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復讐と野望の果て


 俺達は少し早足で城の中を進んで行った。すると体中ボロボロの勇者は歩く速度が遅かったようでまだ王の間には入っておらず、ちょうど同じタイミングで俺と勇者達は王の間に入る事になった。


「お、王様……」

 

 王の間に入っていの一番に声を発したのは勇者だった。

 周りの兵士達は勇者のその傷だらけの姿にギョッとする。王はそんな勇者を上から下までじっくり見た後、俺の方を見た。一瞬、俺と王の目が交差する。

「派手にやったな」と言われた気がした。


「……勇者よ。見ないうちに随分と小汚くなったではないか」

「そ、そんな事はいいんです。それより王様、俺は言いたい事があるんです」

「どうした」

「早く、早くリトナ姫と結婚式を挙げさせてください!」


 勇者は汗を大量に流しながら王に必死の懇願をする。


「どうしてそのようにくのだ。貴様らはまだ旅から帰ってきたばかりだろう。今は休み、そしてその――」

「そ、そんな事言ってる場合じゃないんだ! 早くしないと!」

「何故焦る? 理由を言え」

「ぐ、ぬ……それ……は」


 勇者は押し黙った。勇者は自分が力を失った事を王に知られたくないのだろう。勇者からすれば王がまだ自分が力があると思われているうちにリトナと結婚するのが1番何も問題がなくスムーズだ。


 仮に王にその事が知られれば、魔王討伐の功績があるにせよ自分がリトナと結婚できる確率、ひいては自分の権力少なくなってしまう恐れがある。だから彼は早く決着をつけたいのだろう。

 まぁ蓋を開けたら王が力を奪った張本人なのだが。そう見ると滑稽な画だ。


「何も言えぬ者の言に従う気は無いな」

「ぐ……そ、その……力が、無くなってしまったのです」


 勇者は引き下がらない王に観念したのか、白状し始めた。


「ほう、力とな。仔細申せ」

「お、俺の中から、勇者のスキルが消えてしまったみたいなんです。加護も魔法も全く使えなくなってしまいました」


 辺りにいた兵士たちがどよめき始める。


「それで?」

「な、なのでそれが王に知られれば、俺の立場が弱くなると思って。しかも、もしかしたらリトナ姫とも結婚出来なくなるかもしれないと思って……」

「つまり、貴様は儂を謀ろうとしたわけか」

「そ、それは……」


 王の圧倒的なプレッシャーが辺りを襲う。勇者もスキルを失ったせいかわからないが、前はあれだけ尊大に振舞っていたのに、今はカタカタと震えている。


「本来なら許されない事だが、貴様は英雄。その程度は不問にしよう」

「や、やった」

「そう、確かに貴様は魔王を倒した勇者。世界を救った英雄だ。その功績は余りあるもので正にリトナの婚約者として相応しいものだろう」

「そ、それじゃあ」


 勇者の顔がぱあっと明るくなる。完全に結婚を許されたものだと安心した顔になっていた。

 しかし、王は淡々とこう述べた。


「――だが駄目だな」

「え……?」


 勇者は意味がわからないようでその場に固まってしまった。ミナ達も予想外の出来事にひどく狼狽している。


「駄目だと言ったんだ。聞こえなかったか?」

「だ、駄目とはいったい……?」

「リトナと結婚させる事は能わぬと言っておるのだ」

「い、意味がわかりません! 俺は! 俺は、世界を救ったんですよ! 救世主! 勇者だ! その俺が何故駄目なんだ!」


 勇者は折れた腕を庇いながら必死にそう叫んだ。だが王は顔色を変えない。


「色々と理由はある。横暴な態度、女癖の悪さなどな。だが1番の理由を端的に言ってやろう。儂は貴様が嫌いなのだ、どうしようもなくな」

「そんな、そんな個人的な理由で!」

「貴様の心の内にあるは、人の弱みに付け込む浅ましく醜い毒だ。成る程確かに各国が休戦しているとは言え緊張状態に於ける今、貴様のような悪知恵が王になるのもあり得るやもしれん。だが! 儂が重んじるは“義”の心よ。その対極に位置する貴様に、まして娘の命を危うくした貴様に! 娘をやる道理などない!」

「ひ、姫を危うくしたなど……真逆じゃないですか。俺は彼女を魔物から助けたんですよ?」


 勇者はこの期に及んでしらを切るつもりのようだ。

 王は呆れた顔をして、ため息をつくと従者に紙を持って来させた。あれは、ダミーと勇者の誓約書だ。


「貴様のそういうところが、不義であると言っておる。そこまでしらを切るならいいだろう、これを見よ」


 従者はそのまま誓約書を勇者に見せた。すると勇者の顔色はどんどん悪くなっていく。


「こ、これは……な、何故ここに……」

「それに見覚えはないか?」

「ぐ、ぬぬ……これ、は」

「儂は“全て”を知っておる。この期に及んでまだ認めぬというのなら儂は貴様を罰せねばならん。貴様の事は嫌いでも、やはり儂が貴様を異世界より召喚した責任、そして世界を救ってもらった大恩がある。出来ればこれ以上の罰は与えたくはない」

