幕間:昔の話をしようか
沈黙。
静寂。
まったりとした空気が流れる。
濃厚な時間を過ごしたとは思えないぐらい気持ちが凪いでいる。秘密を打ち明けた事で、スッキリしたようだ。どうやらたった一日とはいえ、ブラントと偽っていた事は、思ったよりストレスだったのかもしれない。
それにレナルドも、自身だけじゃない、種族の秘密までも暴露してくれた。それだけ信用してくれたのは、正直嬉しかった。
元の世界でもこういう関係を築けた友人は、いなかった。まあ、”あいつ”はちょっと別だけど。
でも、今になって少し恥ずかしくなってきた。時間を理由に帰ろうか。
そう思い、立とうとした時、レナルドに呼び止められた。
「どうした?」
「え、そろそろお暇しようかと」
「まあ、待て。そう慌てる時間でもないだろう。君の世界の事を聞きたい」
どこかで聞いたセリフだな。いやそんなことより、外は真っ暗。一仕事終えての今だから、慌てても良い時間なんじゃないか?
「結構な時間だと思うけど」
「言っただろう。気になったら追求する質だと」
レナルドの口角がゆるやかに上がる。
ああ、これは逃れられないやつだ。
「……何が知りたい?」
「そうだな、まずはーー」
車、電車、飛行機などの移動手段や、電気、ガス、水道といったインフラ関係。一気に話した。どれも興味津々という様子だったな。
特にレナルドが気に入ったようだったのは歴史、政治ーーそして、戦争だ。
「ーーいつの時代、いや、どこの世界においても、争い事は絶えないのか」
レナルドの顔に影が落ちる。諦めに似たような表情。
「レナルドも経験を?」
つい口が出てしまった。つっこみすぎてしまったと思ったけど、レナルドはどこか懐かしむように口を開いた。嫌な感じはしない。
「そうだな。聞くばかりでは不公平だな」
「そういうつもりじゃ……」
「わかっている」
レナルドは一呼吸置き、口を開いた。
「こちらでも大きな争いがあった。大戦と言っていいだろう」
「……」
「ただ、対する相手は人族ではなく魔族だったが」
「魔族……」
これはブラントの記憶にもある。魔族ーー人族と敵対している、いわゆるモンスターみたいな存在だ。
「かの大戦には、私も魔術部隊の一人として前線に出たが……当時の様子は筆舌に尽くしがたい」
レナルドの声が、重く、低く、冷たく聞こえる。まるで後悔の念をはらんでいるようだ。
やっぱり戦争というものは、凄惨な状況を作り出すのだろう。でもそれは、戦争の一面にしか過ぎないんじゃないだろうか。
「でもレナルドは、人族を救ったんだよな?」
「……救った、か。なるほど、そういう見方はしていなかったな」
レナルドの表情がほぐれる。少しは役に立てたかな?
それでも当事者の言葉は重いな……ん? 当事者? ブラントの記憶によると、魔族との大戦は、かなり昔の出来事のはずだけど。
「そういえば前線に出たって、レナルドって今いくつなんだ?」
「……おや、君の世界では、年齢を聞くことは失礼に当たらないのか?」
「う……」
肩を上下に揺らし口元が緩むレナルド。完全にからかわれている。そして年齢は言う気はないようだ。
レナルドは微笑を浮かべながら、話を続けた。
「私の働きは評価され功績となった。結果、今の貴族位を賜ったわけだが、どうも政は向かなかったようだ」
珍しく呆れが混じったようなため息をつく。レナルドでも苦手な事はあるんだな。
「そのため戦後は中央の軍部に配属されたな」
「戦争が終わったのに、軍があったのか?」
「ああ、魔族を殲滅したわけではないからな。残党は少なからずいた」
レナルドの表情から感情が消えたような気がした。
「それに、諸外国との兼ね合いもあって、国家の武力は必要とされていたがーー長く在籍したい所ではなかったな」
「……それで治安所職員か」
「そうだ。市政、民を身近に感じられる方が、性に合っているようだ」
レナルドの表情がふっと柔らかくなる。
「私のような者でも、”誰かの役に立っている”と、実感できる」
心臓が一つ鳴る。
”人の役に立ちたい”
それは俺の夢でもあった。でも、現実では無理だった。
まさか異世界に転生してから叶うとは、思わなかったけど
少なくとも今日は、人の役に立っているとわかる。
これからも、できる事はあるだろう。
秘密を共有した同志。
同じ思いを抱く相棒。
できない事はないと思える。
帰る方法だって見つけられるはずだ。
そう、元の世界にーー




