7 盾と星座
アウロンド装具店 ーエミル・D・アサネー
鍵しっかりかかってたよな。
「ど、ど、どちらさまでしょう?」
いや、俺もね、結構長いこと知らずにユーレイやってたこともあるみたいだけどさ。同業者にはあったことないのよね。今は生身だし、ご勘弁くだせえ。
少女は黙ってバックラーを差し出す。十六、七かな?前髪パッツンでよく見るとかわいいーって、だまされませんぞ。そうやって近づいて、生気を抜き取る魔物がいるって聞いたことあるもん。
いや、しかし飲み過ぎたのかな?そうでもねえよな。
少女はバックラーを両手で振る。
「え、装着しろっての?」
え、これは、じいちゃんの仕事だ。盾の埃と錆が全て拭い落とされて全くの別物だ。いや、この盾、ドーム状に膨らみ、蒼く光っているけど、これ、只者じゃないぞ。盾の上面はガラスのように透明だが、硬さは金剛石と同じかそれ以上。そのことが霞んでしまうほど凄いのは、その中にあるものだ。宇宙?ああ、これ夜空だ。夜空の半球が盾の中にあるよ!煌めく小さな点は星だ。横から透かせてみる。うん、やっぱりコレ星座早見盤だ。小学生の時に使ったやつ。え、ひとつの星に注目すると星を繋いで星座になるぞ。見たことないやつだけど。
「え、早くつけろって?」
わかったよ。ちょっと釣り目なかわいい目で睨まないでくれよ、ユーレイさん。こうか、盾の後ろ側に固定されている筒状のサポーターから拳の部分に手を通す。なんだこれ、布とか普通の皮じゃないな。ゴムか?いや、一番近いのは、冒険者時代に狩ってたアッケーノの関節とかにある異状に固くて伸び縮みするあの皮。
拳まで入れると、おわ!勝手にサイズを合わせたぞ。拳を固めると龍の顔を象った形になる。
拳の先は盾と同じ材質らしい。なんでも殴れそうだ。
ひゃっ、手のひらに目の模様があるぞ。あ、これ知ってる。破邪の瞳。ファティマの目。アインシュタインにもあったやつだ。何を隠そう俺も両手の手相にあったりするんだよね。
「え、なんだよ。」
ユーレイさんが近寄ってきた。ちょっと薄暗い中、かわいい娘が近すぎじゃない?
ユーレイさんは盾を指差す。この盾が何だっての?悪いけどコレ、ウチが結構な額で買い取ったんだよ。今更、憑りついてるから返せってなしだからね。
「え、違う?」
ツンデレっぽいユーレイさんは盾の中心と俺を交互に指差す。
なんだろ、盾の中の世界は上から見ると中心から円が等間隔で描かれている。中心に目のマークがあるぞ。
ああ、この破邪の瞳か。・・・ということはその瞳は俺?これ、レーダー画面のようなものか?
すっ、とユーレイ少女が盾のある点を細い指先で指した。その先に赤い点が灯った。
同時だった。店舗側の扉がゆっくり開く音がする。
もしや、この盾がレーダーやソナーの役割を果たすものならば。・・・そうか。
足音は聞こえないが、忍び足で床を踏みしめる音がする。十中八九、侵入者だ。じいちゃんじゃない。
ユーレイさんが右手を握って開くジャスチャーをする。
ん?こうか?俺は美少女ユーレイのマネをした。
突然、破邪の瞳が光った!何?ライト付き?・・・そしてその先に照らされたのは?
「アカロ?!」
破邪の瞳の光に照らされ、薄汚い恰好のアカロが姿を現す。
「お前、なんでまた、ここに?」
「エミル!テメーのせいでオレは何もかもなくしたんだ!」
出てきた言葉は、大方の予想通りだな。でも、自業自得、逆恨みだろう。
アカロは壁にかけてあったショートソードを手にとった。
おい、店のもの持ち出すなよ。行き当たりばったりの犯行か?
「エミル!いくらテメーが名うてのテイカーだって、ケガして鈍ってんなら勝ち目はあるぜ!」
うーん。こういうのってなぁ。フラグが立つっていうの?
アカロの姿が消えた。俺は武器は持ってない。狭い店の中だ。俺の得意な槍は使えない。その前にじいちゃんの店の中で暴れたくないんだ。どうすっかな?
アカロのやつ、俺に恨みがあるんだよな。俺を痛い目に合わせたい。思いしらせたいってとこか。じゃあ狭い店内、振りかぶったり、横に薙いだりしたらモノに当たって俺に当たらないこともある。だから、刺し殺すつもりで突いてくるな。それでショートソードか。そして、こういうヤツは犯行が終わったらすぐ逃げる。
逃走経路も無意識に探しているはずだ。俺の腕を怖がってた。チャンスが一回ってのも分かってるはずだ。
じゃあ、ここだな。俺は構えた。殴って済めばいいが、ちょっとリーチがな。足ケガしてるし。
「ひぃやぁっ!」
志卑た叫び声と共に、ショートソードがちらついた。そういやコイツ、シーフだったな。いったい何人その汚い手で殺してきたんだか。盗みは専売特許か。
やっぱり投げやがった。ショートソードは囮だ。俺が左足に体重をかけて避けると踏んで左に短剣を構えて突っ込んでくるな。
俺はアカロの動きを読んで、その凶刃を避けることに成功した。バックラーを使っても良かったんだが、あんな汚い短剣に触れさせたくなかった。さぁどうするか、蹴飛ばしたいけど足痛えな・・・その時、
「任せよ!」 確かに盾から聞こえた・・・。
み、右手、光ってる、光ってるよ。なんか盾の中を小っちぇえ龍が泳いでる。
破邪の瞳からLEDライトよろしく光が目標を追尾している。
何する気なの?ねぇユーレイさん。
「震拳龍姫参る!」
へっ?参るって
「震拳!」
あんっ!
おれは数秒の記憶がない。
気が付けば、アカロは見るも無残な姿になって伸びている。
「衛兵、呼ぼうかの。」
じいちゃんが笑って立っていた。
月の綺麗な夜空だった。




