Ⅰ−3
「あ、イベント……イヤ、でも、会いたくない……」
教室へ戻る途中思い出したんだろう、何やら一人ブツブツとつぶやいている。
ここは反応するべきか。
けど、今までは反応せず観察してきたから、急にこっちから何か言ってもつまらない。
わかった、今まで通り観察しよう。
「リンク様、会わずに済む方法とかありますか」
「うん?誰と?なんの話?」
それはさすがに言っている意味がわからないよ、マリアさん。
イベント回避したからこれから先向こうが来る可能性は低くて、そうなるとヒロインから逃げて行こうとか、そういう感じ?
イヤ、違うな。
今回は会わずに済んだけど、僕といる限りまだまだ会う可能性があるから、どうやって自分だけ会わずに済むかってところだね。
「あ、でもそうなるとリンク様のルートが消えて……」
あー、ルートって言っちゃった。
この十年で聞いてないスキルはカンストしてるから、反応するなんてことはないけど。
何やら再び考え込み始めたマリアは教室に戻っていることに気づいていない。
いないのに、ちゃんと自分の席に座るから笑える。
「かわいいな、マリアは」
「…………ふぇ?」
そうそう、そのキョトンとして現状把握するのに時間がかかり、把握できた時に顔が赤くなるコレ。
コレがかわいいんだ。
そういえばマンガの中での僕はマリアにベタ惚れだったっけ。
だけど、うん、わかる。
ゲームでのマリアがどんな性格だったかは知らないけど、このマンガの世界では天然だと思わせられた。
ヒロインをイジメるなんて元から考えない。
だから、これからきっと全力で回避していくんだろう。
「かわいいよ」
「あの、リンク様、みなさんいらっしゃるのですから、こんなところで言わないでください…」
「じゃあ、みんなのいないところでだね」
「そ、そういう意味じゃ……」
赤くなって本当にかわいい。
こんなかわいい婚約者を追放したゲームの自分がわからないな。
確かにヒロインもかわいかったと思うけど、僕的にはタイプじゃないんだよ。
周りからどう思われても、僕はマリアだけいればいい。