水色の宝石
物語前に失礼します
正直言って驚愕的なポイントの伸びに一番驚いているのは僕です(゜∀゜) これは言い切れる、僕です。
人生何があるかわかりませんね…兎にも角にもこれからもお願い致します。
あれから3日経ったが、姫様とは会えていない。というのも俺がリトナ姫と会えるのは従士がハミラさんの時だけなので基本的に交代制の従士がハミラさんになるまで会えないのだ。
姫に会えないからと言って俺にだってやっておくことはある。城の掃除ももちろんそうだが、あの事件の事だ。
そう姫が魔物に襲われたというあの事件。やはり妙なきな臭さがある。
俺は仕事中や仕事終わりに城内の仕事仲間に色々と話を聞いて回っていた。仕事仲間は俺の“無警戒”スキルのお陰もあってか、数日で殆ど仲良くなっていた。
聞いた中でひとつだけ有力な情報があった。
「そういえば2年前、その婚約発表があったすぐくらいに急にやめちゃった従士さんがいたわねぇ。結構特徴的な人だったから覚えてるわ」
二児の母であるふくよかで優しそうな仕事仲間の女性はそう言った。彼女はまぁよくいる噂好きのおばちゃんだ。
「なんていう人です?」
「カロさんよ。左目に傷があるのが特徴的だったわねー。今は何してるのかしら?」
「なるほど、情報ありがとうございます!」
「いいのよいいのよー。ローシュちゃんはいい子だからねぇ」
ちゃん、て……。俺も息子くらいの年だからそんな感じで思われてるんだろうか。
さて、そのカロさんとやらを調べてみるか。
俺はハミラさんにその事を相談することにした。ハミラさんは姫の警護をしていない日は割と暇のようだ。
「カロ? 確かにいたわね。2年前に辞めたけど。理由はなんだったかしら……ああそうだ。働く必要が無くなったとか言ってたわね」
「働く必要が……?」
なんだか意味深な言い方だな。
「ええ、詳しい事はわからないけどね。今は確か西の方に住んでるって聞いたけど」
「なるほど……あの、ハミラさん。訊きたい事があるんですけど」
「あらなぁに?」
「リトナ姫がこの前仰ってた2年前の事件についてハミラさんが他に知ってる事は何かないですか?」
「ああ、あれ? あんまりあの事について話しちゃいけないんだけど……まぁローシュ君は姫様から直接聞いてるしいいか」
そう言いながらハミラさんは続ける。
「姫様も言ってたと思うけど、実はあの事件って謎が多いのよねぇ。まずなんであんなところにあんなに強い魔物が出たのかっていう。その後調査隊がいろいろ調べたみたいなんだけど、関所を通った形跡もないしやっぱり謎。唯一考えられるのがどこかの貴族が飼ってた“ペット”の魔物が脱走したんじゃないかって噂」
貴族のペットか。なるほど確かにその説はなくはないだろう。
表立って言うものはいないが、貴族の中にはやはり変わり者もいて、魔物を闇ルートから仕入れて飼っている者もいるらしい。従える為に様々な隷属魔法を用いるらしいが詳細は不明だ。
「でも結局その裏付けは取れなかったって事ですよね?」
「ええ。一応その線も考えて貴族達への調査もしたみたいだけど、結果はなかったようね。まぁ貴族からは王国に大量の献金がなされてるからあまり強気な調査ができないのもあると思うけど」
「なるほど、それは初めて聞きました」
どうやら貴族達は王国と強い繋がりがあるみたいだな。
「まぁあとひとつはあれね、勇者ユート。彼が何故あの時あの場所にいたのか。あの時姫様が出掛けている事は秘密にされていたし、あの道を通ってるなんて知るはずが無いのに。まぁ当時事情を知る者達からは勇者の奇跡とか持て囃されてたわ」
「実は俺はですね……」
「言わなくてもわかるわ。勇者の自作自演を疑ってるんでしょ?」
「わ、わかるんですか」
驚いてしまった。俺の考えはどうやらハミラさんにはお見通しらしい。
「そりゃあ私も当時は勇者の奇跡を信じてたけど……君からあんな話を聞いちゃったらね。勇者への信頼も揺らぐよ」
あんな話ってのは俺がミナを勇者に寝取られた話だろう。やはりハミラさんにはちゃんと話しておいてよかった。
「そうです。俺はあいつの事を恨んでます。だからその事件を疑ってます。あわよくば真相を明らかにしたい」
「仮に勇者が犯人だったとしてどうするつもりなの?」
「それは、わかりません。けど俺はあんなに優しいリトナ姫が騙されているのは許せないんです……! それが俺のエゴだったとしても!」
勇者に復讐したいとは言わない方がいいだろう。ハミラさんには心証が悪くなる。
それに嘘は言っていない。最初はそんな気さらさらなかったがリトナ姫と話していてわかったが、彼女は本当にいい子だ。それがあんな野郎に騙されてるのは気にくわない!
