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明日へ


 勇者達が去った後の王の間では、俺はある意味1番の恐怖と戦う事となった。


「それで……貴様は儂の娘と親しい仲なのか?」


 王が俺にそう尋ねる。

 これって、どうすればいいだろう。素直に答えたら殺されるかな。

 いや、けど答えよう。嘘つくのはもう嫌だ。


「はい……私とリトナは、愛し合う仲です!」


 言った。言ってやった。

 王様にリトナとの仲を宣言してしまった!

 跪いている状態から恐る恐る王を見ると、王は俺を険しい目で見ていた。

 やばい、殺されそう。


「お父様! ローシュを責めないでください!」

「リ、リトナ!?」


 リトナが王の前に現れたのでびっくりしてしまった。

 けれど彼女は必死な顔をしている。


「ど、どうしても私とローシュの仲を認めてくださらないなら……わ、私は! 家出します!」

「えぇ!? な、なに言ってんのリトナ!」


 リトナの思わぬ発言にその場の全員が驚いた。

 い、いやでもここで男の俺が引き下がるわけにもいかない。


「お、王! 私は……私はリトナと離れる気はありません! リトナと、離れたくはありません!」


 俺達のその願うような叫びは、あたりにいた人々をかなり動揺させたようだ。

 王はそんな俺たちを険しい顔で見た後、突然少しだけ微笑んだ。


「ふん、儂はまだ何も言っておらんわ。だが若いのう……まるで在りし日の自分が如く。おい、ローシュ」

「はっ、はい!」

「貴様、何故儂が宰相になるように言ったのかわからんのか?」


 何故俺が宰相になるように? それは王がその方がいろいろと都合が良いからと……。

 いやでも今考えると別にそこまで都合が良いわけでもなかったよな。


「たわけ、答えるのが遅いわ。常識的に一国の姫がたかが平民と婚約出来るわけがなかろう。それはもう国の宰相程の地位が無ければな」


 その言葉に俺は驚愕した。

 ま、まさか王は……。


「す、全てお分かりで……」

「儂を誰だと思っておる。娘が嬉しそうに話す者の事くらいわかるわ。そして、それが本当に心から慕っているのかどうかもな」


 リトナが俺の事を割と王に話していたのは彼女から聞いていた。

 しかしまさか王が俺のために? 何故王はそこまで……。


「ふん、解せぬと言った顔だな。貴様にはまだわからぬやもしれんが、王族が平民と結婚しようとするといろいろなしがらみが付いて回る。否定する気はない、血族とはそういうものだ。王族である儂でさえ苦労した。平民である貴様には更なる苦難が待ち受けていよう」


 王は、自らの過去を思い出すように時々目を瞑りながら続ける。


「貴様はリトナが慕った男だ。だからあの時、儂は貴様の眼を見た。儂は眼を見れば大体の事はわかる」

「わ、私の目ですか……」

「そう貴様は……一見弱々しく今にも折れそうなのに、眼には燃え盛る意志が宿っていた。絶対に譲れぬ想いと、信念。そして優しさを携えた眼だ。儂は貴様のその眼に惚れたのよ」


 王が俺の事を褒めてくれているのはわかるんだが、非現実的すぎて全然うまく喜べん。


「お、お父様! では私達のお付き合いを認めてくださるのですか!」


 リトナが喜びを隠せずそう言った。


「阿呆、気が早いわ。まずはローシュ、宰相になってみせい。話はそれからだ」


 王からは、やってみろと、お前の覚悟を見せてみろと、言われた気がした。

 宰相になれるのは少なくとも30代からだと言われている。けど、リトナのことも考えてそんな遅くに結婚する事は出来ない。

 俺は、死ぬ気で宰相になるしかない!


