18.神殿と秘宝
「気をつけろよ」
「わかっているって」
背負っていたビリーはチェイスとアンバーに任せ、馬車に乗る。ようやく街に帰れる。
「さすがに疲れました」
調査、探索、戦闘、救護者の移動と、ハードだったせいか足の踏ん張りが効かない。荷台に腰を下ろすと、全身に疲労感が襲ってくる。このまま眠ろうかと目を閉じても、気持ちは高ぶっているのか眠れず、流れる景色を眺めていた。
黒黒とした森は視界の端へと消え、だだっ広い平野が見えてくる。ぼんやりと見える夜空に瞬く星々。一際輝く星を見ながら、こっちの世界にも星はあるんだなと思っていると、馬車のスピードが徐々に緩やかになっていく。いつの間にか街に着いたようだ。
「案内ご苦労だったな」
レナルドは腰にある小さな鞄から何か取り出し、チェイス達に渡した。報酬だろうか。
「案内以上は、できなかったけどな」
「お前達の仲間を思う気持ちで十分だろう」
「……そうか」
「脅威は排除されたが、後日治安所から再調査するよう手配しておく。これで仲間も弔われる事だろう」
「……すまねぇ」
「ビリー氏については、適切な治療が必要だ。これから神殿に向かうが」
チェイスとアンバーは視線を合わせ頷く。
「あたしらもついてくよ」
「最後まで付き合わせてくれ」
レナルドは予想していたのか頷いて答えた。
神殿か。元の世界の知識で言えば、宗教が絡んでくるのだろうと構えてしまう。でも、レナルドの言う"適切な治療"と、"ブラントの記憶"から病院と同様の施設だとわかった。
神殿の場所は、治安所のある行政区と市場の間くらいの距離にあった。
その外観は、夜空から注がれる淡い光と灯火に照らされている。荘厳さに圧倒されていると、番をしている神官が二人見えてきた。夜勤とか救急みたいなものだろうか。
馬車を止め、レナルドが降りた。代表して事情を説明するようだ。
「これはこれは、どうなされました」
「事件に巻き込まれた一般人を保護した。応急処置は行ったが、意識は戻らず憔悴している。治療をお願いしたい」
「ああ、それは大変。すぐに準備致します」
神殿から別の神官が複数人現れ、慣れた動きであれよあれよとビリーを奥に連れて行った。もちろん、チェイスとアンバーは付き添いとして同行した。キャシーのためにも無事回復してくれる事を祈ろう。
「これでようやく終わりましたね」
「私はまだやることがある」
「なんですか?」
「ーー宝玉の処分だ」
レナルドは声を抑えつつ答えた。そういえば宝玉の破片を回収していたな。
「神殿は、そんな事もできるんですね」
「高位の神官のみが使える術がある。最低でも封印が可能だ」
「でも勝手にやって良いんですか? 所長に確認するとか」
「この件に関しては、事後報告で問題ない」
言い切った。それだけ緊急性のある状況なのか?
「……危険なんですか?」
「宝玉自体は半壊し、魔力も感じられない。力は失われているだろう。だが、念の為だ」
レナルドは近くにいた神官に声をかけたが、今の時間高位の神官はいなかったようだ。その代わり若い神官が対応していたが、宝玉関係と聞き青ざめていた。
「……間違いなく預からせていただきます」
「よろしく頼む」
宝玉とは知る人ぞ知る危険物という認識という事だろうか。
「用事は済んだ。行くぞ」
「行くって、治安所ですか?」
「私の家だ」
「はい?」
「君に話がある」
朝一から所長の呼び出された事もあり、嫌な予感しかしない。丁重にお断りしたかったけど、そんな雰囲気じゃない。何かを決意しているように感じた。
「……わかりました」
再び馬車に乗り、レナルド邸へと向かう。
月明かりに照らされた神殿を後に、メインストリートを抜ける。まだ夜は明けてないせいか、賑わう人々の姿もなければ、声も聞こえない。馬の鼻息、地を駆る蹄、車輪の駆動音。ただただ繰り返される音だけが響いていた。




