29 乙女の将来
燃えるアウロンド装具店外 ーマヤ・S・オウマルー
私は見つめている。最初はエミルを襲ったらしい男の背中をだったけど、今はその首に剣を突きつけている細身の美しい女の子を見つめている。
私達はついさっきまで、マチルダさんのお店でグラスを傾けていた。
なんだか騒がしいので外の様子を伺うと火事らしいという。
燃えているのは街はずれに近いアウロンド装具店の方だという声を聞いた。
瞬間、私とルシーナは得物を手に取り、駆けだしていた。
そして、この事態。
直前で大きな爆発音。
上半身が裸で、煤に汚れたエミルと対峙する剣を持つ暗殺者風の男。
迷いはなかった。
そして、彼女もそうなのだ。
今は、その殺気だった彼女の剣が氷のような鋭さをもって男の首に突きつけられている。
燃えるアウロンド装具店。その炎の明るさで彼女の黒髪まではっきり見える。
「エミル、大丈夫?」「エミル、ケガしてない?」
これは私達の口から、初めに出た言葉。
「あぁ、だいじょぶ、だいじょぶ。店、燃えちゃったけどねぇ」
あんた・・・何のん気なこと言ってんのよ!心配したでしょ。
「おじいさん達は?」
そう!おじいさんとステラさんそしてステフはどこなの?
「そぉれがいないんだよ!三人とも。」
なんですって?
「この人がやったの?」
ルシーナの殺気が尖る尖る。
「座って武器を置け!」
男は素直に応じる。私が注意深くその剣を取り除いた。
あ!エミルが近寄ってくる。
「一番訊きたいことはさ。家の者三人をどこへやったかってことなんだよね。教えてよ。」
「喋ると思うてか?」
「このっ!」
ルシーナの刃が角度を変える。ホントに斬る気?
「ルシーナ。やめてくれ。人様にそうそう長く刃を向けるものではないよ。」
「でも、エミル。この人は・・・」
「あのな。こういう稼業の人でも、誰かの子であり、親であり兄弟かもしれないんだ。悲しむ人がいるかは知らないケド。何かの信念や事情でやってんだろ。それに、そんなに殺気を込めたままじゃ、ルシーナの心に良くないよ。アッケーノとか魔物相手じゃないんだからさ。」
甘いよ。エミル。この手の輩はそんなの聞きゃあしないんだよ。
あれ、ルシーナ。剣引いちゃったよ。さすがに鞘には収めないケド。
「アンタ達の欲しいのはコレだろ?」
へ?エミルの額に何か?金色のマーク?紋章?みたいのが見える。え?え?何それ?まぁるい輪が三つ重なってるの?光ってる光ってる。一番上の輪っかが一番光ってる。あ、なんか出てくる。銀色?あっそれおじいさんのお皿じゃん!
「宝の皿!やはり貴様が!」
「動くなっ!」
飛び出そうとした男にルシーナが背から剣と殺気を突きつける。男は止まった。
え?エミル何するの。額の前に現れたお皿を掴んで家の方に向けた・・・
ええーっ?お皿が炎を吸い取っちゃったよ!・・・あぁ消火しちゃった。そうだ雷溶獣の爆発も吸収するんだもんね、そのお皿。
「火は消しとかないとね。ご近所迷惑だし。煙とか。」
男の目の色が変わった。
「あのな。刺客の頭目さん。これ魂封印って言うのな。」
エミルが自分の額で光っている三重輪の紋章と首筋で光っているクモみたいな紋章をのん気に指差している。
「これ、家のじいちゃんが作ってるんだけど、いろいろな物に貼れるのね。するとその魂封印に封じたモノの能力が使えちゃうんだ。もちろん体にも貼ることができる。こんな風にね。だけどさぁ、ひとつ欠点があってね。これ、じいちゃんしか剥がせないんだよぉ。だから!この皿欲しけりゃじいちゃんに頼むしかないんだ。俺を殺しちゃったりしたら、この皿は消えるし、俺は素直に言いなりになることはない。一応、俺、魔王とやらも倒したらしいし難しいと思うよ。」
魔王倒した自覚は朧げかよ。あ、刺客のおっちゃんなんだかワナワナしてるな。
「だからさ、じいちゃんに会わないと話になんないんだって、居場所、教えてくんないかなぁ?」
あ、刺客の野郎なんだか目が据わったな。
「やはりその皿はこの世から葬りさらねばならん!エマルとともに!」
この言葉にはカッチ―ンときたゾッ!
「あんたねぇ!私の未来の嫁ぎ先を燃やしただけじゃなく、おじい様になるべき人を殺すですってぇ?」
「ちょっと待って、マヤ!それは私のセリフよっ!」
ちょっとルシーナ、なんでアンタのセリフなのよ。
「こうなったら我が身を持って!」
刺客が何か覚悟を決めたらしい。動きが変だ。
エミルが叫ぶ。
「いっけね。こいつも自爆か?!」
瞬間だった。
私とルシーナは刺客のクソオヤジを殴り飛ばしていた。
乙女の将来を踏みにじった報いだ!
「痛ったそぉ。気絶してるぜ。まぁいいか。死んでねぇし。」
エミルがケラケラと笑っている。あんたね、家燃やされたんでしょ?腹立たないの?
「形あるものはみんな、いつか壊れるよ。多少の金でなんとかなるものはいいじゃない。誰もケガしてないならさ。」
私、見透かされてる?
「それとねぇ。」
エミルがお皿の中から折れたショートソードを取り出した。いつか泥棒が入った時に折れた壁にかけるレプリカって聞いたけど・・・。
「家の中の物は全部、燃える前に皿に吸ってもらったんだ。・・ほら、婆ちゃんの物とか焼けるの嫌だろ。」
「エミル・・・」
あんたって人は・・・たまには抜けてないんだね。
「だから、場所さえあれば商売もできるしね。」
よっし!アウロンド装具店再建の可能性、出たー!おいっ、なんでルシーナ、あんたまでガッツポーズなのよ。
「でも、おじいさんたちは?」
ああ、それが一番問題よ。
「少なくともじいちゃんの命は無事だ。だって皿が消えてないから。」
「そっか。」
魂封印が消えてなかったんだもんね。それでも心配だけど。
「そして、ステラとステフはそう簡単に倒せない。」
「探すしかないね。」
ルシーナが刺客の傍に座り込んで呼んでる。
「ねえ、これ見てよ。」
殴り飛ばした男の胸元には金の斧の刺繍があった。
「金の斧かぁ」
斧、主に木を伐り足す時に使う道具。
一体、何の意味があるのだろう。