俺は彼女を守りたい。
「……そう、今わかったわ。君が最初にカロの事を訊いたのは彼女が事件と関係があると思ったからなのね」
「ええ……まだ憶測の域ですけど。気になって」
「いいわ、私が少し調べてあげる」
「本当ですかっ?」
「ええ、乗りかかった船だもの。これも何かの縁ね。それに君、放っておくと1人で無理しそうで危ないし」
そう言ってハミラさんは俺の頭をポンポンと叩くと笑った。
思わず俺は涙が出そうになってしまった。なんて優しいんだハミラさんは。
そして俺は調査をハミラさんに依頼して、仕事をしつつ姫様とは週に2回ほど会って話していた。
俺が城に来てから2ヶ月が経った頃、姫様といつものように話しているとこんな事を言い出した。
「私、城下町に出てみたいです」
「出た事ないのですか?」
「一応行った事はあるのですけど、通っただけでちゃんとお店などを回った事が無くて……」
リトナ姫は警護の観点からあまりそういった自由行動は許されていないらしい。
うぅむ、女の子なのに買い物ができないとは可哀想だな。
「じゃあ俺と回りましょうよ」
「ええっ、いいんですか? でも……」
そう言ってリトナ姫はちらりとハミラさんを見る。ハミラさんは深いため息をついた。
「絶対内緒にできますか? それとお顔をあまり晒してはいけませんよ」
「も、勿論ですっ」
俺はハミラさんに手を合わせてお礼を言い、リトナ姫と城下町に繰り出した。とは言っても少し後ろからハミラさんが後ろからついて来てはいるが。
リトナ姫は帽子を少し深めに被って顔を隠していた。
「あっ、ローシュさん。あの服屋さんがみたいです」
そう言って服屋に入り、服をキラキラした目で見るリトナ姫は年相応の女の子に見えた。
「ローシュさん、あれはなんですか? 美味しそうです」
「あれはわたあめですね。リトナ姫は食べた事ないのですか?」
「ええ。初めて見ました。それと、ローシュさん、ここでは私の事を姫と呼んではいけません。バレては大変ですからね。リトナと呼んでください。私もローシュと呼ぶので。」
「そ、そんな畏れ多い」
「これは命令ですよっ? 敬語も禁止です」
俺に人差し指を突きつけ、片目を閉じながらリトナ姫はそう言った。いちいち可愛いな。
「で、では……リトナ」
「ふふ、よろしい。ローシュ」
その後も町を回ってご飯を食べたりいろいろな店を回ったりして気づけば2時間は経っていた。
「そろそろ帰らないといけません」
ハミラさんが現れるとそう言った。
リトナ姫は残念そうな顔をしたがそれを受け入れて頷いた。
「じゃあまた今度お話ししましょう。ローシュ」
「あ、あのリトナ。これを……」
「え? まぁこれは」
俺がリトナ姫に差し出したのは髪飾りだった。先程彼女が雑貨屋に行った際にそれを物欲しそうに見ていたのを俺は見逃さなかった。
俺の懐事情的には痛い出費だが、まぁいいや。俺も今日は楽しかったし。勿論下心もあるがただプレゼントしたいという気持ちもあった。
「さっき、リトナが欲しそうにしてたから」
「ありがとうございます。早速つけてみて良いですか?」
「是非」
そう言ってリトナ姫は帽子を取り俺のあげた髪飾りをつけた。金色の髪に水色の宝石がよく映える。
彼女はその場で一回転した。
「どうです?」
「とてもよく似合っています」
俺は思わず見ほれてしまった。
「ふふ、ありがとう。大事にしますね。ではまた」
そう言って去ってく彼女を俺はただ見つめていた。