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夢を叶える。  作者: 鴻上 慧
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夢を叶える。

2時間で書いて校閲なしでの投稿のため誤字脱字、言葉足らずなところがあると思いますが暖かい気持ちで察して頂けると助かります。

 最悪、最悪、最悪だ。こんなんじゃ死んだ方がマシだ。


 

 僕はブラック企業の社畜として生きる二七歳。あからさまにブラックすぎて毎日辞めたくて仕方なかったが、五年付き合っている彼女の為に貯金が溜まるまで嫌でも続けていた。全ては彼女のため。

あまり彼女に贅沢させれなかったが、コツコツと貯めた貯金がやっと目標に達成し、数ヶ月以内にプロポーズしようかなと考えていた。そんな矢先に会社が倒産し、社長が逃げた。未払いの給料、急な職探し、家賃光熱費の支払いどん底もいい所だ。おまけにそれを知った彼女は貴方のせいで婚期を逃したわ、と一言吐いてあっさりとアパートを出ていった。

 当たり前だが、貯金を切り崩す生活の中で彼女との結婚後に住む為に借りたタワーマンションの家賃なんか払えるわけない。早急に契約を切った。社長が逃げただけ、ただそれだけで家、彼女、仕事、幸せ、希望、何もかも失ってしまった。まるで深夜にやる30分ドラマのような人生となった。正直、何か一つでも残れば生きがいがあるのだけども、何も残らな過ぎて生きる意味を感じなくなった。これからどうすればいいか検討もつかない。というか、何を考えてもうまく頭が回らない。

無心で路地裏を歩いていると、一枚のチラシを見つけた。そのチラシはとてもシンプルで、白い紙に黒字が刷ってあるだけだった。ただそれだけなのに何故か気になってしまった。こう、本能的に引き込まれるような何かを感じた。そこにはこう書かれていた。

「貴方の時間と引き換えになんでも願いを叶えます。相談は無料です。」

 書いてある意味が全く分からない。比喩的な何かなのか。というか、比喩でなければ怖い。

しかし、心のどこかに湧く好奇心が無意識にそのチラシの示す建物に足を動かしていた。そのチラシを出している事務所の前まで来てふと、我に戻った。ちょっとチラシの意味も気になるが、事務所の外には看板や案内は一切なく、本当にこの建物なのかも分からず、怪しかった。胡散臭く、何かの罠でしかないと半脳死状態の僕の頭に残された1ミリの理性が、引き込まれそうな身体をピタッと止めた。立ち止まって怪しんでいると、ギイイ、と音を立てながら勝手にドアが開た。どう見ても内開きの手動ドアにも関わらず、内側へと開いた。勝手に開いたり事に驚いて腰を抜かし、尻餅をつくとドアの向こう、闇の中から一人の男性が足音を立てずにスっと出てきた。

「驚かせて申し訳ございません。ささ、中へお入りください。」

 目の前に差し出された手をつかみ、立ち上がる。ありがとうございます、と言いながら手の主をを見るとそこには執事という言葉が似あう凛々しい紳士が立っていた。男でも惚れそうな容姿に、かっこいい、と思わず口に出してしまった。紳士はニコリと笑うと中へどうぞと言い、中に入っていった。そして僕はその人に見とれてつい、言われたまま中へと入ってしまった。

「社長を呼んできますので、そこでお待ちください。お客様はコーヒーはお好きですか」

 紳士はそこ、と言いながらソファーを指さす。ビンテージ感あふれる高そうなソファーだった。

「コーヒー、砂糖が入っていれば飲めます、すみません」

 と言いながら僕はゆっくりとソファーに腰かけた。僕なんかの凡人が腰かけていいソファーに見えなかっ

たので、せめて傷まないように、それはゆっくりと腰を掛けた。

「かしこまりました、少々お待ちを」

 そう紳士は言い残し、姿を消した。次に紳士が現れた時は後ろに知らない男の人がいた。

「コーヒーと砂糖です。あ、こちらは社長です」

 あ、やっぱり社長だったか。社長呼んでくると言ってたし。

 社長と呼ばれる男は正直、人相が良くなかった。男で間違いはないと思うが髪が長く、胸元まであ

った。それに目つきが悪い。全体的にミステリアスなオーラを出していた。というかミステリアスそのものだ。このタイプは自分の人生で出会うことのない種の人間だなと感じた。

「お客様、チラシを見てここに来られた感じですかね」

紳士がそう話を切り出すと、それを聞いた社長らしき人が僕に話しかけてきた。

「チラシ見てきたんですか」

「はい。あ、でも、チラシの意味は正直よく分かってなくて」

「無理もないです。あまり詳細に書いてしまうと人が殺到してしまいますから。困っている人だけ呼べるようにしましたので」

 てっきり、社長と呼ばれる人はかなり人相の悪いため、その人相のままの性格の人なんだと思っていたが、社長の声は想像より遥かに優しく、緊張が少しずつほぐれていった。悪そうな人と思っててすみません。

