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03

「そんじゃ、こっからはちゃんと三人協力して探せよ〜?」

 僕らがラムネを飲んでいる最中におじさんは駄菓子屋を後にした。

「それじゃ、次の暗号まで競争――」

「兄さん!」

「……冗談だっての、協力だろ? 実際、俺も暗号わかんね〜からよ」

「そっか、なら僕の暗号がもう解けてるから、先行きましょう」

「おっ、流石だな。早速行こうぜ」

 僕らは飲み終わったラムネの瓶を梅婆ちゃんに渡すと、僕の暗号の答えの場所へと向かった。


「僕の暗号は、『知識の集う場所はどこ?』と、三つの本の絵。この町で知識が集うと言ったらここでしょう」

 (たけ)書店と書かれた看板の前に立つ。ペンキで塗られた文字は古ぼけていて掠れている。ここは町で唯一の書店で、僕らが生まれるずっと前からここにある。外開きの扉を開けて店に入る。店内はじんわりと温かく、古い本の匂いが鼻に広がる。カウンターには竹爺さんが座っていて、この店唯一の暖房器具であるストーブがその横に設置されていた。

「いらっしゃい」

「あの、ここですよね? 暗号の場所」

 仏頂面で新聞を読む竹爺さんに聞いた。厳格そうな風貌で、眉間にはいつも皺が寄っている。話してみればいい人なのだが、どうしても最初は緊張してしまう。兄さんと小助は早々に飽きて、二人仲良く絵本に夢中だ。

「ん? あぁそうだよ」

「じゃあ、次の暗号貰えますか?」

 竹爺さんは僕をぎょろりと見ると。新聞を畳んで立ち上がった。

「着いて来な。そっちの絵本読んでる大きいのも連れてな」

「はい! ほら、行くよ」

「ん? おう」

「小助ちゃんも行くー!」

 絵本を片して、僕らは竹爺さんに付いてカウンター後ろの扉に入った。カチリと音を鳴らしてつけられた豆電球が、ジジジと音を鳴らしてオレンジに光る。

「狭いから気を付けな」

 所狭しと段ボールが積まれており、人ひとり通るので精一杯だ。部屋の中央でぶら下がる豆電球をくぐって、段ボールの壁で出来た道を抜けると、錆びた扉があった。

 

 扉の空いた先は薄暗い路地裏、黒いしみに覆われた壁面にも段ボールが積まれていた。竹爺さんは積まれた段ボールを指さす。

「中まで運びな。そしたらくれてやる」

「え」

「なんだ。要らないのか?」

「や、やります!」

 段ボールの中は本がぎゅうぎゅうに詰められてずっしりと重い。竹爺さんはただじっと立って僕を見ている。竹爺さんの性格を考えると、運びきらないと本当にくれないだろう。

「なに一人で運ぼうとしてんだ。二人で行くぞ」

 兄さんが反対側を持ってくれる。これならいけそうだ。

「あ、ありがとう」

 二人でやっと持ち上がった段ボール。一、二と息を合わせて運んでいく。気を抜くと落としてしまいそうだ。

「カウンターの横に積んどいてくれ」

 段ボールの道を抜けて、カウンターの横に慎重に下ろす。これをあと五回……先に腕が駄目になってしまいそうだ。

「お兄ちゃんたち、がんばれ~」

 小助の声援を背中にひたすら運ぶ。真冬というのに全身から汗が止まらない、三箱目でダウンジャケットを脱ぎ小助に着せる。

 なんとか最後まで運び切るともう腕はプルプル、明日は筋肉痛確定だ。

 

「お疲れさん」

 ストーブの前で寝転がっていると、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。顔を上げると竹爺さんがお茶とカステラを持ってきてくれていた。

「お菓子!」

 一目散に駆け寄る小助。僕の分はなくなるかな。諦めて床に寝転ぶ。今は小助とおやつ争奪戦をする元気は残っていない。

「お兄ちゃん。起きて!」

 腹にドスンと衝撃が走る。見ると小助がカステラの乗った皿を持って僕のお腹に座っていた。目の前で食べるさまを見せられるのは流石につらいぞ?

「あーん」

 僕の思いとは裏腹に、切り取られたカステラが口に運ばれてくる。疲れた体と脳に和菓子の甘さが染み渡る。あの、あの小助が僕のためにカステラを、お菓子を食べさせてくれている……? 予想外のできごとに脳がバグりそうだ。

「良いんですか?」

「うん! 小助ちゃんが食べさせてあげる」

「良かったな中弥。ありがたく食っとけ」

 僕と同じだけ動いたはずの兄さんはなぜかぴんぴんしていて、一人でカステラを食べている。

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