15.洞窟に潜むモノ
「ここが例の洞窟ですか? ……奥は真っ暗で見えないですね」
岩肌にぽっかりと空いた洞窟。
雑草の一つも生えていない。
光を飲み込むかのような暗闇だけが、そこにあった。
どうも足が前に進まない。チェイスも後ずさりしている。俺達の様子を伺っていたのか、レナルドはため息をつきながら洞窟に一人先行した。え、一人で行くのはまずいんじゃない?
「ちょ、待ってください!」
「無理しなくても良い」
「……そういう訳にはいきませんよ」
「そうか」
強がっているのがバレているのか、レナルドが笑っている気がする。
どうにか第一歩、洞窟に入る事はできた。真っ暗ではあるけど、レナルドの魔法のおかげで視界は確保できてる。それでも奥までは、はっきりしない。それと、じっとりとした空気がまとわりつく。肌に触れる不快さが、より不気味さを増していく。
しばらく歩いていると、腐敗臭が漂ってきた。でもさっきとは少し違う……血の臭いも混じっている。うっすらと人影が2つ見えてきた。
「ああ…… クロード……メイジー」
チェイスが呟くように名前を呼びながら、よろよろと近づく。
あれは男性だろうか。地面と共にひしゃげた下半身。弾けるように地面を赤く染めている。向かいには、うなだれるように座っている女性。叩きつけられたのだろうか、背後の岩壁は人型に赤黒く染まっている。遠目からでもはっきりわかる。二人はもうダメだろう。でも、肝心のあと一人がいない。
「……ビリーさんは、いなさそうですね」
「そうだな……」
ぐるりと周りを見渡してみても、障害物はない。奥へと続く暗がりだけが、視界を妨げている。
見落としがないか、慎重に奥へと進む。
レナルドが何か見つけたようでしゃがみ込み、俺を呼んだ。
「ブラント、こっちに来てくれ」
「……これは血ですか?」
「ああ、間違いない」
レナルドはそう言うと、来た道を指差した。その先には、うなだれるチェイスの姿と、クロードと呼ばれた遺体。血痕はそこから続いている。
レナルドが"おそらく"と推測する。
「トレジャーハンター達を襲った"何か"がクロード氏を殺害。その後、洞窟奥へと戻る際に、付着していた血が落ちたのだろう」
「確かに」
「それにこの地面の凹み。洞窟にできた起伏にしては不自然だ。重量のある物でも落としたみたいだ」
「……クロードさんが居た場所も凹んでましたよね」
「それだけじゃない。一定間隔にある」
よく見ると、地面の不自然な凹みは、クロードの場所から洞窟奥へと続いていた。しかも一定間隔に …… 斜めに …… 左右交互に?
「……足跡みたいですね」
「足跡……か」
レナルドは立ち上がり、洞窟の奥へと向かった。不自然にできた凹みを辿り、深い暗闇を覗いた時、レナルドの動きが止まった。また何か見つけたかな?
「レナルド、どうし……」
「ブラント! 退け!」
レナルドが叫んだ。同時に低く重い破壊音が襲ってきた。土埃、破片、石、欠片がつぶてとなって飛んでくる。とっさに両腕で顔を覆ったけど、防ぎきれない! 痛い!
「レナルド!」
視界の端から、レナルドが宙にいるのがかろうじて見えた。飛んでる? 吹き飛ばされた? 何に? どうやって?
混乱している内にレナルドの巨体は緑色の光をまとい、ふわりと俺の近くに着地した。
「レナルド、空飛べたんですか?」
「少し違う。それより、前を見ろ」
眼の前には、見上げても足りないほど巨大な土の塊があった。いや、それだけじゃない。長く太い腕と、短く太い二本の足が生えている。踏まれたら一溜まりもないだろう。
「……なんですか、あれ」
「ゴーレムの一種だろう」
「洞窟にいるものなんですか?」
「……聞いた事はない」
さすがのレナルドも焦っているように見える。
「こ、こいつだ! こいつが俺らを襲った奴だ!」
……やっぱりそうか。"重量のある物" "凹んだ地面" "潰された男性" どう見ても目の前のデカブツが犯人だ。
「どうします? 一旦退却しますか?」
「ここまで接近してしまったら、倒すしかない」
「倒せますか?」
「倒すしかない。でなければーー死ぬぞ」
レナルドの一言が、やけに冷たく聞こえた。




