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復讐



「王様、俺リトナ姫と結婚できるんですよね?」


 王との話の最中に唐突にそう切り出した勇者。王は一瞬殺気染みたものを発した気がしたがすぐに平静な顔に戻った。


「それは良いが……実は貴様らにはまだやってもらわなくてならぬ事がある」

「え? 魔王倒したのにまだあるんすか?」


 嫌そうな顔をする勇者。

 それにしても凄いな勇者。いくら勇者とはいえあの王様にあんな態度がとれるとは。そりゃ王様も嫌うわ。


「とは言っても他国への顔見せのようなものだ。他国に勇者達の顔を見せ、そこで歓迎してもらう。そのようなものだ」

「なるほどぉ。それくらいなら行っても良いですよ。女の子もいそうだし。よし、じゃあ早速行くかぁ、ん?」


 勇者は立ち上がった時に俺の方を見た。そしてそのままこちらに向かってくる。

 どうやら俺の存在に気づいたらしい。


「なぁおい、ミナ。こいつってお前の元婚約者だよな?」

「あら、ローシュじゃない。なんであんたがこんなところにいるの?」


 さてと、どうやって話そうか。いいや、てきとうに話しておこう。


「今、宰相の見習いをさせてもらってるんだ」

「へぇ、お勉強頑張ったんだね。よしよし」


 そう言って、ミナは笑いながら俺の頭を撫でてきた。それを見て勇者も笑っている。

 もはや俺はなんの感情も抱かなくなっていた。

 俺は静かにミナの手を頭からどけた。


「何よ、昔はもうちょっと可愛げあったのに」

「ははは、ミナ。お前嫌われたんじゃねえの?」

「そんなわけないじゃない。この人私の事大好きだったんだから。ねえ、ローシュ?」


 ミナのその質問に俺は曖昧に答えた。


「……さぁね」

「なぁミナ。折角だしこいつも一緒に連れて行こうぜ」

「いいわね、楽しそう。いいでしょ? ローシュ」

「一度王にお伺いしないと」


 そう言って俺は王と目を合わせる。王が少しだけ口元の端を吊り上げたのが見えた。俺も思わず笑いそうになる。

 まさか勇者から同行を許可してくれるとは。


「ちょうど儂も誰か1人同行させようとしていたところだった。よかろう、そこの小僧を連れて行くといい」


 王様演技上手いなぁ。

 俺は感心しながら勇者達の諸外国への遠征に付き添う事に成功した。


 俺の今回の役割は至極簡単だ。もはや勇者には“加護”はない。ただの人だ。即ち今から行く諸外国では赤っ恥をかくことになる。それを見届けてやるのが俺の仕事だ。


「おら、お前さっさと準備しろよ」

「いてっ」


 勇者が支度をしていた俺のケツを蹴ってきた。くそ、早速本性現しやがった。

 そうこうして俺達はまず北にある国に行く事になった。馬車の中でも勇者は所構わずミナ達に手を出していた。こいつの頭に理性というものは存在しないのか?


 そして国に到着すると、すでに民衆達が歓喜をあげて、勇者達を迎え入れていた。

 慣れた手つきで民衆に手を振る勇者達。俺はというと隅っこの方で縮こまっていた。


 そのまま俺達は国王の元へと挨拶に向かった。この国の国王は優しく、丁寧な対応をしてくださったが、相変わらず勇者は大きな態度を取っていた。そんな時、国王はある話を切り出す。


