ここはどこ?
あなたは全てを失って気がつくと知らない世界に来ていたらどうしますか?
木々が鬱蒼と生い茂る森の中至る所が破け土で汚れた衣服を着た女性がふらふらと今にも倒れそうに歩いていた。彼女の体には無数の擦り傷や切り傷がありこの森の中に潜む危険から命からがら逃げてきたのか片方のパンプスはなく、履いていない方の足のストッキングは破けて指先は血が滲んでいた。
「うまく……まけた……?」
力なく呟くと彼女は大きな木にもたれ掛かるように座り込んだ。体力を回復のために息を整えながら彼女は思考を巡らせた。
(何でこうなったんだろ…てか、ここどこなのよ!!)
事の始まりは5時間ほど前になる…………
_____5時間前_____
高層ビルが並ぶオフィス街、その中の一室で一人の女性を囲む様に机が並べられ威厳のある男性たちが座っていた。真ん中にいる彼女の名前は三河憂羽。24歳で短大卒業からOLとして会社で働いていたが現在彼女は上司がしたミスを憂羽がしたと濡れ衣を着せられ懲罰委員会が開かれていた。
「三河くん、君の犯したミスは会社が倒産しかねない重大なミスであったと理解しているのかね?」
眉間にシワを寄せながら一人の中年男性が憂羽に話しかけた。
「先程から何度も言っていますが、私はただ区土原課長に渡された書類をただ指示通りに顧客会社に送っただけです。」
「私に責任をなすりつけるのはやめたまえ、君は私の書類を見た後人に見られぬよう自分で作成した書類にすり替えていたと報告が上がっている。匿名を希望しているので誰かはあげることは出来ないがな。」
憂羽の発言のすぐあとに発言したこの男こそミスを犯した張本人の区土原である。区土原は入社歴が長く上層部からは一目置かれていたため新米にあたる憂羽の言葉よりも彼の言葉を皆信じていた。
憂羽は会社を危機に陥れた責任と反省の色が見えないとして前代未聞の即時解雇とされた。
「私じゃないのに……」
少しやつれた顔で会社から去る憂羽。まだ昼前であるが、何もする気が起きず憂羽はそのまま帰路についた。駅に着きホームで電車を待っていると憂羽の携帯がなった。
(何?知らない番号、誰だろ?) ピッ)「はい。三河です。」
『警察です。三河憂羽さんでよろしいでしょうか?』
「はい。そうですが……」
『落ち着いて聞いて下さい。貴方の御両親が…………』
快速の電車が駅のホームをすぎるのと一緒に今の憂羽には衝撃的な事を告げられた。憂羽の両親の事故死である。それを聞いた憂羽はしばらく頭の中が真っ白になり携帯を落としたのも気が付かずその場に立ち尽くして待った。
『三河さん!?大丈夫ですか?もしもし!』
しばらくそのまま立ち尽くしていると電車がホームに入ることを知らせる音楽が鳴り始めた。その音に反応したのか憂羽の体は何かに引き寄せられるかのように線路に向かって歩き出した。
(電車が来てるのに……止まらなきゃ……)
頭ではわかってるのに歩みは止まらない。
(あ、落ちる……)
ドサッと線路に落ちた憂羽。ホームでは憂羽に向かって叫ぶ駅員や非常ボタンを押せと叫んでる人もいた。しかし、無情にも電車は既に目の前に。ブレーキをかけているが止まれる勢いではなかった。
(死んじゃうなこれ……まぁ死んでも誰もいないから悲しまないし、ここならあのクソも使うからあいつが来たら化けて出てやろ。ちょっとした復讐できるじゃん。)
と思うと同時に憂羽は意識を手放した。………………
ギャ-ギャ-! キキキキキ…… グ-グ-グワン!
