表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お年玉の暗号と兄弟の絆  作者: 天空 浮世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

03

「そんじゃ、こっからはちゃんと三人協力して探せよ〜?」


 僕らがラムネを飲んでいる最中におじさんは駄菓子屋を後にした。


「それじゃ、次の暗号まで競争――」


「兄さん!」


「……冗談だっての、協力だろ? 実際、俺も暗号わかんね〜からよ」


「そっか、なら僕の暗号がもう解けてるから、先行きましょう」


「おっ、流石だな。早速行こうぜ」


 僕らは飲み終わったラムネの瓶を梅婆ちゃんに渡し、僕の暗号の答えの場所へと向かった。



「僕の暗号は、『知識の集う場所はどこ?』と、三つの本の絵。この町で知識が集うと言ったらここでしょう」


 (たけ)書店と書かれた看板の前に立つ。


 ペンキで塗られた文字は古ぼけていて掠れていた。


 ここは町で唯一の書店で、僕らが生まれるずっと前からここにある。


 外開きの扉を開けて店に入る。店内はじんわりと温かく、古い本の匂いが鼻に広がった。


 カウンターには竹爺さんが座っていて、この店唯一の暖房器具であるストーブがその横に設置されていた。


「いらっしゃい」


「あの、ここですよね? 暗号の場所」


 仏頂面で新聞を読む竹爺さんに聞いた。厳格そうな風貌で、眉間にはいつも皺が寄っている。


 話してみればいい人なのだが、どうしても最初は緊張してしまう。


 兄さんと小助は早々に飽きて、二人仲良く絵本に夢中だ。


「ん? あぁそうだよ」


「じゃあ、次の暗号貰えますか?」


 竹爺さんは僕をぎょろりと見ると。新聞を畳んで立ち上がった。


「着いて来な。そっちの絵本読んでる大きいのも連れてな」


「はい! ほら、行くよ」


「ん? おう」


「小助ちゃんも行くー!」


 絵本を片して、僕らは竹爺さんに付いてカウンター後ろの扉に入った。


 カチリと音を鳴らしてつけられた豆電球が、ジジジと音を鳴らしてオレンジに光る。


「狭いから気を付けな」


 所狭しと段ボールが積まれており、人ひとり通るので精一杯だ。


 部屋の中央でぶら下がる豆電球をくぐって、段ボールの壁で出来た道を抜けると、錆びた扉があった。

 

 扉の空いた先は薄暗い路地裏。黒いしみに覆われた壁面にも段ボールが積まれていた。


 竹爺さんは積まれた段ボールを指さす。


「中まで運びな。そしたらくれてやる」


「え」


「なんだ。要らないのか?」


「や、やります!」


 段ボールの中は本がぎゅうぎゅうに詰められてずっしりと重い。


 竹爺さんはただじっと立って僕を見ている。


 竹爺さんの性格を考えると、運びきらないと本当にくれないだろう。


「なに一人で運ぼうとしてんだ。二人で行くぞ」


 兄さんが反対側を持ってくれる。これならいけそうだ。


「あ、ありがとう」


 二人でやっと持ち上がった段ボール。


 一、二と息を合わせて運んでいく。気を抜くと落としてしまいそうだ。


「カウンターの横に積んどいてくれ」


 段ボールの道を抜けて、カウンターの横に慎重に下ろす。


 これをあと五回……先に腕が駄目になってしまいそうだ。


「お兄ちゃんたち、がんばれ~」


 小助の声援を背中にひたすら運ぶ。真冬というのに全身から汗が止まらない。


 三箱目でダウンジャケットを脱ぎ、寒そうにしていた小助に着せる。


 なんとか最後まで運び切るともう腕はプルプル、明日は筋肉痛確定だ。

 

「お疲れさん」


 ストーブの前で寝転がっていると、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。


 顔を上げると竹爺さんがお茶とカステラを持ってきてくれていた。


「お菓子!」


 一目散に駆け寄る小助。僕の分はなくなるかな。


 諦めて床に寝転ぶ。今は小助とおやつ争奪戦をする元気は残っていない。


「お兄ちゃん。起きて!」


 腹にドスンと衝撃が走る。見ると小助がカステラの乗った皿を持って僕のお腹に座っていた。


 目の前で食べるさまを見せられるのは流石につらいんですが。


「あーん」


 僕の思いとは裏腹に、切り取られたカステラが口に運ばれてきた。


 疲れた体と脳に、和菓子の甘さが染みた。


 あの、あの小助が僕のためにカステラを、お菓子を食べさせてくれている……? 


 予想外のことで、脳がバグりそうだ。


「良いんですか?」


「うん! 小助ちゃんが食べさせてあげる」


「良かったな中弥。ありがたく食っとけ」


 僕と同じだけ動いたはずの兄さんはなぜかまったく疲れてなくて、一人でカステラを食べていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