33 わたし、あったまにきたっ!
ラーナリー郊外 エミル・D・アサネ
「ここは・・・軍?軍の基地じゃないか?」
俺は、赤い光点が集まった地点を地図と照らし合わせた。
距離、方向・・・間違っていない。正規軍の空港だ。
「あーここ、空軍の前線基地だね。奇襲艇がたくさんあるとこ。」
マヤがのぞき込んでくる。ちょっ近いって。
・・・しかし、なんでじいちゃんはそんなとこに拉致られたんだ?
「軍かぁ!つまんない奴らが相手だねぇ。」
「ルシーナ、何か知ってるのか?」
ルシーナはカワイイ顔して、仏頂面だ。
「ほら、私、エミルが冒険者パーティにいた頃から奇襲艇の整備担当だったでしょ?運航許可証とか手続きうるさいのよ。飛行可能区域がどうたらこうたらとかさ。すんごい頭固くてムカついて!その割には仕事遅くて結構いいかげん。ほんでまたムカついて!公務員なんだからしっかりしろっての。いっつもいっつも!」
どうやらお冠のようだ。俺ぁそういやそういう仕事はパスしてからな・・・いつも・・・ゴメン。
しかし・・・空軍の基地に拉致られたとなると目的は・・・。
「ここってさ、輸送艇ってあんの?」
お冠中のルシーナさんに聞いてみた。
「うん、でっかいのがたくさんあるよ。仕事で行く時、よく見るもん。」
ルシーナはあごに人差し指をあてて思い出してくれているようだ。
「それだね。多分」
そうだな。マヤ・・・多分同じことを考えてると思う。
「どっか遠いところに、輸送艇で連れて行く気だろうな・・・。」
「じゃあ、飛んでく前に連れ戻さないと・・・」
そうだよな。・・・とりあえず。
「行こう!」
俺は弾けるように立ち上がった。時間がないっ!
ん?夜だけど大きな黒い影がよぎった。月が出ているから明るいには明るいんだ。
「伏せてっ!」
マヤの声が鋭く飛んだ。
爪!空気を切り裂く音。
俺は見た。俺の上半身ほどの大きさの鋭い爪をもった鳥の足が顔面すれすれでかすっていったのを。
「おい!今ここでかよ!」
転がりながら叫んだ。間違いない。アッケーノだ。
「鳥のクセに夜目が効くなんて生意気っ!」
マヤのつがえた弓が唸り、矢が風をまとって音を置き去りにした。風の女神ラウラの眷属であり、マヤの弓RAー17に宿る風のスキル、翠嵐だ。
その時、
「ナマイキッ!」
と・・鳥が喋った?
翠嵐の矢が消えた。なぜ?
マヤも何が起きたか分からず、弓に二の矢をつがえるのを忘れている。
狩人が矢を外すならともかく、矢の行方が分からなくなるとは・・・。
風が・・ヤツの胸元で渦巻くのが分かった。大きく黒い翼を広げている。
この鳥・・・大きいけれどよく見るヤツだ。
神経質なんで自傷しないように木の籠でよく飼われている・・・特徴的な橙の嘴。
「ナマイキッ!」
やっぱ喋った!
え?今、何を飛ばした?
「危ないっ!」
ルシーナの剣がマヤを襲った鳥の放った攻撃をすんでで叩き落とした。
足元には切断された矢が風の渦の中でグルグルと回って落ちた。
「今のは・・・翠嵐?」
月明りが見せたのか、鳥の瞳にはどす黒い殺意のようなものが浮かんでいるようだ。
「ナマイキッ!ナマイキッ!ナマイキッ!ナマイキッ!」
翠嵐が連発される。風が暴れてもはや台風だ。
しかし、確実に暴風を切り裂く剣の音が響く。
「あっぶなっ!いきなりなんなのよっ」
・・・さすがルシーナ。やっぱりS級の冒険者。
すべての翠嵐・・・もどき?を息も乱さず斬り伏せちゃったよ。
「あんたねぇ・・・何してくれんのよ。」
ああ・・・今度はマヤがお冠だよ。
自慢の弓、RAー17につがえた矢が魔力で燃え始めている。
ん?え?燃えて・・る?やばい爆炎使徒のスキルを使う気?
「マヤ!だめだっ!撃つなっ!」
ダメだ。ダメなんだよう。
その鳥は多分アイツを模したモノだからぁ。
きっとそのスキルは・・・
「あったまにきたんだかんねっ!こなくそっ!」
「だー!だからダメだってぇ!」
マヤの一番悪いトコが出た。短気なんだよ。この娘。狩人のくせに。
炎の精霊はただ真っすぐに、橙に光る嘴を狙って飛んじゃった。




