05
「はっ!?」
僕の絶望に反して慌てた様子の松にぃさん。
どうやら消える魔球が使えるわけではないらしい。
「とった!」
いつの間にそこにいたのか、松にぃさんの後ろで、小助がサッカーボールを抱えて立っていた。
「マッジか! ナイスだ小助!」
「嘘だろ……完全に死角から奪われた!? ……この俺が!?」
兄さんが小助を抱えてグルグル回る。
松にぃさんはその場でうなだれていた。
小助の気配を消して物を取る能力は、プロのサッカー選手にも通用するのか。
僕も何度隣から菓子を奪われたことか。
「小助、良くやりましたね」
僕は褒めて欲しそうに目をキラキラと輝かせる小助の頭を撫でた。
サッカーボールに張り付いたポチ袋を剥がす。
中にはやはり一文字だけ『き』と書かれていた。
「これで全部揃ったか?」
「うん」
僕らはそれぞれ持っていた紙を取り出す。
『あ』『ち』『き』の三文字。
「あちき?」
「いや、何かしらの法則とかが……あ!」
僕は急いで暗号の紙を取り出す。
「そっか……そっか!」
「分かったのか?」
「二人の暗号の紙も出して!」
暗号文が書かれた三枚の紙には、暗号の他にも書かれたものがあった。
飴玉に、本、野球ボール。物自体は重要ではない。その描かれた個数が重要なのだ。
「飴玉は一つ、本は三冊、ボールは二つ。この個数の順番に並べ替えれば」
「あ、き、ち……空き地!」
僕らにとって空き地と言われれば一つしか思い付かない。
いつも外で遊ぶ第一候補、家の前にある空き地だ。
僕らはうなだれたままの松にぃさんを置いて空き地に向かった。
時間は夕方に差し掛かっている。夕方のチャイムがそろそろ鳴る時間だ。
「お、来た来た」
夕陽に照らされた空き地でおじさんが僕らを手招く。
「解読おめでとさん。報酬の宝箱だ。開けてみな」
おじさんが横にズレると宝物が現れた。
抱えられるほど大きく、人ひとりくらいなら入れそうだ。僕らは三人一緒に宝箱に手をかけた。
「せーので、開けるぞ」
「せーの!」
サッカーボールに、新作漫画、菓子の詰め合わせ。
中に入っていたのは、僕たちがそれぞれ欲しかったものだった。
「これ! 欲しかったやつです!」
「おかし!」
「っしゃ! サッカーボール!」
「おう! 良かったな」
おじさんは笑顔で僕ロの頭を三人順番に撫でた。
「おい! 早速遊ぼうぜ!」
兄さんは早速、サッカーボールを取り出して僕を呼ぶ、すでに小助は兄さんとパス回しをして遊んでいた。
「おじさん」
「なんだ?」
「兄弟の件、訂正します。――少なくとも、僕たちは例外みたいです」
「早く来いよ!」
「今行きます!」
夕方のチャイムが鳴る。僕は兄さんたちの元へ走りだした。




