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19.それからの私達

五十嵐さんとのお付き合いが始まり、もうじき三ヶ月。大学は長い夏休み真っ只中。


休暇前の試験も課題も何とか乗りきり、夏休みは家庭教師のバイトくらいしかやることがない私は、五十嵐さんに誘われるがままちょこちょこお部屋にお邪魔していた。お陰で私の私物が少しずつ増えていっている。


家庭教師のバイトは、ずっと教えていた中学三年生の子が春に無事に志望高校に合格し、大学受験まで引き続き教えて欲しいと言われ、今もバイトが続いている。昨年の秋から教えていた中学二年生の子は三年生になり今年受験だ。週一日だったのが週二日に増え、この夏休みもとても頑張っているので教えがいがある。


五十嵐さんはリーフギャラリーでの個展やイラストのお仕事で忙しくしている。時々夏休み中の翠人くんと遊んだりもしている。


この間はゆりさんと翠人くんと皆でプールに行った。元奥さんと今カノと出掛けられる五十嵐さんって凄いなと思ったけれど、実は全く気にせず寧ろ私のことを気に入って誘ってくれるゆりさんが一番凄いのかもしれない。

私達……と言うかゆりさんのことを知らない普通の人が聞いたら元奥さんと今カノの仲が良いなんてカオスだと思うことだろう。実際は五十嵐さんが引くくらい、ゆりさんが私のことを好きだと言う。「蒼を見捨てないでくれてありがとう!」と言われた時は、五十嵐さんの姉か?と思った。


そしてプールではゆりさんのナイスボディにこっそり撃沈した。小学生の子どもがいる母親とは思えないくびれと、豊満でハリのある胸を携え、堂々とビキニを着こなす姿に振り返る男性の多いこと。お連れの彼女が怒っているのに気がつきなさいよ、と言いたいくらいだ。別に私は競うつもりなんて毛頭無いけれど、標準より気持ち小さめのものを持ってる私は、五十嵐さんが何故私のことを好きなのだろうかと疑いたくなるのも仕方がないと思う。


本人は私の気持ちなんてお構い無しに「水着姿が可愛い」とニコニコして言うのだ。そして耳元でこっそり「脱がしたい」とか言って私が顔を真っ赤にするのを見て楽しんでいる。余裕のある大人はズルい。



そう。五十嵐さんとお付き合いを始めて知ったこと。


「ひなのちゃんのケーキも一口頂戴」


五十嵐さんの部屋でまったりとスイーツを楽しんでいる時、食べようとしていた手をフォークごと掴まれ、五十嵐さんの口に運ばれる。


「ん、美味しい。俺のもあげる」


私が自分でフォークでさして食べようとするよりも前に目の前に五十嵐さんのフォークが差し出される。初めの頃こそ恥ずかしくて戸惑っていたけれど、三ヶ月も経てばこの食べさせ合いにも慣れてきて、差し出されたケーキをパクリと食べた。


「美味しい」


暑い夏でも気にせず隣にぴたりと座り、スイーツを食べる。間接キスなんて当たり前になってしまった。

自分で食べずにやたらと私の口に運ぶから「ヒナの餌付けですか?」と聞いたことがある。「ひなのちゃんだからね」と言われた。ダジャレ?意外とオジサンなところがあった。


いや、そんなところよりも、五十嵐さんは甘いのだ。

スイーツ好きな男は甘くなるのだろうか。


「可愛い」とか「好き」とかが自然と出てくる。日本人男性って恥ずかしくて言えない人の方が多いのかと思っていたけれど、どうやら違うのかもしれない。あのイケメン顔で言うものだから、付き合いたての頃は腰が砕けそうになっていた。最近やっと免疫が出来てきた。


それに二人で出掛ける時は必ず手を繋ぐ。恋人繋ぎが好きらしい。私は夏場は特に手汗が気になるので腕を組む方にスイッチすると「もっと密着して」とおねだりされる。


でも何処かに出掛けるよりもお家で二人で過ごす方が好きらしく、絵を描いていない時は私を直ぐ横に置いて抱き締めたがるし、キスも多い。


世間の恋人達には普通のことなのだろうか?恋愛初心者の私には比べる経験がないので分からない。恥ずかしくて友人にも聞けない。


学科の友人には付き合うことになったと報告したけれど、とにかく恥ずかしくてあまり話してないし相談もしていない。いや、出来ないのだ。優しい友人達はそれはそれは喜んで「おめでとう」と言ってくれたけれど、根掘り葉掘り聞かれるとさらけ出すのが恥ずかしくて「もう勘弁してください」といった感じになり、のらりくらりと小出しに聞かれたことに答えていたら夏休みになって逃れることが出来たのだ。

しかし九月に友人達と旅行に行く約束をしているので、「恋ばな大会よ!寝かさないから!」と宣言されている。友人とここまで親睦を深められるようになったことは喜ばしいけれど、旅行が恐ろしいとも思ってしまう。




しかし、何よりも一番は……




「えい」


「ちょっ……またっ!」


五十嵐さんは私にケーキを食べさせる時、生クリームをわざと私の口元につけるのだ。


「口元についたのをペロッて舐めたいのに、ひなのちゃんはいつも綺麗に食べるから」


「舐められるから綺麗に食べるんです!」


「ダメ。俺の楽しみなんだから」


この人は今日もイケメンの笑顔をして欲望剥き出しなんだ。

舐められたらそれがキスに変わって、昂りと共に押し倒されるのが毎度のこと。


「替えの下着がない」と言ってお泊まりを拒んだ時、「じゃあうちに置いておいて」とさらりと言われた。五十嵐さんのタンスに私専用のスペースが出来てからは本当に容赦がない。


家から下着が減り、お泊まりも増え、お母さんは既に察している。こっそり「避妊はしてね」と言われたからだ。お母さんにはちゃんと報告しなければと思いながら、気恥ずかしくてなかなか出来ないでいる。


ゆりさんが以前、五十嵐さんは「性欲が強い」と言っていた意味を身をもって感じている。

腕を組む時「もっと密着して」と言うのも、私の胸が当たるのが嬉しいかららしい。こんなにも堂々とエロいことを言える人だとは思わなかった。


恥を忍んでゆりさんに対応策の教えを乞うてみようか。あるだろうか、無いだろうか……。


でも結局私はこの甘いキスに腕を伸ばし、そして与えられる甘い愛に溺れてしまうのだけど。




END


最後までお読みくださりありがとうございました。

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