11 それぞれの想い
アウロンド装具店 奥の台所 ーエミル・D・アサネー
今日はひき肉を合わせてピーマンに詰めて焼く。ああ、野菜もあったな。皿に盛ろう。
さぁ、少し早いけど、夕食だ。
「猫アレルギーね・・・。」
愛しくとも触れられないとは、いったいどんな気持ちなのだろう。
おい、ステフそんなにステラの膝がいいのかよ。ほら、お前がいるからステラがケチャップ取れないだろう?仕方ないな。ほら。
でも、あの魔法使いは、ステフの望みを察して彼を手放す決意をした。
ー自分がいなくても・・・この子のためにー ・・・か。
苦いな・・・うん、ピーマンが苦いということで。
「ねぇ、じいちゃん。良かったの?ステフを貰って。」
「ああぁ?仕方ないじゃろう。」
まぁな、だけどステフは、ウチなんかのどこか気に入ったのか?
「まだ、子猫なんじゃよ。」
うん、じいちゃん、見りゃあ分かるよ。とってもかわいい子猫だ。
「あの文献な、やっぱり後の人が書いたものじゃて、正確な事情は書いておらんのよのう。」
まぁ、伝説や口伝をまとめているからな。
「古龍「クゼユーリ」が溶岩の島に住む炎の虎と相対した時とあったが・・・」
うん、そう書いてあった。
ステラがフフフとステフを撫でながら笑う。
何?ふたりは何を知っているの?ねえ。
「ありゃぁ、単なる夫婦ゲンカじゃ。」
あっ、コップの水こぼしちゃったじゃん。じいちゃん。
「龍はの虎にホの字での、産気づいていても、フラフラしとる虎にブチ切れたことがあっての。まぁ傍迷惑な話よ。まぁなんのかんので生まれてきたのが、この子じゃな。生まれて2000年ってとこじゃな。人間に換算すると2歳くらいじゃ。」
あの、料理が喉を通らないのですが・・・。
「じゃあ。この子の父ちゃんと母ちゃんって?」
「炎の虎と古の龍よ。」
ステラさん、さらっと凄いこと言うなぁ。ん?母ちゃんが龍だよね?人間でいうと2歳・・・。
俺は、ステフが甘えるステラを見た。
彼女って星の海を渡る龍の姫って言ってた・・・。
あーそうか、この絵は飼い主と子猫じゃねえ。・・・母と幼い子どもだ。
「分かったじゃろ?母恋しじゃ。」
じいちゃぁん。そういうことかよ。確かに同族の龍で、女の人って滅多にいないだろうからなぁ。
店の前から動かなくなるわけだ。母ちゃんを重ねたか・・・。
「まだ、子猫なんじゃよ。」
ああ、分かった。分かったさ。でも、見てきたように言うなこの人。
お、なんだ。ステフ、俺の方に来て。肉いるか?
しかし、見るからに美しい猫だな。いや龍?まぁどうでもいいか。このヤロ、このヤロ!
「じゃあ、お父さんはエミルで決まりね!」
へっ?今、なんと仰いましたか?ステラさん?
「だって、ほら。ワシはどう見てもじいちゃんじゃろ?」
いや、そういう話ではないんですよ。じいちゃん。
親代わりか・・・そういや、現世ではまともに父親できなかったな。あいつら元気かな?
ー大丈夫、俺がいなくても未来が回ったー・・・もんな。世界は回る。子も育つか・・・。
ステフ、お前の親はどう思ってんのかな?
うん、苦いわ・・・ピーマンが苦いということで。
店の入り口の呼び鈴が鳴る。
「いけない、まだ戸締りしてないんだったわ。」
ステラが慌てて席をたった。
店側で声がする。
「すいません。今日はもう店仕舞いでして・・・。」
ステラの声に若い男の声が応える。
「ああ、申し訳ない。ちょっとご店主にお礼が言いたくてね。」
俺はステフを抱えたまま、じいちゃんと表に出た。
「おお!ジェレミー!」
そこには、包帯でグルグル巻きだが、自分の足でしっかり立っているジェレミーがいた。
「無事じゃったか!」
じいちゃんは嬉しそうに抱きしめる。
「あなた方のおかげで、命も誇りも拾いました。」
薄暗い店の中、その手に握られた槍には、確かに金色の重い羽音が舞っていた。