にせものとほんもの(小学生一年生向け)
いつの間にか天窓から月明かりが差し込でいた。
何故か倒れていた俺は、上半身を起こしながら目を覚ました。
「あー、頭が重い」
しばらく意識を失っていたようだ。まだ、頭がぼーっとしていて視界がはっきりしない、どれほどの時間が経ったのだろう。
薄暗い視界は二重にみえる。まるで自分の手が四本あるようだ。
試しに右手を挙げると右正面の手も挙がる。左手を挙げても左正面の手が挙がった。
「「あー鏡か」」
……おかしい、自分しかいないはずなのに正面から人の声がした。
違った。
鏡では無かったのだ。俺の目の前にはもう一人の自分がこちらを向いて座っていた。状況の理解が追い付かず微動だにできなかった。ジッともう一人の自分の様子を見る。
「……」
「……」
正面の自分も俺のことをジッと見ている。ただ見ているだけ、まるで、時が止まったようだった。
「……おぉい!!なんなんだよ!」
どういうことだよ?あー頭がぜんぜん働かない。なんでもう一人自分が目の前にも居るんだ。何が起こった。
異様な状況に混乱した。まず、こんな状況になれば夢だと疑うだろう。だが、これは現実である。理解できない現状に恐ろしさのようなものを感じる。
しかし、そんな驚愕している俺とは異なり、正面の俺と同じ姿をしたもうの一人の自分がなぜか目を細め頷いている。
「あー…多分俺、偽者だわ」
俺と同じ姿形をしたもう一人の俺と同じ姿勢で座ったまま真面目な顔でそう言った。
「偽者!?一体どういう意味なんだ!」
「だってさ…俺、消えかけてるし」
偽者の方が冷静でなんだか俺より頭が良い気がする。そして、体がほんの少しだけ薄くなっているように見える。
「ほんとだ!!…なんかちょっと薄いね」
見たまんまの感想を言った瞬間。
「あっ……」
俺と同じ姿をしていたもう一人の自分がシューっと煙りとなって消えてしまった。
「……何だったんだ?」
気持ちを落ち着かせるために息を吐き肩の力を抜いた。すると、
「よぉ」
俺の後ろに先程の偽者がまた現れた。
「いたのか!」
「はっはっは!お前面白いな、反応がガキみたいだ!」
この偽者の言い方なんだか気に触るなぁ、俺の喋り方っていつもこんな感じなのだろうか。
「あのな偽者くん!馬鹿にした言い方は良くないと思ぞ!」
「ん?いや、偽者はお前だぞ」
えっ……?
「実験だよ、実験、偽者を作り出す、じ、っ、け、ん」
「ぇ、あ……」
俺も偽者だったのか……
俺の体がシューっと煙に変わる。
考える間も無く、俺は完全に消えてしまった。
子供が読めるようにルビを振ってます。