「――して、勇者殿。今回貴殿は我が国の為に何かお披露目をしてくれるそうですな」

「お披露目? そんな事俺聞いてませんけど……」


 勇者は困惑した顔で辺りを見渡す。ミナ達も首を横に振り、知らない様子だった。


 それもそうだ。それは俺が考えた内容だからな。王様に頼んでこっちの国王に『勇者が何かお披露目をしてくれる』と言った手紙を出してもらったのだ。

 さて、ここからは俺の仕事だ。俺はここぞとばかりに前に出る。


「畏れながら王、発言してもよろしいでしょうか」

「あ、てめ。何勝手に出てきてんだ」


 勇者が何か言ってきているが無視だ。


「はて、お主は?」

「申し遅れました。私、この度勇者殿の付き添いとして来ました宰相見習いのローシュと申します」

「ほうほう。なるほど。して、なんじゃ?」

「有り難く。今回の勇者様の『お披露目』とは、“演武”にございます」

「演武、とな」

「はい。この国の戦士と勇者様が闘っていただくのです。これは戦士達の意識の向上、ひいては我が国との関係を深めるものになると確信しています」

「成る程成る程。お主の言う事一々尤もなり。ではすぐに支度をさせよう」


 そうして王は周りの者達に指示を出し、演武の準備をさせ始めた。

 勇者はと言うとヘラヘラと笑っている。


「なんだこの国の奴と闘えばいいのか。楽勝じゃんか」

「ユート様に倒されるなんて光栄な事よね。ユート様、かっこよく倒してね?」

「任せとけよヒナ。今日の夜は覚悟しとけよ?」

「もうっ」


 ヒナと呼ばれた弓姫の女性は顔を赤らめていた。

 まぁ本当に夜もその心意気のままでいれたらいいな。

 俺はそんな事を思いながら闘いの時を待った。


 1時間ほど待つと、城下町にある闘技場と呼ばれる大型の試合場所に多くの人々が押しかけていた。普段闘技場は戦士達の研鑽や、賭け試合などが行われる場所である。


 演武が行われる前に司会者により様々な紹介がなされ、戦士が入場してきた。彼はこの国の戦士長らしい。民からも人気だ。

 そして勇者も入場してきた。凄まじい歓声が場内に溢れた。勇者はそれに手を振り応える。


 2人は少しずつ近づき、ある距離で止まった。そして剣を構える。ちなみに剣といってもこれは親善試合なので木剣である。


「では……始めっ!」


 司会者の合図により試合が始まった。

 勇者は余裕をかましているのか自ら攻めることはしなかった。相手の戦士が攻めてくるのを待っている様子だ。


「はああああああ!」


 戦士もそれに気づいたのか、剣を振りかぶり走っていくとそれを勇者の目の前で振り下ろした、と見せかけてそれをフェイントに右足で勇者の横腹めがけて思い切り蹴りを放った。