「その、チラシには時間とモノが交換できるみたいな事が書かれていましたけど」と、僕は切り出す。

「大体のニュアンスは合ってます。あなたの人生の中の時間を貰う代わりに願いを叶えるという事です。」

 チラシにもそういった事が書いてあるが、時間を貰うなんて物理的、科学的に無理だ。

「働くという意味で時間を貰う、という事ですか」

「いえ、人生における何千、何万時間の中から必要分、時間を物理的に貰うのです。」

 全く分からん。それだけの説明で分かる訳がない。

「例えば、僕が一億円欲しいと言ったらどうなりますか」

 そう質問すると、紳士が電卓をカタカタと打ち始めた。

「二十二年の時間を貰います。先払いです。」

 その紳士の計算に付け加えるように社長が話を被せる。

「要するに、本来あなたが二十年働いて稼ぐ金額を、時間を先払いすることで楽して手に入れられるという事で。ただ、それだけじゃうちの商売の利益にならない。ボランティアになってしまう。なので、会社の利益込みで二十二年貰うのです。二年ってデカいですけど、楽に越した事はないかと。」

 言っている意味は理解できたが、正気か、とは思う。そんな事出来るわけが無い。

「色々見積をしたいので、お名前と生年月日を教えて貰えますか。個人情報は守りますし、相談は無料ですので」

 無料というなら、理解できる所まで話だけでも聞こうかな。暇だし。今は何も残ってないから怖い物もないし。

「宇津井 春…うつい様ですね」

「はい」

 紳士は僕の名前と生年月日をタブレットに入力し、社長に渡した。画面を見た社長は先程よりもも

っと優しい声で話掛けてきた。

「宇津井様、私どもは人の望みを叶えるのが仕事です。なのでお客様のニーズに寄り添うのが大切だと思っているのですよ。だからね、本来二十二年頂戴する所を五年分であなたの望みを叶えようと思うんす。」

そんなテレビ通販みたいないい文句されても。極端に縮ませすぎて胡散臭さい。怖すぎる。

「胡散臭いと思うのが当たり前です。心配なら契約書もお作りしますよ」

紳士は笑顔で追加条件を発した。

「本当に五年なんですか?後で利子が余計について請求されたり、周囲の人を巻き込んで金目の物をむしり取ったり、何か無くなったりしませんか。殺されるとかも嫌です。」

「そんな事は一切しませんよ。本当に五年分の時間を貰うだけですから。“初回特典“と思って頂いて、満足していただけたらまた、次回もご利用ください。初回だけでも構いません。」

 そう社長が説明を終えると、手際の良い紳士は契約書を目の前に置いた。

 それは押し印入りの契約書。五年分の時間を先払いで貰う事、他の要件を後から出さない事、周囲の人を巻き込まない事、関節、直接的な殺しをしないことなど、色々こと細かく、漏れなく記載されていた。ここまでしっかりしているのら読む限り、本当に五年でいいようだ。

「宜しければ署名、直筆でお願いいたします」

 一瞬手が止まったが、必ず夢は叶えてくれるようだし、初回だけでもいいみたいだし。

 そうして僕は名前を書いた。

 名前を書いてすぐ、職を失う前に買った宝くじが当たったことを知った。本当に一億が手に入った。社長と呼ばれる人と紳士にお礼を言い、事務所を出た。ちょっとうまく行き過ぎて怖い為、事務所からの帰路は慎重に歩く事にした。ゆっくりゆっくり歩いて家に着いた。ここだけの話、やっぱり裏があって、事故で帰れないとか予想していた。むしろ安全に何事もなく実家について少し驚いている。

 大金が手に入ったが、遊んで暮らしたらもったいないし、大金をモチベーションに人生再スタートするとここに誓う。手始めに就活してみるか。







「社長、一時間経ちましたよ」

「そうか。大金が入った嬉しい気持ちは十分味わえたかな」

「楽しめたと思います。でも社長、上手くいきましたね。彼は当たり前のようにあと何十年あるうちの五年と思っていましたもんね。まさか寿命が元々あと五年と一時間とも知らずに。」

「五年と一時間以上をその場で貰って即死でもしたら、命を追加で貰うことになって契約違反になってしまう。1時間だけ残せばそれは私達が殺したことにはならんし、死因も変わらない。そうすれば5年貰った後たまたま、命が手に入ったってことになる。それだ、こいつはデータを見たら死んだ方がマシだという夢もあったようだし、一石二鳥ではないか。二つの願いを叶えるなんて私は優しいヤツだな。二つも願いを叶えるサービスした上に命が貰えるなんて、今回はとてもいい取引ができた」

「お客様の為に二つ夢を叶えるなんて優しすぎます。でも、優しい死神も私はいいと思います」

「ふふ、そうだな。悪くない」

そう、社長と呼ばれる死神は笑いながら答えた。


いつまで生きるか、生きれるか誰も知らない。知らない中であなたは欲しい物と時間、交換しますか。

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