(うるさい……寒い……ん?寒い?) バッ)
様々な鳴き声?のような音と肌寒い気温によって憂羽は意識を取り戻した。憂羽が目覚めるとそこは木々が鬱蒼と生い茂る薄暗い森の中であった。
(天国?いやいやいや流石にこれは天国じゃないでしょ。じゃぁまさか地獄?地獄にしては何かぱっとしないな……地味に寒いし。)
憂羽はお尻の土をはらいながら立ち上がるとあたりを見渡した。
「寒いって感じるって生きるのか……死ねなかったんだ……あのまま電車に引かれて駅のホームに化けてでたかったな……ん?私さっきまで駅のホームにいたよね?」
サラリと恐ろしいことを言いながら死ねなかったことに後悔するかと思いきややっと今いる所に疑問を持った憂羽。おっそいなー(笑)
「なんか今ディスられた気が……ありえないか。生きてるんだとしたら家に帰らないと……母さん達の葬式とかの準備とかあるし……。で、ここはどこ?」
ゴホンッ!(気づいたよ怖いなぁ)気を取り直しまして。生きてることが確認できた憂羽は再度あたりを見渡した。しかし、あたりをいくら見渡しても木々や見慣れない植物ばかり。
「薄暗いってことは樹海?まさか富士の樹海に来ちゃったの?確かに自殺願望一瞬だけどあったけど流石にここまで無意識で来るなんてアハハ、私って怖。」
冷静に現状把握を始めている憂羽。そんな憂羽に忍び寄る影があった。
「富士の樹海って一回迷い込むと出られないんだよね、どうするか……」
グルルルルルル!
「へ?」
肉食獣が唸るような音が背後から聞こえ、油が切れたロボのようにギギギという効果音がつくように顔を青ざめながら憂羽が振り向くとそこには3メートルはあろうかという大きさの熊?がいた。しかし、普通の熊では明らかに違った。
「クマニシテハオオキイデスネ……ソレニメガ……トテモギラツイテイラッシャル……」
動揺しすぎて片言な敬語の憂羽。生命的な本能が危険だと知らせてくるが足がすくんで動けなかった。立ち尽くしていると熊?はしたから上に大きく腕を振り上げた。振り上げると同時に白い三日月状のものが現れ憂羽に襲いかかる。
「んぎゃーーー!」
変な悲鳴をあげながら本能的にかろうじて回避をした憂羽。そして元いた場所を見ると地面は縦一線に深く切り込みが入っており3メートルほど後ろにあった太い木が切り倒されていた。
「ここ、富士の樹海じゃない!!そして逃げなきゃ死ぬ!」
憂羽は一目散に熊?とは逆方向に逃げた。逆方向に逃げることで運が良ければ森を抜けられると考えたからである。それからどのくらい経ったがわからないぐらい逃げて現在に至る。
「おっては来ていないかな?はぁ、さすが森。方向が全くわかんない……。なんとなくさっきより暗いから日が暮れてきたのはわかるけど。あんなのがいる森で一夜過ごせるわけない!早く出ないと!」
しかし、時間は刻々と進み日はすっかり落ちてあたりは真っ暗になってしまった。諦めかけたその時小さな明かりが憂羽の目に入る。
(明かり?揺れてるからライトじゃないけど……くらいとこにいるよりは……)
飛びそうになる意識を気力だけで持たせながら明かりに向かって歩き出す。1歩また1歩と歩いてゆき明かりにたどり着くと一人の男がいた。男性というよりも青年に近い顔立ちをしている。森の中に急に女性がしかもボロボロない服を着ていたので青年はひどく驚いていた。
「え?こんな所で何を?え?」
「助けて……くd」バタッ)
「えええ!しっかり!ねぇちょっと!」
言葉を言い終わる前に憂羽は気を失って倒れ込んでしまった。青年は慌てながらも憂羽を抱きとめゆっくり寝かせようとする。
「んーこれは、起きるまでまつかないよね。しょうがないな。」
苦笑いしながら優しく布をかける青年。食事の用意の途中のだったらしく、規則正しく息をしている憂羽の横で用意の再開をしていた。
はじめまして、結城奈々です。
初投稿作品を読んでくださりありがとうございます。
色々至らない点があるともいますが今後ともよろしくお願い致します。