 実を言うと、この時まで俺は半信半疑だった。本当に、勇者は加護を失っているのか? 失っていなかったら俺の計画は終わりだ。

 だが、神様は最後には俺に微笑んでくれたらしい。


 いつもだったら絶対に見切れる筈の戦士による蹴りを、勇者は無防備に横腹に食らった。


「ぎゃああああっ!」


 勇者はそのまま2メートルほど吹き飛ぶ。そして芋虫のようにゴロゴロと転がった。


「い、痛ええ! な、なんだ何しやがったあの野郎。この俺にここまで痛みを味あわせるとは!」


 勇者はそう叫んだ。その言葉に戦士は困惑していた。

 それもそのはず。彼にとってはただ力を込めただけの蹴りだ。それがあの英雄である勇者にここまで傷を負わせらるとは思わないだろう。

 見ていた観客達からも困惑の声が聴こえてくる。


「え? あれって……勇者様、なんだよね?」

「にしてはなんか……弱くない?」

「まさか? あれは演技じゃないの?」


 そんな声が観客の方から聴こえてくる。まぁ初手であそこまで吹っ飛ばされればそうなるか。


「ち……とりあえず回復魔法を……あ? な、なんで回復魔法が発動しないっ」


 勇者は回復魔法を発動させようとしたが出来なかったようだ。彼は今、回復魔法どころか何も魔法を扱えない。

 戦士は、困惑していたものの勇者のその隙を狙い、剣で彼を攻め立てた。


「ぐっ、くっ」


 勇者はなんとかその攻撃を剣で防いでいた。どうやら剣術は体に身に染みているようで、加護が無くてもある程度は防げるようだ。

 だがそれでも一般よりは少しできる程度の腕だろう。魔力と共に練り上げた戦士の剣戟には敵うはずもなく、遂に木剣を弾き飛ばされた。


「ぐあっ」

「隙ありっ!」


 戦士はガラ空きになった勇者の肩から胴にかけて斜めに木剣を振り切った。木剣とは言えめきめきと骨か何かが軋む音をさせながら勇者は叩き切られた。


「ぐあああああっ!」


 勇者は断末魔のように叫ぶとその場にぶっ倒れた。戦士はそんな勇者の顔に木剣の切っ先を向ける。もはや勝敗は明らかだ。

 あたりは静まりかえっていた。そして司会者は困惑したまま勇者と戦士の顔を交互に見ると口を開いた。


「こ、この演武は我が国の戦士長イヒトの勝利です」


 その発言で場内の観客は再びざわつき始める。


「お、おいおい。イヒトさん勝っちまったぞ?」

「な、なんかさぁ?」

「うん。なんかやっぱりあれだよな」


 ――勇者、弱くね?


 会場の雰囲気はそんな感じに包まれていた。よしよし、俺の思った通りだ。


「俺はこんなのを見るために金払ったわけじゃねえぞ! 金返せこら!」

「そうだ! 金返せー! 何が勇者だ! 弱いじゃねえか!」


 この演武を見るためにお金を払ったお客達が激怒して物を勇者に向かって投げつけている。恐ろしい、人間ってのはここまで手のひら返しができるものなのか。


 そして兵士達はなんとか客が暴動する前に勇者達を退却させ俺達は再び王のいる間にやってきていた。

 勇者は先ほど受けた傷が癒えておらず、身体中に包帯を巻いて跪いている。


「申し訳ございません」


 俺は頭を地につけてそう謝った。


「ほら、勇者様も!」

「な、何しやがる!」


 俺は勇者の頭を手で押さえて土下座を強要させた。今の彼ならば俺の腕力でも容易い。


「負けたのはあなたでしょう。あんなにあっさり負けてしまったら演武の意味がありませんよ! あんなに準備もしていただいたのに! ほら、早く謝って!」

「ぐ……く、くそっ!! も、申し訳、ござい、ません……っ!」


 そうして勇者は土下座をしてこの国の王に謝った。

 なんという状況だ。俺は今、あの勇者に土下座をさせているのか。


「も、もうよい。今回は勇者殿の体調が良くなかったのだろう。また今度、機会を設けよう」

「寛大なご対応に感謝しかありません」

「今日は休むとよい」


 俺達はそう言われ、城に泊まる事になった。

 夜中、打たれた傷が痛むのか、勇者が呻いていてうるさかった。

 夜、廊下を歩いていると今日は一緒に部屋にいる筈だった弓姫のヒナが前から歩いてきていた。


「こんばんは」

「あなたは確か、ローシュだったかしら……」

「ええ。ヒナ様はどうしたのです。今宵は確かユート様のお部屋にいらっしゃると言われていたような」


 俺がそう言うとヒナは少し俯いた。言おうか言わまいか迷っている様子だ。だが口を開いた。


「……ユート様が呻いてて寝れやしないのよ。それになんかちょっと今日のユート様、格好悪くて……幻滅したわ」

「そうですか。それは大変ですね。ではおやすみなさい」

「ちょ、ちょっと……」


 彼女は俺に何か言いたげだったが俺は無視して部屋に戻る事にした。

 早速仲間にも変化が現れてるな。所詮はその程度の絆というわけだ。さて、明日も楽しみだな。


 そして、次の日を迎えた。

 勇者は寝れなかったのか、目にくまを抱えていた。


「では出発しましょうか」

「よ、よし。これで王都に帰れるんだな」


 勇者が嬉しそうにそう言うが、俺は微笑を浮かべて否定した。


「何を言っているんですか。あなたがこれから行くのはダメヲシ王国ですよ」

「は?」

「勇者様にはまだあと3つの国に回り、“演武”をこなしてもらいます」

「な……な……」


 勇者の顔が真っ青になっていくのを俺は見逃さなかった。

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