「はい! 有難く! 必ずやご期待に添えてみせます!」

「お父様……ありがとう」


 気づけば俺とリトナは涙を流していた。

 王は、そんな俺を見て、


「たわけ、泣くのは達成してからにしろ。励めよ、かっかっか」


 そんな風にして笑った。





 ♦︎




 あれから、10年が経った。


「あーもう早く終わらせなきゃ! 多いよもう!」

「ローシュさーん、こっちの書類もお願いしますねー」

「えぇ!? まだ増えるの!?」


 部屋で様々な国との書類とにらめっこしていると部下にまた白い紙の束が机に置かれた。

 くそぉ、終わる気がしないぞ。


「あ、あとローシュさん。手紙です。ミナ=リーパック様からです」

「……そうか」


 ちょっと気分転換に歩くか……。

 俺は手紙を持ち書斎から出て、城の中を歩いた。


「あら、ローシュ君」


 後ろから声をかけられて振り返る。


「ハミラさん」


 ハミラさんだった。流石に少し顔に皺が見えるようになったけどとても綺麗だ。

 えーと、ハミラさんはあれから10年経ったから今はいくつだ? あの時確か26歳くらいだった筈から、30……?


「ローシュ君? 今失礼な事考えてたでしょ」

「い、いえ! 全くもってそんなことは全然! はい!」

「ふぅん……まぁいいけど。どう、仕事は順調? 最近忙しそうであまり会ってないものね」

「えぇ、大変ですけど最近やっと慣れてきました。けどもっと頑張りますよ!」


 俺は、宰相になった。あれから俺は猛勉強を重ね、過労でぶっ倒れるほど働き、そして3年前に宰相になる事が出来た。

 23歳で宰相になるのは史上最年少記録らしい。しかも平民出付きは前代未聞だ。


「そうよね、宰相になったんだもんね。そっか、あれから10年か。早いものね」

「ええ……」

「君も随分と大人になったわ。昔はあんなに子供らしかったのに」

「そうですかね? あんまりわからないですけど」

「そうよ、頑張ったわね、ローシュ君」


 そう言ってハミラさんは俺の頭をよしよしと、撫で始めた。大人になったという割には扱いが子供なんですが。

 けど、まぁ……とても心地いい。

 俺は、ハミラさんの目を見つめる。


「あらなぁに? そんなに見られると照れちゃうわ」

「ハミラさん……本当にありがとうございました」

「何よ急に? なんのこと?」

「いえ、全部に対してです。急にお礼が言いたくなって」

「変な子ねぇ。私は私のしたい事をしただけよ」


 そんな事を言いながら彼女は笑う。相変わらずハミラさんには勝てそうもない。


 あの後勇者達は、ザレノ城へと向かい今日までの10年間ちゃんと城を守り続けている。

 力が無くなった筈の勇者が今も生きている事は驚愕だが、やはり無事とは言えないらしい。右腕と右足は既に義手と義足だと聞いた。


 勇者に付き従っていた弓姫と杖姫は勇者と結婚する事はなかった。弓姫に至ってはいつのまにか辺境伯の妾として嫁いでしまった。

 杖姫は誰とも結婚せず、戦う事も出来ないため、ザレノ城で事務仕事をひたすらにやっているらしい。


 勇者の力が無くなったという噂は数年前から他国にも広がっている。その噂はザレノ城の兵士達は皆知っているだろう。


 なのに勇者がまだ軍団長としてやっているというのは、俺も思うところがある。

 勇者自身は結局結婚していないらしい。彼の肩書きがあれば結婚には困らないとは思うが、何故か独り身を貫いている。理由はわからない。そして俺も特に興味は無い。


「したい事をしただけですか。けど俺はそれに救われましたよ」

「なら良かった良かった」


 その後もハミラさんとは軽く雑談を交わしてある程度時間が経ったので別れた。

 俺は城の中庭に行くと、木に寄りかかり持っていたミナからの手紙を懐から出す。


「修道女か……」


 ミナはあれから各国を周り、様々な事をその目で見てきたらしい。そして5年ほど前に修道女になった。親に捨てられた恵まれない子供達などを保護して育てているのだそうだ。


 何故俺がそんな事を知っているのかというと、この手紙のように毎月1通ミナから手紙が送られてくるからだ。


 この手紙の中身は見なくてもわかる。俺への謝罪と彼女の近況が書かれている。


 10年間、ミナは誰に嫁ぐ訳でもなく善行を積み俺への贖罪をしているかのようだった。恐らく最初は彼女も自分のした事に後悔して偽善とわかっていても罪滅ぼしにそんな事をしていたんだろう。


