(俺)目付きが悪いだけなのに…(姉)いや、たぶん外見だよ(笑)
俺の名前は中村大和…現在、空港職員に検査を受けてます。えっ、どうしたのかって?
えっとね、うん俺ってば目付きが悪いのよ。元々、目が悪くて細める癖が付いちゃってさ。
気がつけば、回りから睨んでるなんて言われて距離を開けられるのさ…でもね、俺ってばヘタレなのよ?可愛い動物大好きなのよ?
けどさ、実家の犬にまで震えられて近づいても来てくれない。悲しいぞ…チャオ。あっ、チャオは実家の犬の名前ね♪
この目付きの悪さで学生時代はよく絡まれてねぇ…全力で逃げてましたよ(笑)
おかげで、逃げ足だけは早くなりました…。
まぁ、そんな俺が友達に相談--誰だよ?友達いたのぉ!?って驚いた人は?いますよ、そりゃあ…そいつもいかつい顔だけどさあ。
「目付き悪いんだから、もう一層のこと髪も染めて金髪にしたら?うんで、オールバックにしたら誰も寄って来ないんじゃない?」
逆効果だと思うが?
「いやいや、今のお前は中途半端に目付きだけ悪いから寄ってくるんだって?そこまですれば誰も寄って来ないって(笑)」
おい、笑いながら言うんじゃないよ?まぁ、一理あるかなって思ってやってみたら大成功!誰も寄ってこなくなりました…はい、本当に誰も。
まぁ、絡まれないだけましだと自分を納得させていたんだけど今回、それが仇になっちまったんだ…。
親戚の結婚式に行くのに黒の縦ストライプのスーツに黒のワイシャツ、ワインレッドのネクタイの装いの俺は家族で飛行機に乗ることになったんだけど…あるだろう?
そう、搭乗前の金属探知機…。
俺が通った瞬間---。
キンコン♪
鳴るわけさ。
「すいません、何か金属をお持ちじゃないですか?」
検査員の方が声をかけてきたから俺は目付きの悪さを隠すためにしていたサングラスを外して、さらに言われる前に時計に財布、ベルトまでも外してトレイに置いて再度、金属探知機へ--。
キンコン♪
はい、また鳴りました。
「もう、金属は持っていませんよ?」
「おかしいですねぇ…ボディチェックをさせていただいても良いですか?規則ですから」
なぜ、規則の部分を強調するのよ?
拒否なんてしませんよ?
俺は小さく頷いて両手を伸ばす。
「では、失礼しますね」
検査員の方が念入りにボディチェックをしてくる。
その頃、家族は他人のふりしてすでに搭乗している。なんて、薄情な家族だ…。
あっ、姉ちゃんだけ爆笑してやがる。
念入りにそう、本当に念入りに調べられた。
「はい、ありがとうございます。搭乗してくださって問題ありません。お手数をお掛けしました」
笑顔でペコリと頭を下げる検査員。
何だか釈然としないが搭乗時間も差し迫っていたから足早に飛行機内に向かうと大爆笑中の姉ちゃんの姿が見えた。
「あはははっ、あ~お腹いたい(笑)」
「最低だな、姉ちゃん」
シートベルトを着用しながら席に付く俺に姉ちゃんはようやく笑うのを止めて思い出したかのように俺を見た。
「あぁ、そうそう旦那がね。あんたと初めて会ったときガクブルに震えてたじゃない?」
おぉ、義兄ちゃんな。うん、覚えてる。確か姉ちゃんと結婚するために挨拶に来たときだったよね?
「そうそう、なんかね親に挨拶するよりあんたの存在に緊張したらしいよ?しかも、年上かと思ったんだってさ♪♪受けるよねぇ(笑)」
その光景を思い出したのか大爆笑を再開する姉ちゃんの姿…いや、ちょっと待て…姉ちゃんの旦那、姉ちゃんと同い年だよな?なんで年上になるんだよ!
「えっ、本気で言ってんの?」
何なの?そのお前はバカか?みたいな表情で俺をガン見するの止めてもらえません…へこむから。
がっくりと項垂れる俺の姿に姉ちゃんは苦笑いを浮かべて軽く俺の肩を叩いて言ったんだ。
「まぁ、姉ちゃんは外見で判断しないからさ。あんたが豆腐メンタルのヘタレ野郎って分かってるから安心しな?」
いや、なんだろう…慰めてくれてるんだよね?俺の豆腐メンタルを面白半分で抉ってるわけじゃないよね?
「あったりまえじゃない!?こんな面白いおもちゃ…ごほんっ、弟は他にいないじゃない♪♪」
明らかにおもちゃって言ったよね?まぁ、いいや。そういえば義兄ちゃんは今日は仕事?
「えっ?あぁ…えっとね、本当は来るつもりだったんだけどさ…まぁ、あれだわ、ねっ♪♪」
なにが、ねっ♪♪だ?歯切れが悪いなぁ。
俺の言葉に観念したのか姉ちゃんは言いづらそうにチラチラとこっちを見ながら…いや、違うな。身体がプルプルと震えてる。
「あんたがね、あんたが恐いから行きたくないんだって…ブッ!あははっ!!最高だったわよ、あんときの旦那の姿。あっ、そうそうあんまりにも面白かったから写メ撮ったんだった♪見る?」
そう言ってスマホを取り出して俺に旦那の写メを見せてくる…うん、どうした義兄ちゃん…なんで半泣きで、しかも青ざめた表情で土下座してるの?うん?俺のせい…そっか、ゴメンね義兄ちゃん。
俺は家で怯えているだろう義兄ちゃんに心からの謝罪をしながら落ち込むのだった。
ちなみにメインイベントの結婚式では---。
親族以外は誰も俺に近づいてこなかった。
そして帰りの飛行機でも----。
キンコン♪
案の定、搭乗前の検査で捕まり検査員に念入りに調べられる俺の姿に姉ちゃんは大爆笑するのでした。
目付きが悪いだけなのに……。
「いや、たぶん外見だよ(笑)」
後日談----。
「ちょっと、大和!あんたのせいで親族にヤ◯ザがいるって言われちゃったじゃない!?整形しなさいよ、整形!!」
親戚の姉ちゃんに罵倒され…。
「あぁ、弟よ。旦那からの伝言…大和君は繁華街に行かないようにね、その道の人にスカウトされるか絡まれるからだってさ。キャハハハハ♪♪」
スマホ越しの姉ちゃんの高笑いを聞きながら、俺はどんよりと落ち込むはめになるのでした。