11.満腹亭とトレジャーハンター
「おでかけかい?」
治安所の出口に差し掛かった時、デーヴィッドに出会った。相変わらず愛嬌のある笑顔だ。行方不明者の件について大まかな内容と、これから満腹亭に行く事を伝える。
「そうだ、 キャシーさんを家まで送ってくれないか?」
「俺が?」
「ほら、この街も物騒だろう? 」
「そうだな」
「忙しかったか?」
「いや、ちょうど暇してたし、いいぞ」
本当、何をしにここにいるの、この子。
「そういえば、さっきの二人はどうしてる?」
「ああ、しっかりと檻の中さ」
キャシーに言い寄っていた二人は、服役という程の罪ではなかった。ただ、数日から一週間程は勾留され、出たとしても今後目をつけられる対象になるようだ。家までの帰りはマッチョの護衛付きだし、キャシーさんも安心できるし、俺も安心だ。
ビリーの直近の手がかりも得たし、レナルドと満腹亭に向かう。
まだ行き交う人々で賑わう市場の一角、食事処の満腹亭に入る。
人気店なのか、席はお客でいっぱい、満席のようだ。皆が皆、美味しい料理を楽しんでいる。
絶妙な焼き加減で提供された肉が切り分けられ、滴る肉汁と脂が熱い鉄板を焦がす。熱せられた香辛料とハーブの香りが、ふわりと鼻腔をくすぐる。それと、ワインのような、果物を含んだほのかなアルコールも感じる。香りと音だけでマリアージュが完成されている。……絶対うまいやつ。
違う違う。目的を見失わないようにしなければ。
気持ちを切り替えて、人探しを続行だ。でも、この混み具合。人を特定するのは難しそうだ。よく考えたら、この時間にいるかもわからなかったな。
「おや、治安所の人だね。こんな昼間になんの用だい?」
店内を見渡していると、女性店員が声をかけてきた。恰幅が良く”おかみさん”と言いたくなる。
「人を探しをしていまして」
「人探し?」
「ええ、トレジャーハンターをされている方なんですけど」
「ウチにそういうのは、いっぱい来るからね」
特定は難しいか。もう少し絞れるように情報を出してみるか。まあ、この世界、個人情報保護もないだろう。
「メンバーの一人はビリー・ウォーカーさんと言います。五人でパーティーを組んでいると聞いてます」
「ビリーに五人組かい? ……ああ、もしかしたら」
「心当たりありますか?」
「えっと、ほら、あそこにいるよ」
”おかみさん”が指差す方を見ると、二人がけのテーブルにつくお客。ほどほどのつまみと酒を飲んでいるけど、他のお客とは違って、楽しんでいるようには見えないな。
「随分暗い雰囲気ですね」
「なんかあったみたいでさ。最近あんな感じなんだよ」
「……ちょっと話かけてみます。ありがとうございます」
本当にビリーの仲間だとして、あの様子。悪い予感しかしない。予感が外れてくれるよう願いながら彼らに接触する。
二人のお客に近づくと、会話が聞こえてくる。ただ、声が低い。張りがない。お通夜でもやっているようだ。
「……はあ、どうすんだ、これから」
「もうハンターなんて、できなやしないよ」
「だが、あいつ"お宝"って叫んで」
「あたしも聞いたけど、宝なんて見てない……見えたのは、そんなんじゃない」
「ああ、そうだったな」
「……みんな、置いてきちゃった」
「仕方ねぇだろ、あんなデカブツが出てくるなんて……逃げるしか無いだろうが」
「……」
会話していたのは男性と女性。物騒な話をしているようだけど、”お宝”と言ってたな。もしかして当たりかな?
「ちょっとお話良いですか」
「……治安所の人間が何の用だ」
俺らが治安所職員だとわかったのか、男性がぎろりとにらんでくる。なんだ、なんだ。治安所職員はそんなに嫌われているのか?
女性はそれに気づいたのか、男性をなだめながら答えてくれた。
「あたしらは、何も悪いことはしてないよ?」
「いえ、人を探していまして」
「人探し?」
「はい、ビリー・ウォーカーさんという男性なんですが、知りませんか?」
見つめ合う男女。どちらが言うか伺っているようだけど、男性が話し始めた。
「……ああ、よく知っている。だが、もういない」
「というと?」
「ビリーは……いや、違うな。みんなーー死んだんだ」
歯ぎしりするように言い放つ男性、視線を伏せ肩を震わせる女性。悪い予感が的中してしまったのだろうか。
「詳しく聞かせてもらえませんか」
男性はゆっくりと口を開き、"ああ"と了承してくれた。それは後悔や悔恨を含み、懺悔のようにも聞こえた。