 

 王はそう言って勇者を見つめる。勇者は歯ぎしりを立て、


「くそぉおおおおおおお!!」


 そう言って床に拳を叩きつけた後、観念して白状した。


「はい……これは俺が書いたものです」

「では、我が娘を危険な目に合わせた事を認めるな?」

「……はい。俺が自作自演でリトナ姫に魔物を襲わせてそれを倒しました」

「宜しい。勇者ユートよ、貴様は本来であれば王族殺害未遂で直ぐにでも極刑に処しているところだが、先ほど述べたように貴様には恩もある。それを踏まえて、貴様は“娘リトナとの婚約を破棄”とする」

「ぐ……はい……」


 遂に王によって直接婚約破棄が言い渡された。これで、勇者の野望の1つは潰えたという事だ。

 案外とあっけないものなんだな……。

 勇者はそのままふらふらと王の横にいるリトナの前に歩き出した。


「リ、リトナ……俺は……」


 すがりつくような声でリトナに話しかける勇者。リトナはというと、そんな勇者を哀れむような微笑むようななんとも言えない表情で見る。


「ユート様。私は、あなたの事をお慕いしていました。けれど、私は知りませんでした。あの時の事が嘘だったと」

「あ、あれは! 本当にすまないと思ってる! 騙すつもりじゃなかったんだ! 俺は君の気が引きたくて――っつ!?」


 瞬間、音が鳴り響く。リトナが勇者の頬をひっぱたいたのだ。彼女の目には涙が浮かんでいる。


「謝るべきはっ、私じゃないでしょう! 貴方のせいで、私の従者の尊い命が奪われたのです! 貴方は人の命をなんだと思っているのですかっ!」

「それは……けどリトナは俺の事をあんなに好きだったじゃないか」


 よろよろとリトナに手を伸ばし触れようとする勇者。リトナはその手を振り払った。


「確かにそうだったかもしれません。けれど……それは私がただ自分を救った勇者様との恋に酔っていただけでした。ごめんなさい、今はもう私の心に貴方はいません」

「そ、そんな……じゃあ」

「ええ。改めて私の方から言わせていただきます。私リトナ=マザーセスは勇者ユート=サトーとの婚約を、破棄します!」


 リトナからの直接の婚約破棄。

 もはや勇者の権力が王には届かない事が決定した。


「な、何故だ。何故なんだリトナ。君の心に俺がいないなら、今は他の誰かがいるっていうのか!」

「……ええ……います。私が今、本当に恋しているのは……ローシュですから!」


 リトナは堂々たる声でそう言った。

 瞬間、周りの目線は俺に集まる。俺はここでも異端児だから、名前はみんな知ってる。

 俺はもう引き下がれない。引き下がらない。

 リトナの横に並び、勇者を見る。


「お、お前……お前がリトナを……お前のせいで俺はぁぁあああ!」


 勇者は発狂して俺に折れてない方の腕で殴りかかってきた。

 怒りに任せていて動きが単調だ。

 俺は彼を足払いにかけ、転ばせた。


「ぐぅ! ……ふざけやがってぇ!」

「酷い顔だ。俺もお前にミナを奪われた時はそんな顔をしていたのか?」

「く、くそっ、てめぇがまさかリトナにまで手を出してるとは。くそが! これで満足か!? ああ!? 復讐達成じゃねえか、ははは!」


 勇者は俺の話を聞かず、ひとりで呻いている。

 俺はそんな彼を見て……ひどく憐れんだ。


「満足だ。俺はようやく復讐を遂げる事が出来た……満足さ。けど、何故かな……別に嬉しくも楽しくもない。あんなに憎んでいたお前が今目の前に這いつくばっているのを見ても、憐れみしか出てこない」


 心の中はすでに落ち着いていた。確かに満足感はある。使命を果たしたと。俺は自分に打ち勝つ事が出来たんだという満足感だ。


「勝ち誇りやがって……!」

「そうさ。俺はお前に勝ちたかったんだ。傲慢なお前に全てを奪われた。だから俺はお前から奪おうと躍起になった。けど途中で気づいたんだ。俺はお前にはなれない。人の物を奪おうとしてもどうしても心が邪魔をする。それが偽善だとわかっていてもね……」

「そんなものは、詭弁だっ。自分を正当化するためのな!」

「そうかもね。ただこれだけは自信を持って言えるよ。俺は、リトナを愛している。誰よりもだ」

「……ぐっ」


 俺は宣言するように勇者の目を見てはっきりとそう言った。すると彼は俺からの視線に耐えられなかったのか途中で目をそらした。


「お前は……勇者として世界を救い、綺麗な婚約者が3人もいて、それでもお前はそれ以上に何を望むんだ」

「望みに、野望に最果てなんてない! 行けるなら何をしても! どこまでも行くのが男の本懐だろうが!」

「勇ましい考えだな。けど今のでお前が俺の目の前に伏してる理由がわかったよ」


 俺は一呼吸を置いて、勇者に言った。


「お前は、“人の心を舐めすぎだ”」


 勇者は事実を認めたのかうなだれた。

 俺の勇者への復讐はここに終わりを迎えた。

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