19.疑惑から確信へ
そうかからない内にレナルド邸に到着した。さすが卿と称されていたお方というべきか、豪邸である。大人三人並んでも足りないほどの扉を抜け、エントランスに出る。
「おお、すごい」
俺は外見は貴族だけど、中身はただの一般人。失礼だろうと思いつつも見渡してしまう。内装は綺羅びやかではあるけど、ゴテゴテとした装飾や調度品はなく、落ち着いた雰囲気という印象。
「こっちだ」
エントランスから続く中央の大階段。そのまま二階に行くみたいだけど、執事やメイドは見当たらない。というか、人の気配がしない。
「もしかしてレナルド一人で住んでいるんですか?」
「管理している者達はいるが、今は寝てる時間だろう」
寝てる? そういうものなの? シュリーブ家執事アルバートだったら、家人が戻るまでずっと起きてそうだけど。まあ、あまり人の家の事情は聞くものではないか。
そのまま二階の奥へ進むと、応接室のような部屋に案内された。促されるようにソファーに座る。まふっとしていて心地よい。
「今日はご苦労だった。復帰初日でよく完了できた」
「ええ、レナルドのおかげです」
レナルドは少し驚いた様子だったけど、ゆっくりと頷いた。本当に彼がいなかったら、今とは違う結果になっていたと思う。
「被害を拡大させず、行方不明者の発見と脅威の討伐。見事な成果だと言える」
「ありがとうございます」
改めてみると色々やったと実感できる。というか、よく死ななかったよ。
「このような結果になるとは、想像もしていなかった」
「そ、そうですか」
「オーウェン所長から君の事を聞いていたからだ。正義感は強いが、考えなしの問題児。加えて甘ったれだ、と」
ひどい言われようだが、なんとなく想像がつく。特に甘ったれの部分。
「君の監視を打診された時、どうなる事かと思ったが、杞憂だったようだ」
柔らかな雰囲気。優しげな口調。
「君の事は一治安所職員としてだけでなく、相棒としても評価できる程だ」
これは素直に嬉しいぞ。最大級の褒め言葉だ。礼を言おうとした時、レナルドの空気が変わった。
「そう、聞いた人物像とは、まるで別人ーー君は何者だ?」
またこの質問をされるとは、油断していた。多分朝のやり取りでは確信に至ってなかったのだろう。でも今までの言動から、俺がブラント・シュリーブではないと確信しているようだ。
どうする?
正直に答えるか?
異世界から来ましたと?
ーー無理だ。理解されるとは思えない。
変な奴だと、気が触れたのではないかと思われるだけだ。
ーーレナルドには、そう思われたくない。
「……僕は、ブラント・シュリーブです」
レナルドは押し黙り、一呼吸置いて話を続けた。
「ーーそうだな、私の事を話そう」
「……」
レナルドの事? どういう事だろう。意図は? 警戒心と罪悪感が入り混じる。早く帰りたい。
「晶精について、どこまで知ってる?」
「……詳しくは知りません」
「そうだろうな。公にされていない能力があるからな」
「能力?」
「我々晶精は、君たち人間と同様に扱われている」
これはブラントの記憶にもある。晶精とは人間の派生種、亜人のような生命体とされている。また、社会的には人権も保障されているようだ。
「だが、厳密には全く異なった存在だ」
レナルドは人差し指を立て、くるくると回す。淡く輝く白い光が現れ、レナルドの周りを浮遊している。多分あれも精霊魔法だろう。
「どちらかと言うと、精霊に近い。本来ならば触れる事はおろか、実体の視認も難しい」
レナルドは光と戯れるように指を動かし、捕まえようとするが、光はレナルドの指や手のひらをすり抜けてしまう。
「実体がある霊的存在。それが我々、晶精だ」
光が消え、レナルドの表情に影が落ちる。
「故に、特殊な能力を有しているーー我々は、生命体の魂を感知できる」
よく通るレナルドの声が耳に響く。は? 魂の感知?
「初めて君を見た時は驚いた。肉体と魂が別の存在であるとわかった」
初めての時……所長に呼び出された時か。
「最初は勘違いだと思った。あるいは感知能力が上昇したか、能力の性質が変わったと。しかし、君の挙動を見ていると、聞いた人物とは全くの別人と判断せざるを得ない」
必死だった。この世界に慣れようとした結果が、レナルドに疑念を抱かせた。
「そこで私は確信した。魂の感知能力に問題はないと」
「……」
「もう一度聞く、君は何者だ?」
ブラントの知識にも無い晶精の能力。おそらく一般的には知られてない事だろう。レナルドの、晶精という種族が秘匿していた事だ。かなり覚悟がいる事じゃないか?
誤魔化される可能性はあるのに。
話してくれるだろうと、信じてくれた。
俺はどうなんだ?
俺は、嘘をついたままでいいのか?
ーーそんなわけないだろう。
たった一日とはいえ、死線をくぐり抜けた仲間。
これ以上、レナルドを裏切りたくない。
「わかりました、レナルド。僕の本当の名前はーー」