 けど今はどうやら、自分がしなくてはいけない使命のように思っているらしい。

 彼女は自分一人で生きていくことができないのだろう。依存して生き続けてきた彼女が出した結論は自分を盲目的に慕ってくれる孤児だったという他にない。


 俺は、この手紙に返事をした事は一度もない。そしてそれは相手も望んでいないのだろう。


 彼女に関して俺がもう何か想ったりする事はないし、もはや憎む事もない。それほどまでに年月というものは心を癒す。


 彼女から受けた心の傷が治る事はないが、もういいんだ。10年前の時点で俺とミナの関係は終わった。あそこからもう変わる事はない。


 さよならをしたミナから手紙が届いた時は驚いたが、すぐにその意図はわかった。

 俺は手に持つ手紙を読み始める。


 やはり『ごめんなさい』から始まる内容。そして自分の近況、そして最後には『さようなら』と書いてある。


 この手紙が届くたび、俺の中からミナという存在は薄れていった。今ではもう手紙を読んでも心の傷が痛む事はない。


 そう、彼女はただただ10年前の俺に謝り続けているのだ。あの日から彼女の時間は動いていない。ずっとあの時の俺に謝り続けている。戻れない過去だと知りながら。


 だから俺は、読み終えた手紙を燃やす。火の魔道具を使い手紙の端から燃やしていく。消えていった手紙は10年前の俺に届くのだろうか。届いたとしても何も変わらないだろう。だけどまだ、仲が良かったあの頃の俺達に届くと良いな。眩い一瞬の思い出に。


「さて……と」


 俺は立ち上がり、城を歩いてある部屋へと向かう。

 扉を開けると、リトナがベッドに腰掛けていた。俺もその隣に腰掛ける。


「あら、ローシュ。どうしたのです?」

「気分転換にね。リトナはお腹は大丈夫?」

「ええ、けど最近元気みたいですよ」


 そう言ってお腹をさするリトナ。

 彼女は今、妊娠している。もうすぐ産まれると聞いたので俺も気が気じゃない。


 リトナも俺ももう26になる。俺達が結婚したのは3年前。王族が結婚するにしては割と遅い。しかし彼女は待ってくれた。そして国王もそれを許してくれた。


「良い子が産まれるといいなぁ」

「あら、貴方と私の子ですもの。それは良い子が産まれるに決まってますわ」

「はは、そう祈ろう」


 そう言って俺達は笑う。

 するとリトナはおもむろに俺の肩に頭を預けてきた。


「ねぇローシュ、私今幸せです……」

「俺もだよ。とても幸せだ」

「ずっとこの幸せが続くといいですね」

「続かせてみせるさ。たとえどれだけ辛い事があっても、俺はもう諦める気はないよ」

「そうですね。希望を胸に」


 そうして俺達は軽い口づけを交わす。


 絶望が己を覆い尽くした時、自分という存在が消えてしまいそうになる事がある。けれど、その時の自分に打ち勝つ事が出来れば、その先には何かがあると信じてる。


 人の心は移ろうものだ。そして簡単に変わることなどない。だから人間は難しい。でもその分、誰にもその先の事なんてわからない。

 未来は誰にもわからないのだから、怖がらずに進むべきなのだ。


 美しく眩い過去には、花を添えよう。

 未来には自らの足で進まなきゃいけない。


 ――俺の未来はまだ、始まったばかりだ。




というわけで完結です!

ここまで見てくださった方々には感謝です!

思った500倍くらいの反響があってびっくりしました笑

感想は全部読んでます!

物語自体に疑問や賛否両論あると思いますが特に僕から語ることはありません!

最後になりますがありがとうございました!

ブックマークや評価してもらえたら嬉しいです!

次作は予定では学園系を書こうと思うのでその時はよろしくお願いします!

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[一言] ハミラさんもいい女やねんな 孕みさんにしたい
[気になる点] 弓姫も殺害未遂の一味に数えられたのに、辺境伯の妾になれるの?一応、貴族の家に入るんでしょ?
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