25 最後の雨は降り続ける
ラーナリー郊外円形ダンジョン5階 ーエミル・D・アサネー
さて、攻撃読まれて当たりません問題は一応解決した。忘れられた後の一撃があの固い石の体に効かなかった場合はまた雷溶獣に攻撃させて、クモさんに忘れてもらおう。
でも、相当威力のの高い攻撃じゃないとあの腹はぶち抜けないぞ。しかも問題は腹が結構でかいということ。俺のスキル核心が見せてくれる核の光はちょうど腹の中央、地面に近い方だ。俺にしか見えていない。せっかく石をかち割っても核を正確に捉えないとまた長引くな。アッケーノってのは痛みは感じてないんだろう。現に足ちょん切られても、動き自体は変わってないし。
「エミル、核の位置見えてんの?」
マヤは狙いをつけるが攻撃は控えているようだ。
「ああ、腹なんだけど、地面に近い方なんだ。」
「じゃあ、背中を攻撃するより、なんとかしてお腹側の方から攻撃した方がいいのね?」
「なんか手があるのか?ルシーナ」
「なんとか上半身を浮かせて見せるから、最初に作ったLv.5の魔法剣の雷で核の位置を指向して!マヤは爆炎使徒と翠嵐を呼び出してくれる?」
「分かったっ!」
炎と風が競い合うようにマヤの矢の先に渦巻きはじめた。ギリギリと弓が唸る。
「じゃあ、行くよ!」
ルシーナは軽く左右にステップを踏み、長い髪が揺れたと思ったらもうそこにはいない。
その手に握っているのは、マヤから譲られたLv.20の魔法剣だ。雷溶獣を宿している。
迅雷。
ルシーナはその剣の雷より早く間合いを詰めた。
S級は伊達じゃない。
石の化け物より低く雷が地を這った。
瞬間。
ルシーナはクモの顔を蹴り上げ、後方へ飛び去っている。
あぁ変わった。クモの目が黒に戻ってもう一度赤黒く。敵意が指向された。
「私を見てくれるのは結構なことよ。でもね。」
ルシーナの手には雷の剣は無い。
「最後の雨」
ルシーナの大量の魔力でスイッチが入った。・・・時限爆弾。
Lv.20の雷溶獣の剣は、クモの腹の下に刺されたんだ。この目的のために。
魔法剣は自らの存在と引き換えに側にいるものを道連れにする。そう魂封印が働きかけたんだ。
クモの上半身が浮き上がる。同時に石の鎧にヒビが入る。
光ってんな。俺は魔法剣の夕電泡雷を核に向けて放ち続ける。俺とクモを雷のプラズマが繋いでいる。
そう、マヤ。ここを狙え。
マヤの目に迷いはなかった。俺の雷を信じてその先に炎をまとった風の矢を送り出す。
ああ、終わりだ。核の光が砕け散るのが核心を帯びたこの目に見えるから。
さすがだな、ルシーナの機転とマヤの弓の正確さ。なにより、この短い間でお互いを信じて連携できるセンスは凄い。二人が握手をしてるな。もうケンカすんなよ。何が原因か知らんが。女の人って分からんね。すぐ機嫌が悪くなるし。
「・・・まだじゃ。」
ん?じいちゃん?じいちゃん何?
じいちゃんの指差す先に天から一本の光りが差し込んでいる。遥か上空、雲の間から一本の綱が垂らされたように。その光りの先はクモのアッケーノの亡骸だった。
「うそでしょ?」
光りに包まれるアッケーノ。その動かなくなった石の足がガチガチと音を立て始めた。割れた石の鎧が何事もなかったように元に戻っていく。
そしてヤツは起き上がった。
・・・なんてこった。切り落とした脚まで元に戻っているじゃないか。
こういうのって、普通、正義の味方の方に起きるもんでしょ。なんで気持ち悪いクモが光りに抱かれてんだよ。げっ、まずい、暴れ始めた。一回死ぬ目にあって、すげー頭にきてるな、こりゃ。
おれは雷溶獣を呼び出して、雷で攻撃をさせた。ルシーナとマヤへの敵意の指向を解くためだ。
だが、クモどもの二人に対する攻撃は止まない。
あれ?クモの目が二つだけ黄色くなって、二人を追いかけてる。
え?俺は無視?かわいい女の子にしか興味ないのかよ。お前。
優先順位を覚えやがったか。ルシーナなんて今、武器はないんだぞ。しかも、クモの巣で動きが読まれているから、攻撃が外れない。魔法で相殺するにも限度がある。
優先順位があるなら・・・。
「エミル!」
俺が囮になる。あの娘たちを逃がす。
足が悪いから、ルシーナみたいには動けんケド、俺を無視するなら・・・。
スケベグモの野郎!スキだらけだぜ。
俺は、持っていた針を一本。クモのアッケーノの腹と足の付け根の関節部分に思いっきりぶち込んだ。
じいちゃん、ごめん。魂封印一枚勝手に使っちゃった。さっき合成を手伝った時、一枚だけ返しそびれてたんだよね。その一枚を針に貼り付けてクモの体に差し入れたってワケ。
なぁ、アッケーノ。おまえにとっちゃその針は小さな棘みたいなもんだろうけどよ。その棘は巡り巡ってお前の心臓に届くとしたらどうだ?核という名の心臓になぁ!
「最後の雨。」
俺はそう唱えた。




