02.にぎわいの治安所
チェイスとアンバーと別れ、治安所に向かっていた。行方不明者の発見、ゴーレムの討伐、そして宝玉。報告する事は山ほどある。
治安所の入口には、様々な人達が行き交っていた。もちろん人間だけでなく、他の種族もたくさんいて、自然と目で追ってしまう。
自信ありげに歩く犬の剣士、しなやかな尾を揺らす猫の軽戦士、とんがり帽をかぶった兎の魔法使い……ファンタジー作品に出てくるような二足の亜人種が、そこら中にいる。それと、エルフやドワーフっぽい人も。随分と賑わっているように見えるけど、昨日より出てくるのが遅かったせいだろうか。
周りを伺っていると、レナルドが声をかけてきた。
「まだ慣れないか?」
「昨日の今日だからね、そうすぐには慣れない、かな」
「君の世界とは随分違うようだ」
「人間しかいないな」
「それは退屈そうだな」
「退屈?」
「ああ、多種多様な人達がいた方が、変化に富んでいて楽しいだろう」
「そういうものか」
「そういうものだ」
多様性という事かな。考えたらレナルドは、初対面から距離感なんて無かったな。それにクレアとセイディに対しても、メイドと言いながら家族のようにも見えた。レナルドの寛容さを感じる。
種族観察は程々に、二階にある所長室へと向かう。利用する人々に紛れながら、受付あたりに来てから気づいた。デーヴィッドが見当たらない。いつもであれば声をかけてきたり、昨日のように背中に一撃くれたりするんだけど、全然見つけられない。
まあ、あいつのコミュニケーションは結構痛いから勘弁してほしいけど、いないならいないで、さみしい気もする。
「あら、ブラントちゃんじゃない! おはよう!」
「お、……おはようございます、ベラドンナさん」
聞いた事のない声。でもブラントの記憶から名前がわかった。という事は、デーヴィッドのように親しい間柄なのだろうけど……見上げた先には牛がいた。いや、正確には牛の頭だ。
上背高く筋骨隆々、立派な二足で直立している牛ーーミノタウロスが、そこにいた。でも、斧は持っていない。その代わりに書類を持っている。治安所の制服を着ているから、ここの職員なんだろうけど、違和感しかない。
ほら、ミノタウロスってさ、うら若き娘をとっ捕まえて《自主規制》したり《禁則事項》するやつだろ? しかもタイトなスカートをはいてるから、メス? いや、女性なのか? 理解が追いつかない。
「体はもう大丈夫なの?」
「ええ、おかげさまで。昨日から復帰してます」
「あらそうなの? 無理しちゃダメよ!」
「肝に銘じます」
「オーウェンちゃんも言ってたけど、ホント雰囲気変わったわね!」
「そ、そうですか?」
「そうよ! そんなかしこまっちゃって! つれないわ!」
「うぐっ……!」
軽く肩を小突かれたーーようだ。動き、見えなかった。すっごい痛い。
「さっきもキョロキョロしてたけど、どうしたの?」
「いや、デーヴィッドは来てないのかなと」
「デーヴィッドちゃんなら出てるわよ」
「え、そうなんですか?」
ふらふらしたり暇を持て余しているようだったから、何をやってるのかわからなかったけど、ちゃんと仕事してるようで何よりだ。
「暴行事件みたいなの。最近多いのよね」
鼻を鳴らし困った表情を浮かべるベラドンナ。
暴行事件が頻発しているって、ただ事じゃないな。
「お話ができないくらい、叫んで暴れてるようなの」
思ったよりひどい状況みたいだ。酔っ払いとか、変なクスリ使ってるとか?
そういえば、チェイスも酒場の辺りが荒れているって言ってけど、何か関係が……
「ホント物騒よね、平和が一番よ!」
「そ、そうですね」
平和主義者のミノタウロスか。イメージが違い過ぎる。
カルチャーショックを受け呆けていると、レナルドから”ブラント”と声をかけられる。
「ベラドンナさん、そろそろ行くよ。所長に色々と報告しなきゃいけなくて」
「あらやだ、あたしったら、忙しいのに引き止めちゃったわね。頑張るのよ!」
ぶんぶん手を振るベラドンナ。手を振り返しながら所長室へ向かう。




