詳しく調べたわけではないので、脅威が完全に排除されたかはわかりません」
「なるほど」
「それに、ビリーさんの仲間が亡くなっています。せめて弔いくらいはさせてあげたいと思いまして」
「……わかりました、手配しておきましょう」
「ありがとうございます」
報告は終わったし、今晩の事も伝えておこうか。
「今晩ですが、チェイスさん協力の下、街の端にある酒場に向かいたいのですが」
「この事件関連ですか?」
「ええ、彼らが得たお宝の情報源となった人物、クロードさんの行きつけのようなんです」
「……わかりました、かまいませんよ」
よし、許可ももらえた事だし心置きなく動けるな。まあ、何かあった時の保険にもなるだろう。
部屋を出ようと思った時、所長の表情が柔らかくなる。
「見違えましたね、ブラント」
胸の鼓動が一つ。嬉しさと達成感に満たされる。人の役に立てたと、実感できた。
喜びを噛み締めていると、レナルドが口を開いた。
「ああ、まるで別人のようだ」
ゆるやかに口角の上がったレナルドの顔が、幾分か輝いて見えた。




