01
兄弟仲とは悪いものである。
「中弥! それ俺に貸しな」
読んでいた漫画を兄の大悟に奪われる。僕と一つしか変わらないのに僕より五センチも身長が高い。その代わり、頭は僕のほうが良い。
兄は傍若無人で、取り返そうとしても軽くあしらわれてしまう。
「お前ら、おやつだぞ〜」
正月だからと帰省していたおじさんが皿に菓子を入れて持ってきた。扉が開かれ冷たい空気が暖房の利いた部屋に流れ込む。
「おやつ!」
ぼーっと炬燵で寝転んでいた弟の小助がシュバッと起きる。小助が炬燵から出てくるのは今日二度目、一度目はもちろん朝食の時である。おじさんから皿を奪い取りお菓子を独占するが、呆気なくおじさんに皿を取り返されていた。
「お前ら急げ、全部取られるぞ」
「小助ちゃんのおやつー!」
僕と兄さんがお菓子を取ると、堰を切ったように泣き出す。小助はまだ五歳、僕たちとは一回りも違う。キャンキャンとした声がうるさい。母は小助が泣くとすぐ僕たちのせいにする。この世は理不尽だ。
「うるせえなぁ。まだいっぱいあんだろ。おい中弥! 小助どうにかしてくれよ」
「漫画返してくれたらね」
おやつを食べる兄さんに纏わりつく小助。僕はそれを無視して一人菓子を食べる。独特な風味、おじさんが持ってきた海外のお土産だ。
「お前らせっかくの兄弟だってのに、仲良くできないのかね」
「無理ですよ。兄弟っていうのはそういう風に出来てるんです」
僕たちもその例に反することはないのだ。
「そうだな......よし! 三人集合!」
おじさんがパンっと手を鳴らす。強烈な破裂音に僕たちの動きが止まる。
「お年玉が欲しいか!」
「お年玉! くれるのか!」
兄さんが一目散に駆け寄り、小助がそれに続く。僕は既におじさんの前に集合済みだ。
「ほれ、ちゃんと三人分あるぞ」
おじさんは茶封筒を三枚取り出すと、僕たちに渡す。
「なんだ? これ」
僕たちはすぐに開けるが、中に入っていたのはお金ではなく、一枚の紙きれだ。
「ただお年玉ってのもつまらねえだろ。ちょっとした暗号だ。三人で協力して見つけてみろ」
「暗号?」
僕は封筒に入ってた二つ折りの紙を開く。『知識の集う場所はどこだ』と書かれており、その下に本が三冊描かれていた。
「なるほど! 競争だな!」
兄さんが一目散に家を飛び出した。扉が開かれ、せっかく温まった部屋がまた寒くなる。
「あ! 小助ちゃんも行く!」
それに続いて部屋を飛び出す小助。僕はダウンジャケットを羽織ると、家の前の空き地を抜けて町中に出た。
外はビュービューと冷たい風が吹いており、ジャケットから出た顔が凍りそうだ。時間は朝八時。太陽が地面を温めるにはまだ時間が足りない。本当ならこんな暗号など無視して家の炬燵に潜り込みたいけど、僕は万年金欠。昨日出た漫画を買う余裕もないが、お年玉があれば買えるだろうと踏んでいた。
それに暗号については大方予想出来ていた。知識の集う場所。一番に思い浮かぶのは図書館だが、この近くに図書館はない。僕の足で行くことを考えると暗号の場所はそう遠くないはずだ。そこから導き出された場所は一つ。僕は早速暗号の答えであろう場所へと向かった。
「おい! なんだこのガキ」
突然の罵声。慌てて辺りを見回すが誰も見当たらない。
「聞いてんのか! おい出てこい! けじめつけてやるよ!」
もう一度辺りを見回す。駄菓子屋だ。駄菓子屋の中から学ランを着た中学生らしき二人組が出てきて中へと怒声を吐き続けている。
僕はぎょっとして、目を見開く。小助が中学生に手を引かれて店から出てきたのだ。